第9話 予言者エリス

4姉妹の案内を受け、アモルは屋敷の奥へ奥へと入っていく。


(すごいな……。一人だと迷子になりそう)


迷路のような廊下をひたすら通りながら、アモルは周りを見渡し思う。


「普段はこんな奥までは行かねーけどな」


「お母さんの部屋……『予言の間』だけ奥にあるの」


「予言の間……」


「……着いた」


話している間に大きな扉の前にたどり着くアモルたち。

扉の装飾、意匠、どれをとってもただの部屋ではないと一目でわかる。


「ここが……」


扉の雰囲気、威圧を感じ取るアモル。

4姉妹もめったに来ないのか、部屋の前で固まっている。

そこに――


「よく来ました、『運命の子』アモル。そして、娘たち」


部屋内から透き通った声が届く。


「入りなさい」


「は、はい!」


促されるまま、アモルは扉をノックすると、ゆっくりそっと戸を開けた。

開く音が響く中を、アモルと4姉妹は入っていく。


「失礼します……」


部屋内に入りアモルは思う。

扉の大きさの割に、部屋内はそこまで広くはないと。

そして部屋の中央に、4姉妹の母親であるだろう女性が座っていた。


「改めまして。ようこそアモル」


「!」


女性を見てアモルが第一に思ったこと、それは……。


(美人……!)


4姉妹もそれぞれ違う美しさ可愛さがあるが、

アモルの目の前にいる4姉妹の母親はまた違う美しさがあった。


「おいアモル! 母上に見惚れてんじゃねえ!」


「そ、そうだよ! たしかにお母さん、美人だけど」


「まったく、キミはラヴやシオンというものがありながら……」


「うん……」


「い、いやそういうわけじゃ……」


と言いつつも、アモルの目は泳いでいる。そこに詰め寄る4姉妹。

そこに4姉妹の母が睨みを利かす。


「そこまでにしなさい、娘たち」


静かな、しかし場を一喝する声。

その声に4姉妹だけでなく、アモルも姿勢を正し静かになった。


「では改めて。始めまして、アモル。彼女たちの母、『エリス』といいます」


(エリス……。エリス・エレメント?)


「そうです」


「!」


アモルの心の声を読むように、4姉妹の母、エリスは囁いた。


「……じゃ、じゃあエリスさん。聞かせてくれるんですか。

予言のこと、ボクを『運命の子』『宿命の子』と呼ぶことを」


「ええ」


そう言うとエリスは懐から、何枚かの札のようなものを取り出す。

エリスはその札を並べながら語りだした。


「今から数年前、この『神札』に予言が下りました。数年の後、この大陸に『大災厄』が訪れると」


「『大災厄』……?」


「ええ。天変地異なのかモンスターの襲来なのかはわかりません。

ただ、この『大災厄』によりこの大陸は破滅の危機を迎える、と」


「破滅!?」


アモルの驚きを気にもせず、エリスは続ける。


「ですがその破滅に対抗できる人物が現れる、と出たのです。

異界の記憶を持ち、女神と契約を結んだ男児、と」


「!」


アモルにはその意味がすぐに理解できた。

『異界の記憶』とは元の世界のこと。『女神と契約』はラヴとの契約のことだと。


「オレたちにはさっぱりわかんなかったんだけどよ。母上の札に反応したんだよ」


「アモルくん。キミがね」


「その表情。キミは意味が理解できているようだね」


「ん……」


4姉妹がそれぞれアモルを見る。


「……そこまではわかりました。では『運命の子』『宿命の子』というのは?」


「続けましょう。

その男児は我が娘たちとも契約を結ぶと出ています。これが『運命の子』

そして――」


そこでエリスは一瞬口を止めた。


「――そして運命の子の選択は『大災厄』に影響し、大いなる運命の渦となる。

……これが『宿命の子』の所以です」


エリスは札を懐にしまうと一息をつく。

それを見ながらアモルは、先程の一瞬口を止めたのが気になり問う。


「その宿命の選択というのはわからないんですか」


「……ええ」


少し間を置いた回答に、アモルは何かあると感じ、仕方なく質問をやめる。


「終わりですか……?」


「そうですね。予言の方は」


そう言うとエリスは娘たち4姉妹を見る。

その目は暗に出て行けと言っているようだ。


「出て行けってよ。行こうぜ」


「……うん」


「ま、またね、お母さん!」


「お元気で」


4姉妹は先に部屋を出ていく。

静かな部屋にエリスとアモル二人きりになり、アモルは緊張する。

すると、エリスは大きく息を吐き……。


「ふぅー! 疲れたぁ!」


と、大きく口を開いた。


「え、え?」


突然のエリスの変化に、アモルは驚きを隠せない。


「ああ、アモル。すまない、驚かせたな」


「は、はあ……?」


「これが素の私だよ。さっきまでのは客向けに演じてるだけさ」


その言葉に、アモルは一つ疑問を投げる。


「先輩たち……いえ、娘たちにもですか?」


「……そうだね。娘たちにもいずれこの私を見せないとね」


その表情はどこか悲しげに見えた。

だがすぐにちょっと邪悪な笑顔を浮かべ、エリスはアモルに近づき囁く。


「ところで……娘たちで誰が一番気になる?」


「えっ!?」


突然の問いにアモルは慌てる。


(確かに先輩たち、みんな可愛いけど……)


「ふふ~ん。ヒノはね、あれで小さいころはね――」


アモルを無視し娘語りを始めるエリスであった。

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