第6話 4属性姉妹と予言と
悪ガキ大将の少年との揉め事はすぐに広まっていた。
もちろん、大将少年が全面的に悪いことには違いないのだが……
「聞いたか? あの4属性姉妹もアモルに味方したらしいぜ」
「本当かよ? ラヴちゃん、シオンちゃん、エレテだけでも許せねえってのに……」
アモルの男子陣からの評判はどんどん落ちていく。
一方で女子陣はというと……
「えーっ! アモルくんが3人を助けてくれたの!?」
「そう、アモル、カッコよかったんだから!」
ラヴ、シオン、エレテの3人は他の女子たちに囲まれ話で盛り上がっている。
「ねえ、4属性姉妹も助けてくれたっていうのは本当?」
「……本当」
エレテが答えると、女子たちは3人を交互に見て、
「またライバルが増えたね」
と小声で言う。
ラヴ、シオン、エレテがアモルを気にしているのはもはや周知の事実であった。
一方、そんなことは気にもせず、アモルは一人昼食をとっていた。
「う~ん。この世界でもカレーライスは美味しい。……うん?」
アモルの向かい側の席に人が座る。それは……
「あ、アモルくん。ここ、いいよね?」
4属性姉妹のスイであった。
「構いませんけど……何か用ですか?」
「ううん? 君と同じく昼食をとりにきただけだよ?」
「そうですか……?」
昨日の今日なので何かあるかと思ったアモルだったが、
スイはそんなそぶりは見せず、アモルの目の前で食事を始めた。
(考えすぎか……)
スイを時々見つつ、アモルはカレーを食べ終える。
「では、お先に失礼します。スイ先輩」
「スイでいいよ」
「そういうわけにも……」
困りながら、アモルは先に食堂から抜け出した。
食堂から出て教室に帰ろうとするアモルが、次に目にしたのは……
「……フウ先輩?」
「すーすー……」
中庭の椅子で寝ているのはフウであった。
「……気持ちよさそうに寝てるな」
と、横を通りすぎようとして、
「……ん」
フウが目を覚ました。
「……」
「……お、おはようございます」
目が合って、アモルは戸惑いつつ挨拶する。
「おはよう。……キミも寝る?」
「え? いや、ボクは大丈夫です。というかそろそろ午後の授業が始まりますよ」
「……そう」
フウはゆっくり立ち上がり、学舎の方にゆっくり歩いていく。
「マイペースというか、のんびりしてるな」
アモルはフウの後ろ姿を見送り、自身も教室に走った。
放課後になり、寮へ戻ろうとするアモルに声がかけられる。
「よう、アモル!」
「あれ、ヒノ先輩?」
「ヒノでいいって。それより今、時間あるか?」
「はあ。ありますけど」
そう軽く返事をしたら、ヒノの体力トレーニングに長々と付き合わされたアモル。
「はあ……はあ……アモル、お前、体力あるなあ」
「ふう……ヒノ先輩も、元気ですね」
アモルは自分とここまで体力が互角なヒノに驚きと尊敬を感じるのだった。
「おかえり」
「ってあれ、アス先輩?」
トレーニングから帰ってきたアモルに声を掛けたのはアス。
「アス先輩、何でここに?」
「君がヒノのトレーニングに付き合ったと聞いてね。ほら」
アスはアモルにタオルを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
アモルは汗をタオルで拭いながら、アスに質問する。
「アス先輩は……いや、あなたたち姉妹は、ボクに何か用があるんですか?」
「うん?」
「昼のスイ先輩から、今日はあなたたち姉妹によく会います。偶然とは思えないんですが」
「ふむ……」
アスが手を顔に当て考えるような仕草をとる。
「スイのような言い方になるが……君が気になるから、というのはどうだい?」
「……本当だったら嬉しいですけど」
「フフ、まんざら嘘ではないさ」
アスは微笑みながら、アモルに背を向け帰って行く。
「あ、タオル……。明日、返すか……」
そして確かに次の日、アモルはアスにタオルを返した。
しかし、それからしばらく間……。
「あ、アモルくん」
ときにはスイに。
「……ん、アモル」
