第6話 初デート

「いや~なんかすぐに広まっちゃったね?」


「まあ、手をつないで登校したらそりゃ噂にもなるだろ。もしかして嫌か?」


「う~ん見世物にされてる感はそんなに好きじゃないけど、噂のおかげで秋が他の女に取られる可能性が低くなるっていう点ではありがたいとも思ってるし」


「そんなことあるか?そもそも僕なんか誰も好きにならんだろ。それを言うなら雪音が他の男に取られずらくなって安心してるよ」


 昼休み。

 屋上でいつものように昼ご飯を食べながら今日あった出来事を二人で振り返っていた。


「なにそれ~秋って意外と独占欲強いんだね?」


「かもな。でも、それを言うならお前もじゃないのか?」


「それはそうかもね。でも、しょうがないじゃん。ずっとその、好きだったんだからさ」


 顔を赤らめながら雪音はぼそりと呟いた。

 本当に毎日暴言を言っていた雪音が嘘のような変わりようだった。


「お前本当に雪音か?」


「なにそれ酷い!でも、確かに昔の私からは想像もできないことを言ってるかも」


「自覚あるのかよ」


「まあね。照れ隠しとはいえあんな暴言いうんじゃなかったと今では反省してるよ」


「それは良いことだな。そのまま猛省してくれたまえ」


「はいはい。そんなことより今日の帰りにどこかに行かない?せっかく付き合ったんだしさ」


「いいな。そうしようか。最近雪音と遊びに行ってなかったし僕も雪音とデートしたいし」


 場所はどこであれ雪音とどこかに行くのはきっと楽しいだろう。

 というか、雪音が言い出さなかったら僕から言うつもりだったし。


「秋もそんなことを恥ずかしげなく言うようになるなんてね。ちょっと心臓が持たないかも」


 心臓を押さえながらそういう雪音に微笑みかける。


(いや、すっごく恥ずかしいからね!?表に出してないだけで僕の心臓も破裂しそうだからね!?)


 内心でかなり悶えてるけどそれを表に出さないように表情筋をフル活用する。


「じゃあ、そういうわけで放課後に待ち合わせな」


「うん!待ち合わせって恋人みたいでいいね!」


「みたいじゃなくて本当に恋人だけどな」


「そうだった!あはは」


 笑顔を向けてくる雪音と一緒に屋上を後にする。

 雪音はずっと片思いしてたって言ってたけどそれは僕だって同じだ。

 ずっと好きで、でもいきなり冷たくされた。

 だから、こうやって素直に気持ちを伝え合える関係になれたのがうれしい。

 こんな関係がいつまでも続いていけばいいと思った。


 ◇


「よ~しそれじゃあさっそくデートに行こう!」


「だな。早く行こうか」


 授業が終わり待ち合わせ場所に行くと雪音が勢いよく飛びついてきた。

 勢いが強すぎてタックルみたいだったけどなんとか受け止める。


「今日はどこ行く?」


「う~んあんまり決めてなかったけど秋は行きたいところとかあるの?」


「そう聞かれると難しいな。雪音と一緒なら正直どこに行っても楽しいし」


「嬉しいことを言ってくれるね~じゃあさ今日はパフェでも食べに行きますか!」


「いいなそれ。僕も雪音も甘いものが好きだしいいチョイスだな」


「でしょ~そうと決まったら早く行こう!」


 手をつないでいる手をぶんぶんと振り回して興奮気味に走り出す雪音。

 それに引っ張られながら僕も雪音に合わせて走り出した。


「そんなに走らなくてもパフェは逃げないぞ~」


「わかってるけどさ。善は急げって言うでしょ?」


「それ使い方あってるか?」


「わかんな~い」


 そういえば、昔も良くこんな風に雪音に連れられていろんなところに行っていた気がする。

 雪音はいつも僕のことをいろんなところに引っ張って行ってくれる。

 僕はそんな彼女に惹かれていたのかもしれない。


 ◇


「楽しみだね~」


「特にあのでっかいイチゴのパフェとかな」


 2人で注文を終えて楽しみにパフェが来るのを待つ。

 たまに無言の時間が訪れるけど全く気まずさを感じない。

 何なら一人の時よりも安心する。


「雪音はさ、いつから僕のことが好きだったんだ?」


「え!?なんでいきなりそんなことを聞いてくるの?」


「いやさ、気になったんだよ。雪音って僕よりもいろんなことができるし美人だからもっとスペックの高い男を選べたんじゃないかと思って」


「なにそれ。まあ?確かに私は美人で成績優秀で運動もできる完璧超人だけどさ」


「だいぶ盛ったな!?」


 確かに美人だし成績も良いし運動もできるけど自分で言うのかそれを?


「だって事実だしね。でも、今の秋の話は少し気に食わないかな」


「え?」


 少し不機嫌になりながら雪音は僕を睨んできた。


「私は秋だから好きになったの。もちろん顔も好きだし性格も好き。だから、私が他の男を選ぶなんてありえない。それだけは覚えといて」


「あ、ああ。わかった。なんかごめんな」


 雪音の発する気迫にすこし気圧されながら僕はうなずく。

 そうやら地雷を踏んでしまったらしい。

 今度からこういった話題はしないようにしよう。


「それよりも私は秋が私のどういう所が好きでいつ好きになったのかも知りたいな~」


「え?」


「私に言わせておいて、まさか秋が言わないなんてことないわよね?」


「あはははは~」


「ごまかせないよ?」


「はい」


 ここから僕はパフェが来るまで根掘り葉掘り聞かれることになるのだった。

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