第44話 アンリエッタの疑問

 時間は少し戻りエレナとファントムが旅立ち少し経ったときまでさかのぼる。



「久しぶりだね、アンリエッタ。元気そうでなによりだよ。手紙を送ってもろくに返ってこないから心配してたんだよ」

「別に大丈夫。久々の戦いで疲れただけよ」



 王城にて秘密の話をするための会議室に呼び出されて待っていたのはかつては友情を感じていたが、今は嫌悪感しか抱かないカインだった。



「今は潜伏しているみたいだけど、君やあいつの領地に魔族が現れたんだろ? やっぱり危険だよ。今からでも遅くない。僕のもとに来るんだ。辺境の領主なんかよりも良い暮らしができることは保証するよ」

「悪いけど、私はあの生活を気に入っているのよ」



 心配しているといった声でこちらの肩を抱こうとするカインの手をかわし断る。欲望に満ちた目を向けてくる彼に寒気が隠せない。

 そして……この男は何もわかっていない、私は良い暮らしがしたいから領主をやっているわけではないのだ。自分が育ち、自分を支えてくれた領地を守りたいからこそこの道を選んだのだ。

 たとえ自分の大切なものを裏切る結果になっても……



「ふぅん、まだファントムのことが忘れられないのかい? わかってるんだろ、あいつにとって君はどうでもいい存在だったんだよ。だって、本当に大切ならあの後に君に会いに来たはずだろ? 今頃ほかの国で適当な女と仲良くやっているさ。だから……」

「私を呼んだのはそんなことを話すためではないでしょう!! 国内に現れた魔族をどうするかを話し合うって聞いているわよ!!」



 悪手だとわかっていた。だが、私は声を荒げざるおえなかった。 だって、カインの言ったことが私がずっと頭によぎっていたことで……つい、最近そうだと確信してしまったことだったからだ。

 だって、本当に私を大切に思ってくれていたのならば追放された後にも話を聞きにきてくれたのではないだろうか?


 ううん……違う。最初に裏切ったのは私だ。領地と板挟みになったからとはいえ、彼を後回しにしたのは事実である。だから、彼は私を信じてくれなくなってしまったのだ。それでも、彼が無事ならばそれでよいと思った。だけど、再び会った彼は私に剣を向けて……ほかの人のために時間稼ぎをしていた。

 そして彼を傷つけてしまったことを思い出すと後悔と絶望で胸がずきずきと痛んで、吐き気が襲ってくる。



「ひどい顔をしているよ。気分が悪いんだった僕の部屋で休んできなよ」

「大丈夫だといっているでしょう……」

「待たせましたな。お二人ともおそろいのようで」



 再びカインが肩に手をまわしてきそうな時だった、扉が開いてヨーゼフとフードをかぶり顔を隠した謎の人物が入ってきた。



「ち、いいところだったのに……」

「魔王殺しの英雄であるアンリエッタよ。再び国のために働いてくれて感謝する。約束は守るから安心したまえ」



 舌打ちをするカインを無視してヨーゼフはアンリエッタに意味ありげな笑みを浮かべる。

 なんとか感情を出さないようにしている彼女の反応を楽しむように眺めながら言葉を続ける。



「領内に出た魔族の目的だが、おそらく魔王殺しの英雄であり王子であるカイン様だと考えられる。大体の位置は把握してすることに成功した。王城にて精鋭の兵士と共にカイン様は迎得る準備をしていただこうと思う」

「僕は別に狩りにいってもいいんだけどね。今の僕にはその力がある」

「……」



 鞘に入った見慣れぬ剣の柄を叩いて得意げにアンリエッタに微笑んでいくカイン。

 だが、彼女はそんな彼なんて視界に入らないとばかりにヨーゼフを見つめていた。


 おかしい……さすがに用意が周到すぎるわ……


 そもそも魔族というのは簡単に探知できるものではない。だから魔王を倒す旅ではエレナやセリスたちは常に魔法を使って警戒していたし、魔力探知できる魔道具はあるがとても高価なのだ。

