そのバズいただき!~ダンジョン配信が人気の世界なので、切り抜き動画で大儲けを狙います~

乙鋸数奇

春乃加田悠は切り抜き動画で稼ぐ※尚

第1話 この世界の常識

「なぁなぁ、ブレイバーズの配信見たか?」

「見た見た!すげぇ攻撃だったよな、アレってスキルか?それとも魔法なのかな?」

「わっかんねーけどとにかくど派手だったよな!」


 ざわざわと、帰りのHRを終えた教室でクラスメイトの男子達が盛り上がっている。


「セブンナイツ、ホントイイ……赤の騎士格好良すぎる……」

「分かるー。あおきー(青の騎士)との呼吸合いすぎ、最高っ」

「おっと、勝手に組み合わせるのはナンセンスよ~。というわけで紫×赤が至高」

「あ?」

「お?」

「は?」


 和やかに進んでいるように見えて、男子生徒のみならず女子生徒も熱く語り始めている。

 現代において、これはどこでも見られる光景だった。

 高校生に限った話ではない。子供も、大人も誰もが目を離せない。

 そう、から。


 数十年前に世界に発生した謎の構造物・地下空間・扉。

 そこは正にゲームのような『ダンジョン』であった。

 化物が住まい、徘徊する危険な迷宮、しかし同時にそこは未知の資源に溢れた金脈でもあった。


 人類は総力を挙げてダンジョンに挑んだ。

 敗北も、勝利も、絶滅の危機も、新たなる進化もあった。

 これまでの常識は通じず、武器も兵器も通用しない。


 しかして人類は新たな力を手に入れる。

 空想の如き不可思議な異能――スキル。

 世界に干渉し自称を変える理外の力――魔法。

 力によって、ダンジョンと人類とのかかわり方は変わった。

 それは、ダンジョンを攻略・踏破する人類の登場……ではない。

 人類の意識が変わってしまったのだ。

 

 ダンジョンに挑む人間は優れている。

 そこで結果を残すことは素晴らしいことである、といった具合に。

 それは、ダンジョン探索の様子を動画化することができるようになって、さらに加速した。


 今や、最も人気のある職種、誰もが憧れる理想の姿。

 それこそがダンジョン配信者である。

 自らの命を懸けてダンジョンへ挑み、その様子を配信する。

 そして、民衆はその動画をみて熱狂し、応援する。

 若しくは憧れて、自分もまたそうなりたいと志す。

 それが、当然。当たり前の世界。

 

 そんな中で、クラスメイトの喧騒に流されずボケーッとスマホの画面を眺めている生徒、春乃加田悠はるのかたゆう

 彼は、


(ブレイバーズもセブンナイツも最近あんまり伸びないんだよな……)


 クラスメイト達が話題に挙げる探索者達の配信動画をチェックして、その探索内容ではなく


(とりあえずビジュアルだけで回る可能性の高いセブンナイツはキープ、ブレイバーズの必殺技は……今回はスルーでもいいか)


「んじゃ皆またあしたー」

「おう、ゆうまたなー」


 クラスメイトに別れを告げ、帰路につく。

 そうして駅のホームについて、ゆうは再度スマホを確認する。


(おお、六花りっかの動画滅茶苦茶バズってる!これは相乗効果狙えるな……!)


 またしても、世間の常識、普通とは違う思考をする悠。

 容姿のみならず、キャラクター性にも優れ、ユニークな探索を行うことで人気を博している女性探索者集団、六花りっか

 彼女達の活躍は、その動画の面白さ、興味は引いたとしても、探索者としての憧れという点では、ブレイバーズには遠く及ばない。

 セブンナイツが女性に人気があるのは、その強さ、探索難度の高さ故であるため、彼女たちは探索者として相当に異端であった。

 そのため、こういった悪口が聞こえてくることもある。


「んげ、六花りっかがまたSNSでトレンドに上がってるじゃん」

「あーまー、可愛いし面白いからしょうがないっしょ」

「いや、可愛いのも面白いのもわかるけどな~」


 電車に乗り込み、扉脇に陣取るゆう。その対面の男性二人が、丁度六花りっかを話題にしていた。


「ああいうのは邪道っしょ、っぱ探索に命かけてナンボでしょ、ダンジョン配信者は」

「まー、分からんでもない」

「難易度低いダンジョンであれこれやって話題になってるってのが気に食わない」

「それなー」


(いうてしっかり動画見てるんだよなー、その時点で六花りっかの手のひらであるのだ)


 不満を持つ男性の話に聞き耳を立てながら、心の中でゆうはそう結論付ける。

 ダンジョン探索者としては王道とはほと遠かったとしても、話題になり、人気があり、再生数が回る……収益を得られる。

 それは勝ちであると、ゆうはそう考える。


「それにさー、六花りっかって配信動画切り抜き推奨だろ」

「確かにそこは俺良くないと思うわ」


(……へぇ)


 六花りっかへの悪口ついでに我慢できなくなったのか、ダンジョン配信動画の切り抜きに対する不満を語り始めた男性達。


「自らダンジョンに挑むでもなくダンジョン配信者ぶる切り抜き投稿者は害悪としか言いようがないからな」

「確かに、それを推奨してるとなるとな……推奨するやつがいるから切り抜きがなくならないわけで」

「それな、ホント害悪だよ、まったく」


(別に害悪でも嫌われていたとしても俺は全然気にしないので好きなだけわめいとけって感じだな)


 それらの言葉を軽く流して、ゆう六花りっかの動画を確認し始める。


(バズと関連性の高い部分のチェックと、出来れば今日だけで1本は切り抜き作っておきたいな)


 嫌悪感を示され、人によっては強烈な否定を食らいかねない切り抜きであったとしても、ゆうは気にしない。

 話題になり、興味を引き、再生数が回って、収益が得られる……ならば何も問題ない。


 開いたドアから降りながら、どんな切り抜き動画なら再生数を稼げるか……と考えるゆうなのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る