第16話 分岐性のアルゴリズム5
高見がサラッと発した一言。
ー見たかもしれんー
はかなり大きな功績と言えるのかもしれない。今まで、生き残る事に何よりも着手していたから見落としていた点でもある。たとえそれが断片的でもいいんだ。特徴を掴んだっていうこの事実が素晴らしいから。
「顔、見えたのか?」
「ああ、僅かにだけど見えたんだ」
「どんな顔だった?」
「......」
高見は下を向き暫く沈黙した。そして、重い口を開くこになった。
「......クラスメイトのアイツに似ていたよ」
クラスメイトに似ている。まずはその情報を手にいれた。クラスメイトが犯人の可能性が出てきたのが意外だった。
「沖橋にそっくりだった。」
沖橋。容疑者として要約最初に名前が出た人物。沖橋は高見とある程度の仲がある人物だ。
わかりやすく言うと、あの最初の高見の股間を蹴り上げた人物だ。
「じゃあ、犯人は沖橋か?」
「いや、断定もしたくは無いんだけどな俺もよ。仮にもある程度交流がある相手が犯人かもしれないだなんて、そんな事、信じたくなんか無いだろ。」
「だが、結局のところ、見たのだろう。そうなれば残念なことに可能性が一番高い」
「......。だが、どうしようも無い。俺はどうせ覚えていないのだからな。」
確かに、覚えている保証はない。無いが強烈な思い出としてこの出来事を脳裏に刻む事が出来れば記憶を維持する事が出来るかもしれない。
「.....少し、世間話でもしようか」
「......ああ。」
なんと悲しいことか。死を長く待たなければならないなんて俺は望んでなどいなかった。しかし、俺が出来ることと言えばそれだけであった。
俺は高見と少しの世間話をした。昔の事、将来の事。そして、これからの事についてだった。時折、高見が見せる無念の表情を見ると、俺は胸が熱くなる気持ちにへとなる。
そして、辺りはすっかり夜になり、空に星屑たちが現れ始めた。
「......こんな満天の星を見たのは中学生ぶりだ。」
「ああ、あの時だよな。皆んなで夏の大三角形を見に行ったんだよな。」
「そうそう、結局皆んな星に疎過ぎてどれが夏の大三角形か分からなかったけどな。」
「確かに、ウケるな。」
俺たちは宙を見ている。仰向けになり、寝転がっている格好になった。小さな思い出話と、かつてあった筈の退屈なようで充実している様な日々を思い出していた。
「......さっきは突っかかってすまん。」
「いや、お前が謝る必要はない。伝えなかった俺の責任でもある。」
「......力になるかどうか分からないが、俺も協力したい。もしも、俺が次のループの時に覚えていたらの話だけども。」
希望は捨ててはない。玲も俺も、覚えている。そんな人間がもっと増えてもおかしいことではないだろう。
「......このループが終わったら皆んなで星を見に行こう。展望台に登って皆んなで夏の大三角形を見つけよう。」
「ああ、この夏に絶対に見に行こう。そんでもって、もう一度あの時の、幸せを噛み締めねぇとな。
しかし、俺たちの話の途中に不可解な音が聞こえた。
「-.../.-.-./-.-./.-.-./-.../..-./.-../.-」
「おい、なんか聞こえないか?」
「あれは、モールス信号かもな」
何度も何度も、そのモールス信号は同じ音を鳴り響かせ、俺たちへと何かを伝えている。
それも俺にしか聞こえないモノでも無い。高見も同時に聞こえているのだ。
「おい、高見。これ解るか?」
「まあ、一応にはモールス信号の勉強を昔していたからな。耳を澄ませて聴いてみれば意味がわかるかもしれない。」
もう一度モールス信号が鳴り響き、高見が解読を試みている。
一体こんなところで誰が何の為にこんな信号を送り続けているのか。理解し難かった。
すると高見は暗号を解読する事に成功したのかして、少し顔色を変えてこちらに振り返る。
「ど、どうだった?」
「........ハンニンハチカイ」
その言葉を聞いた俺は確信した。
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