 それを国境の近くに設置していた上に、こうして遠くの魔族の存在も探知できている。まるで、これから魔族が襲ってくるのがわかっていたかとでもいうように……


 最悪の考えに至ったアンリエッタは疑問におもったことをさとられなれないように意識しながら口を開く。



「それでは魔族の脅威に民衆がさらされます。私ならば魔族相手でも後れは取りません。居場所がわかっているのならば先遣隊として向かわせてください」

「アンリエッタ、それじゃあ君が危険すぎる!!」

「ほう……自ら危険な役目を名乗り出るとはさすがは魔王殺しの英雄ですな」



 カインが驚きの声をあげて、ヨーゼフがにやりと笑うが、アンリエッタとて彼らの操りに人形になるつもりはない。



 己の疑問とファントムの言ったことを見極めよう……そう思ったのだ。彼が味方をした魔族が本当に悪なのかを……そして、真の敵は誰なのかを……




 正直この国は魔王の被害にあっていたため、魔族は恐怖の対象だ。だが、もしも、まともに話し合いができるならば……ファントムの言う通りに良い魔族がいるのならば……魔王殺しの英雄であり、貴族である自分の名声は使えるはずだ。

 彼を裏切ってしまった自分のせめてもの償いにもなるかもしれない。



「ですが、さすがのアンリエッタでもどれくらい強いかわからぬ魔族が相手では荷が重いでしょう。こいつを連れていくといい」

「悪いけど、中途半端な人間じゃ魔族の前では……」

『心配は不要です。私は『ドットーレ』。賢者ロキ様が作ったマジック―ドールでございます。強さは……うん、そうですね、あなたと同じくらいでしょうか?』

「ロキ!? あの魔王殺しの賢者の殺戮人形なの!?」



 はらりとローブを脱いで無表情にうなづくドットーレにアンリエッタは驚愕の声をあげる。英雄譚が好きなアンジェに付き合って色々なものを呼んでいた彼女はロキを知っていた。そしてその創造物である殺戮人形の強さも……



「わかりました。私は出発の準備をします。それでは失礼します」



 彼らはロキの遺物を手にしたのだ。そうなるとカインの剣もただの剣ではないだろう。ひょっとしたらロキが封印した魔王の剣だったり、作り出した魔剣かもしれない。

 このことをファントムたちに伝えないと……



★★


「おい、アンリエッタ!! 無茶をするなって!! ああ、もう僕と一緒に城で迎え撃つんじゃないのかよ。これじゃあ仲良くなれないじゃないか?」



 しょうもないことを言ってアンリエッタを追いかけるカインを見て人間は本当に面白いなとヨーゼフは……いや、オセは思う。



「あんな女権力を使えばすぐにものにできるというのに……恋してもらいたいなどと実に非効率で……面白い」

「……」


 くっくっく、と笑うオセにドットーレは何も答えない。ただ何かを期待しているかのように見つめているだけだ。

 そして、オセは次の作戦を進めるために魔法を使う。かつての魔王スルトの部下をしていた時に見たことのある一人の人間の少女の姿に変化した。



「ああ、マスター!! マスター!! 命令をください!! 私はずっと守っていたんです。あなたの命令で魔剣をずっと守っていたんですよ」



 先ほどの無表情が嘘であるかのように、ゴーレムでありながら人のようにハイライトの消えた目で満面の笑みを浮かべて抱き着いてくるドットーレの頭をなでながらロキに姿を変えたオセは命じる。



「私以外の魔族を見つけたら問答無用で殺しなさい。アンリエッタが何を言おうが無視をするの。わかったわね」

『はい、マスター!!! あなたの命令は絶対です!! 私はあなたに従います!! だからまた抱きしめてください!! ほめてください!!』


 アンリエッタが何をかんがえているかまではわからないが、余計なことをさせる気はなかった。

 これで魔王は殺せるだろう。なぜならばソロモンは魔法しか使えないのだ。厄介な、ファントムはすでに国外に追放しているし、カインはこちらの陣営の仲間だ。アンリエッタ以外はドットーレの相手ではないのだから……





★★


「私は正気に戻った!!」 アンリエッタちゃんはどうなるのか?


むちゃくちゃわかりにくいので補足。

魔族を探知する能力。


セリスとエレナは魔力を察知できるけど、全力を使ってもせいぜい小さな村くらい。ただし相手が隠ぺいしていたらかなり近くないと無理。

オセに気づけなかったのは王がいる城で魔法を使えば敵意があるとみられるから使わなかった。


ファントムは視界に入っているとわかる。


ソロモンは同じ魔王の力をもっているオセがいる場所なら同じ世界にいるなら大体の場所はわかる。


わかりにくくてすいません。


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