ときにはフウに。
「よう、アモル」
ときにはヒノに。
「やあ、アモル」
ときにはアスに。
アモルは、やけにというほど4姉妹に遭遇し声を掛けられる。
(やっぱりこれはなにかあるな……)
アモルじゃなくても気づきそうなワザとらしい連続の出会い。
さすがにアモルも気になってくる。
(仕方がない……。強硬手段で行くか)
アモルはラヴ、シオン、エレテに相談する。
4姉妹の行動が気になっていた3人も、協力をすぐに承諾した。
その日の夜、寮の4姉妹の部屋。
「今日も特になにもなかったね」
「ん……」
「学園内で何か起こっても困るのだが……」
「そもそも、母上の予言が間違ってたんじゃねえの?」
4姉妹の話し声が聞こえる。順番にスイ、フウ、アス、ヒノだ。
会話に夢中で外の様子に気が付いていないようだ。
「ここが、4姉妹の部屋だね」
「……気づかれてないみたい。ラヴさん、行ける?」
「任せて、愛の女神の力、見せてあげる!」
ラヴが扉の前で指をくるっと回す。
するとカギがあっさりと開く音を鳴らした。
「さすがだね、ラヴ。(愛の女神関係ない気もするけど……)」
後ろにいたアモルがラヴを褒める。ラヴは小さく喜んだ。
「よし、行くよ……!」
4人は勢いよく扉を開けた。
「なになに!?」
スイが驚いた表情で出てくる。
「ラヴちゃん、シオンちゃん、エレテちゃん。それに、アモルくん!?」
「お邪魔しますよ」
「ここ、女子寮」
「要件が済んだらすぐ消えますよ」
アモルはそう言うと、4姉妹の前に立った。
「一応、聞いておこう。ここまでして何故ここに?」
アスが冷静に問う。
「聞かなくてもわかっているでしょう。アス先輩ならわかってるんじゃないですか?」
「む……」
嫌味を含んだ言い方に、冷静なアスも少しムッとした表情を見せる。
「なあ、アス。ここまで来られたんだ。話すしかないんじゃないか?」
壁際にいたヒノが、アスに聞く、と同時にスイ、フウの方も見る。
「……そうだね。アモルくんにも聞いてもらった方がいいかも」
「うん……」
スイとフウも同意する。アスはやれやれと首を振った。
「はあ、そうだね。彼もここまで乗り込んできたし、その勇気に免じるかな」
アスが手招きして、ラヴ、シオン、エレテも部屋に招き入れる。
「さて、何故ボクたちがキミ、アモルに構うか? かな?」
「ええ」
アモルは4姉妹をそれぞれ見て頷いた。
「それにはまず……」
「オレたちの母上の話をする必要があるな」
スイとヒノが話を続ける。
「オレたちの母上はな、この辺りでは有名な予言者らしいんだ」
「予言者……?」
「ああ、オレは信じてないんだけどな。有名らしいぜ?」
「はあ……」
さすがのアモルもその辺りの事情はわからない。
「その母様がね、わたしたちが産まれるときに予言したらしいの。
わたしたちの前にいずれ『運命の子』が現れる……」
「だけどその子は『宿命の子』でもある。という予言だ」
スイとアスが続けた。
「『運命の子』? 『宿命の子』?」
ラヴたち3人はもう訳が分からない。
「……その『運命の子』『宿命の子』というのがボクと関係があるんですか」
「そうだね……」
アスがラヴたちの方を見る。
「すまないが、この先は、できればアモル一人に聞いてほしいんだが」
「「「えー?」」」
ラヴたちは揃って嫌そうに叫んだ。
普段あまり大声を出さないエレテすら。
「……わかりました。ラヴ、シオン、エレテ。お願い」
「むーっ。わかった」
「アモルが言うなら仕方ないわね」
「……後で」
そう言って3人は先に部屋を出る。
「……ラヴやシオン、エレテには聞かせられない話なんですか?」
「聞かせられない、というより聞いてもわからない、かな」
「オレたちもよくわかってないしな」
「うん……」
4姉妹も歯切れが悪い言い方だ。
「キミなら逆にわかると思ってね。先程の『運命の子』『宿命の子』は――」
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