第54話 ドットーレ
時系列はエレナとアンリエッタがドットーレに襲われた時まで戻る。
「ドットーレ……はじめまして。私があなたのマスターだよ。一緒に世界を救おう」
その一言と共に私は目を覚ました。目の前の少女……ロキが私を作り出したマスターであり、私は魔王を倒すために彼女に作られたのだと理解する。
そして、私はマスターであるロキの他に他の勇者トオルと聖騎士アテナと共に魔王スルトを倒すための旅に出た。
ゴーレムである私は使い捨ての道具にはちょうどいいのだろう。そう思っていたのだが……
「ほら、見てよドットーレ。花畑だよ。野生なのにとってもきれいだね」
綺麗に咲く花々には私を連れて行き、一緒におどり……
「これを食べてごらんよ。ちゃんと君には味覚をつけてあるんだ。絶対美味しいよ」
地方の村の名物が売られている屋台を一緒に巡ったりもした。まるで普通の仲間に接するような彼女に一度だけ疑問に思ったことがあり聞いてみたことがある。
『マスター。私は魔族を倒すために作り出された存在です。このような娯楽を経験することは不要では……もしや、ボッチだから私と一緒に……』
「ちがうよ!? 失礼な子だなぁ!! 君は魔族を倒す仲間なんだ。だから、つらいことだけじゃなくて楽しいこともいっしょに経験しようよ」
私の言葉に顔を真っ赤にしながらもそんなことを言うマスターにないはずの心が熱くなったのは今でも覚えている。
それから私は他の仲間たちにも積極的に声をかけるとみんな最初は驚きつつも優しく迎え入れてくれた。
そんなマスターがある日悲しそうな顔をしているのがわかったので声をかける。
『どうしましたか? 何かつらいことでもありましたか?」
「それは……なんでもないよ」
明らかに強がっているのが分かったので私は嘘なきをする。
『なるほど……ゴーレムなんぞに悩み事ははなせませんもんね……所詮私は戦うだけどの道具。使い捨てなんです気にしないでください」
「その言い方は卑怯じゃないかなぁ!!」
思わずほほを膨らませるマスターに可愛いなと思いつつ私は彼女がぽつりぽつりと語り始める。
「ここだけの話にしてね……私ね、アテナの事が好きなんだよね……まあ、女の子同士だからさ。うまくいかないのはわかっているけど、ああも露骨にトオルのことを好きだっての見せられるとつらいなぁって思ってさ……」
しょんぼりとベッドに腰掛けて涙をこらえているマスターを見ていると私まで悲しくなってくるか不思議である。
だからだろう。思わず私はだきしめていたのだ。
「ドットーレ?」
『マスター。寂しいならば私をお使いください……私ならあなたが夜な夜な書いていた「女騎士と悪の女魔法使いプレイ」も再現することが可能です』
「待って? なんで私のメモ帳をしっているの?」
そのままマスターをベットに押し倒して色々と経験したこともおぼえている。そして、無事に魔王を倒した私たちは褒賞をもらうことができた。
だが一つだけ問題があった。
魔王スルトの持っていた魔剣の処理である。この魔剣は強力な力を与える代わりに持ち主の魂を喰らうのだ。そして、完全に喰われた人間は魔剣のなすがままになってしまうのである。
しかも、非常に強力なため破壊することもできない。聖女でもいれば話は別なのだが……
「ならば、そのゴーレムに見張りをさせればいいのではないか?」
ある日一人の貴族が言うと皆がそうだそうだと同調する。もちろん、一緒に旅をした彼らは止めてくれたが、私のせいで迷惑が掛かるのが嫌だったから引き受けた。
そして、城から少し離れたところにある建物に剣と共に私は封印されることになった。
「では、ロキ様お願いします」
「……ドットーレよ、いつかこの剣を使いこなせる強いものが現れるまで、守っていてください」
『はい、お任せください。マスター』
悲痛な顔をして命じるマスターに笑いかけたがうまく笑えただろうか? そして、私は建物の中で魔剣レヴァーテインを守ることになったのだが……
『マスター、さすがに二日に一度こちらに来るのは問題では?」
「いいじゃん。城はかたっくるしいんだよ。それより聞いてよ。今度は遠征だってさ。お土産買ってくるから楽しみにしててね」
そんな風にマスターがしょっちゅう遊びに来るのでつらくはなかったし、時々トオルやアテナも来てくれたので寂しさはなかった。
だけど、それも長くは続かない。
『ロキ様が戦争で重傷ですか……?』
「ええ……周りは敵にかこまれているらしいの。助けにいくつもりだけど、あなたもどうかしら?」
『もちろ……』
