第11話 散髪と歯科検診

 風呂から上がった俺は身体中がポカポカする所為せいか、『かまくら』にある寝室のベッドの上でグッタリと横になっていた。


「いかん、このまま寝たい。ウォーダナ師や同僚たちも寝てるだろうしな……」


 俺やマーちゃんが余裕を持ってこんなことをやっていられるのには理由がある。

 この迷宮内において、起きて活動している魔導師はジョッシュさんだけだったのだ。

 ジョッシュさんの記憶によれば、他は『命の雫』を飲んで数年の眠りについているらしい。


 ジョッシュさんの記憶からは他の情報も読み取れた。

 ここは迷宮の地下5階フロアであり、悪魔郷士アークデーモンやら、その配下の大型悪魔グレーターデーモン中型悪魔レッサーデーモンなどが徘徊はいかいしているものの、部屋までは入って来ない様になっている。

 また、ウォーダナ師の弟子のうち、死霊レイス亡霊魔導師ワイトと化した連中は4階にいて、ここまでは降りて来ることが出来ない。

 そんな理由により保管庫アイテムボックスの内部を除けば、今は最初の石の部屋の中が一番の安全地帯になってしまっていた。


 また、迷宮には昼夜があり、外の世界と完全にシンクロしている。

 天井が明るい間は昼、暗くなれば外部も夜ということになる。つまり今は昼なのだ。

 さらに4日に1回は雨も降るようになっているときては芸の細かさにあきれてしまった。

 

「まだ昼じゃあ、寝るのもなぁ……時差ボケになった気分だ。人間に戻ったのに食欲もわかない」 


 主体性が無い、という自覚はあるものの、こうなってはいたかた無い。マーちゃんに相談である。

 俺はベッドからもっさり起きるとかまくらからフロアに出た。

 ちなみに今の俺のかっこうは紺色のジャージの上下に茶色いサンダルになっている。身体はイケメンのジョッシュさんなので違和感が凄い。




「良いタイミングだ。そういうことなら歯科検診と健康診断とついでに散髪もやっておくから、その間にシゲルは寝ておくがよい!」


 その様にマーちゃんには言われてしまった。

 いつの間にか『かまくらハウス』の前には周囲に機械類がもっさりとくっついているゴツいリクライニングシートが用意されていた。座り心地は良さそうだ。

 アレに座って寝ておけ、と言われているのだ。全ては眠っている間に終わるらしい。


「マーちゃん、ここは明る過ぎて寝るに寝られないよ……」


 この保管庫アイテムボックス内の不思議空間では1000メートル上空に天井がある。そこからは自然光が降り注いでいるのだ。

 ひょっとして夜もあるんじゃないかと思う。


「よく気がついたな。実は4日に1回のペースで雨も降るのだ。今は特別に暗くしておこうか? それとも睡眠薬の方が良いかな?」


 マーちゃんに聞いたところでそういう答えが返ってきた。ここもか……。


「睡眠薬はきそうにないんで……環境音楽でも流してもらえないかな。それとアイマスクがあるとありがたいんだけど」


 折角いろいろやってくれるというマーちゃんに、俺は遠慮がちに頼んでみた。


「その手もあったな。分かった。本当に寝てしまって大丈夫だからな。そういえば麻酔も効きそうにないな。歯を削る時に麻酔無しというのはちょっとレベルが高いが、ここは私の先進医療知識を信じてもらいたい。大丈夫だ、痛くない!」


 ジョッシュさんに虫歯がある可能性について、俺は完全に失念していた。

 いや、この人は400年を生き抜いてきたというし、そういったこともすで克服こくふくしているのではないだろうか。

 俺はイケメンの万能性というものにけてみることにした。そうするしかない。

 それにマーちゃんなら、歯科検診だって宇宙時代レベルであるに違いない。

 とにかく色々とあきらめて、覚悟を決めた俺はそのリクライニングシートに座って目を閉じた。



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