第16話 スイ救出戦

「アモルくん! フウ! スイがさらわれたー!」


屋敷から駆けてくるゴンノスケの発言にアモルたちは驚く。

今しがた、フウを助けてきたと思ったら今度はスイがさらわれたと聞けば誰でも驚く。


「ゴンノスケさん、どういうことですか。スイ先輩がさらわれたって」


「……スイは屋敷で介抱されていた。父様と母様がいたのにさらわれたの?」


フウがもっともな点を付く。

姉妹の父、ゴンノスケはモンスターをも蹴散らす猛者。

姉妹の母、エリスもフウによると高い魔力を持つはずとのことだ。

そんな二人がいる屋敷からさらうのはそうそうできるものではないはずだが……。


「それが……。奴は突然、スイを寝かせていた部屋に現れたのだ。

 ワシが気配を感じず、我が妻エリスの屋敷防衛システムにも反応せずにな」


「そ、それで、スイ先輩は?」


「スイをさらったあの者は、スイを抱えたまま消えてしまった。

 ……この手紙を残してな」


ゴンノスケは懐から一通の手紙を取り出す。


「アモルくん。君にだ」


「僕に……?」


アモルは手紙を受け取り、それを読み始める。

そしてすぐに、手紙を鋭く睨みつけた。


「アモル、大丈夫?」


「……その様子。もしかして」


シオンとフウの方を向いてアモルは呟く。


「スイ先輩をさらったのは……アーマだ」


「アーマ!」


「……やっぱり」


アモル、シオン、フウはそれぞれ思い出す。

少女の姿でアモルに近づき、『大災厄』を起こした張本人。


「そ、それでアモルくん。そのアーマとかいう奴は手紙になんと?」


ゴンノスケの問いに、アモルは屋敷からも見える学園を見つめた。


「な、なんと。あの学園跡にスイは連れ去られたと……?」


「手紙が罠じゃなければそうです。……ゴンノスケさん」


「お、おう」


「僕は今からあそこに向かおうと思います。屋敷に戻っていてくれませんか」


「し、しかし、スイの救出ならワシも――」


「エリスさんを一人残す気ですか?」


「む……」


アモルの言葉にゴンノスケは頷くと、屋敷の方へ引き上げていく。


「シオン。フウ先輩も。行くよね?」


「もちろん」


「……スイは姉妹。もちろん行く」


「よし」


三人は学園跡に向かい駆け出す。

その後ろに一人、別の人影が付いて行っていることに気づかずに。




数日後、アモルたちは学園跡に無事ついていた。


「無事、モンスターには襲われずに来れたけど……」


三人は改めて、目の前の学園跡を見上げる。

元の学園の面影はほぼない。あるとしたら見上げるほどの建物くらいか。


「校舎だったところがほとんど闇に包まれてる……」


その威容にさすがのアモルもわずかに怯む。

その時だった。


「よく来たわね。アモルくん?」


アーマの声が響く。その声は大人の女性の声にも、アモルたちを騙していた少女の声にも聞こえる。


「アーマ! どこだ! スイ先輩を返してもらうぞ!」


「フフッ、どこって――」


アモルの背筋に悪寒が走り、瞬時に振り向く。

アモルたちの背後に、先程まではいなかったはずのアーマが、空中から見下ろしていた。


「あら、気づいちゃった。気づかないまま冥府に送ろうかと思ったのに」


アーマの両腕には死神のような大鎌が握られ、もう少しでアモルたちは背後から刈られるところであった。


「アーマ……!」


「……」


シオンとフウもアーマを強く睨む。

アモルはアーマに対するように戦闘の構えをとるが……。


「あら、いいの? 私ばかり見ていて」


「何? ……っ!?」


アモルの目がアーマの後方を見つける。


「スイ先輩!」


「「えっ!?」」


シオンとフウも、アモルの視線の先を追う。

そこには、磔にされモンスターに囲まれているスイの姿があった。


「ほーら、早く助けに行かないとスイちゃんはあの子たちにやられちゃうぞ?」


「!」


アモルは瞬時に動いていた。

アーマの横を抜き、一気にスイの元へ……とはならなかった。


「残念」


「なにっ!?」


アーマの囁きと同時に、アモルは落とされていた。

アーマの持つ大鎌が一瞬で鎖に変形し、アモルを振り落としたのだ。


「こんなもの!」


アモルは足に絡みつく鎖を解くと、シオンとフウに合図する。