すこし歳をとり大人の女性となったアテナ様の言葉に行くと答えようとした私の頭に声が響く。『……ドットーレよ、いつかこの剣を使いこなせる強いものが現れるまで、守っていてください』
そうだ。マスターの命令を守らねば……
『いえ、私はここを離れることができません』
「そう……残念ね……」
悲しそうに踵をかえす彼女に声をかけたかったが声が出ない。ああ、そうだ。ゴーレムはマスターの命令には絶対なのだ。
そして、数日が立った。
「ドットーレ……、ロキは何とか助けられたけど、重症なの。お見舞いに一緒にいかない?」
「……申し訳ありません。私はここを離れることはできません」
本当は行きたかった。彼女のそばで看病したかった。だけど、そのたびに脳内に声が響く。
『……ドットーレよ、いつかこの剣を使いこなせる強いものが現れるまで、守っていてください』
それは呪いだった。私を蝕む呪いだった。看病をしたかったがここから出ることができなかった。せめて墓参りをしたかったがここからでることができなかった。
誘ってくれるアテナ様やトオル様に断ることしかできない私が悲しかった。そして、彼らが寿命で死ぬと、誰も訪れる者はいなくなった。
寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。寂しい寂しい寂しい。
だが、外に出ようとするたびに脳内に声が響く。
『……ドットーレよ、いつかこの剣を使いこなせる強いものが現れるまで、守っていてください』
そうして私はずっと魔剣を守り続ける。人間だったら狂えるのにゴーレムであるがゆえに狂うことすらできない。
時間の感覚もなくなったころだった。二人の男が訪れてくる。
「お前は一体何者だ!! 僕は英雄だぞ!! その剣にふさわしいのは僕以外いないだろう!!」
『自己紹介が遅れました。私は『ドットーレ』。賢者ロキ様が作ったマジック―ドールでございます。主なお仕事はロキ様のサポートとご奉仕、そして戦闘ですね』
カインとなのる男は期待外れもいい所だった。彼を倒しもう一人の男を処理しようとして……その姿が一人の少女に変わっていることに気づく。
『まさか……マスター……?』
「うん、そうだよ。ドットーレ。その剣をこの人に渡してちょうだい。それで、私のために再び戦ってくれるかな?」
それはありえないことだった。だって彼女はとっくに死んでいて……嬉々とした表情で自分に道具のように戦えなどとは言うことはなかった。
だけど、私は……
『わかりました。マスター。なんなりと命じてください』
それでも嬉しかったのだ。偽物でも嬉しかったのだ。目の前にマスターがいてほほ笑んでくれるという事実が……
そうして私は目の前の……偽物だとわかっている相手の部下になった。
そして、マスターの命令で私はアンリエッタというどこかアテナ様と似た少女と共に魔族を探すことになった。
彼女はゴーレムである私にもきにせず接してくれるため好意的に思う。ただ、顔色が悪く、精神が少し荒れていそうなのが心配だった。
「少し夜風に当たってくるわ」
『わかりました。冷えるのでお気をつけて』
昼間に魔族とその仲間と戦かった後に野営地で休んでいるとアンリエッタが外へと出ていく。気分転換ができていればいいのだが……
「私は私でできることをやってきましょう……」
対魔族ゴーレムである私には探知能力もついているのである。精神を集中し、探知すると微細だが、魔族らしき力を感じる。
『魔族だ!! 倒さねば!!』
慌てて目を開いた私はアンリエッタさんを探すも近くにはいないので一人で行くことにする。
勝ち目などどうでもいい。それよりもマスターの命令が絶対だからだ。そうして急いで向かった先で私は意外な人物にあうことになる。
アンリエッタさんである。エルフの女とにっくき魔族と一緒にいるのだ。
「違う!! ドットーレ―。私の話を聞いて!! あなたは話せばちゃんとわかるゴーレムだって私は知っているわ。わたしたちははめられたのよ」
『アンリエッタさん。申し訳ありませんが、マスターの命令が絶対なのです!!』
邪魔するエルフを倒そうとするとアンリエッタさんが悲痛な声で叫ぶ。ああ、だけどなぜなろう……彼女の表情は私を心配するアテナ様と似ていて……胸が痛む。
そして、衝撃に耐えられなかった地面が崩壊していき私たち三人は落下していくのだった。
★★★
次はアンリエッタとエレナがどうやって応援に来たかの話になります。
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