二人が頷くのを確認すると、アモルは再度、跳躍した。


「同じことを……」


アーマも再び、アモルに鎖を飛ばす。

鎖がアモルの足に絡まろうとした時、その鎖は弾かれた。


「アモルばかり見てないで!」


シオンが魔法で鎖を撃ち落としたのだ。

さらにそこにフウが魔法を唱える。


「……行って、アモル!」


フウが魔法で突風を起こす。

その風の勢いに乗り、跳躍したアモルは一気にスイの方へ飛んでいく。


「くっ……アモルを逃がしたか」


素の喋り方が出ているアーマ。


「一回、アモルを撃ち落としたくらいで調子に乗るから!」


「……わたしたちいるのに油断した。だからアモルに抜かれた」


シオンとフウが追撃の言葉を入れる。

だがアーマは構わず二人を見下ろし囁いた。


「いいわ。貴方たちを餌に、アモルくんに戻ってこさせればいいのだから」


アーマが鎖を構える。シオンとフウもそれぞれ杖を構えるのだった。




「うおおおおっ!?」


アモルは突風に乗り一気に近づいていた。

だが、フウがどれくらいの出力で魔法を唱えたか知らないが、勢いが強くアモルも止めきれない。


「ど……けえええっ!」


勢いのまま、アモルはスイを囲むモンスターたちに突っ込んでいく。


「ガアッ!?」


モンスターたちも、凄まじい勢いで迫るアモルを避けきれず吹き飛んでいく。


「スイ先輩!」


アモルはモンスターたちが壁になったおかげで、丁度よくスイの前に降り立った。

アモルはすぐにスイの拘束を外すと、急ぎつつも慌てずスイを起こす。


「スイ先輩! 目を覚ましてください!」


「う……ん……」


スイがゆっくりと目を開ける。


「スイ先輩!」


「アモル……くん?」


「はい!」


スイは起き上がりつつ周りを見渡す。


「わたしは……」


「すみません。説明は後です。シオンとフウ先輩と合流しないと――」


「その必要はないわよお?」


「っ!?」


アモルとスイが振り向くと、そこにはアーマが見下ろしていた。

シオンとフウを鎖に捕らえた状態で……。


「シオン! フウ先輩!」


アモルの呼びかけに二人は小さく呟く。


「……ごめん、アモル」


「……この人、強い」


「そういうこと」


アーマは鎖の一部を再度大鎌に戻しシオンとフウに突きつける。


「そっちのスイちゃんを助けるためとはいえ、

 実力もわからない相手に女の子二人だけにしちゃダメよぉ?」


「くっ……」


確かにと、アモルは自分の判断を後悔する。

スイがモンスターに捕らわれていたとはいえ、冷静にアーマを抑えてから行くべきだったと。


「……アーマ。お前の望みはなに」


「うん?」


アモルが問いかける。


「学園をこんなにして、スイ先輩や、今もシオンやフウ先輩を捕まえて、いったい何がしたい?」


「……そうねえ」


アーマはゆっくりと考えてそして言った。


「アモルくんの苦しむ表情を見たいから……かしら?」


「……! 真面目に――」


「真面目よお。信じなくてもいいけど」


アーマは歓喜の表情で話し出す。


「さっきのスイちゃんを見て飛び出す必死さ。今のこの状況で困っているアモルくん。いいわよお?」


「っ……」


「さて、でもこの状況のままじゃダメよねえ。じゃあそろそろやっちゃいましょうか」


アーマが大鎌を持つ手に力を入れる。


「アモルくん? いくら貴方が素早くてもそこからの跳躍より――」


大鎌が振り上げられる。


「――こっちの方が速いわ!」


アモルは間に合わないながらも跳ぼうとする。

だがそのアモルに別の存在が目に入った。


金属同士のぶつかり合う音がし、アーマの大鎌は後方に飛ばされる。


「なにっ!?」


アーマ、そしてアモルとスイも何が起きたかわからない。

だがすぐにアーマに謎の人物が斬りかかる。


(速い!)


すぐにその人物に気づいたアモルは驚いた。

自分と同等……いやそれ以上の速さに。


「くっ……なんなの。なんなのよアンタは!」


激昂したアーマの手刀が謎の人物のフードを掠める。


フードが落ち顔が露になったのはショートヘアの女性だった。

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