第3話 十数年の両片思い

 あれから一週間が経った。

 あれ以降雪音は一度も僕の部屋にはやってこないし学校で顔を合わせてもどこか冷たい?というよりは猫を被って対応されている。


「なんか気持ち悪いな。」


 今までそんな対応をされたことが無かったけどいざそうされるとなんだか気持ち悪さを感じてしまう。

 前に猫を被って対応してほしいといったけどそれは撤回しよう。


「あんた雪音ちゃんと喧嘩でもしたの?」


「いきなり何だよ。別に喧嘩なんてしてないぞ?」


「そうなの?前まで毎日家に来てたのにきっぱり来なくなったから喧嘩でもしたのかと思って。」


「してないしてない。気分じゃないか?」


「そうかしら。まあ喧嘩してないならいいけど。」


 母さんに心配されてしまった。

 でも、雪音がここまで聞き分け良いのも珍しいな。

 気にしても仕方ないから気にしないようにしよう。

 それよりも今日は待ちに待った金曜日。

 今日は夜更かししまくろう!


 ◇


「雪音が熱出した?」


「そうみたい。でも、今日は如月さんたち仕事で外せないらしいからあんたお見舞いに行ってきなさい。」


 次の日母さんにいきなりそんなことを言われた。

 まあ、最近話してなかったしたまにはいいか。


「わかったよ。でも、鍵は?」


「それなら如月さんから預かってるから。」


「用意周到過ぎじゃない?」


 きっとおじさんたちも僕に看病させる気満々だったのだろう。


「まあ、いいじゃない。行ってきなさい。」


「はいよ~」


 僕はすぐに着替えて家をでた。

 徒歩数秒で雪音の家に着く。

 母さんから預かった鍵で扉をあけて雪音の部屋に向かう。

 こうして雪音の家に来るのは結構久しぶりかもしれない。


「雪音いるか?」


 ノックをしながら呼びかけるけど返答がない。


「あけるぞ?」


 そう断わってから僕は雪音の部屋の扉をあける。

 そこには規則的な寝息をたてて眠っている雪音がいた。

 だが、その顔は赤く額を触ってみると確かに熱い。


「全くお前が体調崩すなんて何があったんだよ。」


 今まで雪音が体調を崩したことなんて全くなかったため心配になってしまう。

 でも、雪音が寝ているなら特にすることは無いし一回家に戻ったほうがいいか。

 僕がそう考えて部屋を出ようとするといきなり服の裾が掴まれた。


「起きてたのか?」


 僕がそう声をかけても返答はない。

 どうやら無意識みたいだ。


「全く、帰れなくなったじゃないか。」


 別に振りほどこうと思えば簡単に振りほどけるけどそれをするにはなんだか忍びなかったので僕はその場で座り込んだ。

 裾を掴んでいた手を握る。

 やっぱり熱い。

 かなり熱があるようだ。


「んん?」


 手を握っていたからか雪音がそんな声を上げて目をあけた。


「起きたか?」


「うん。え!?なんで秋がいるの?」


「お前が熱出して寝込んでるって聞いて見舞いに来た。」


「いいの?彼女がいるんでしょ?」


「う~ん。」


「だから、私は、、、」


「え!?なんで泣くんだよ。どうした?」


 いきなり雪音が泣き出してしまいさすがに動揺を隠せない。

 なにか不味いことを言ったか?

 いや、他に何か、、、手を握っていたのがまずかったか?


「だってぇ、秋に彼女ができたって聞いてぇずっと好きだったのに秋が他の人のものになっちゃってぇ。」


「お前俺のこと好きだったの?」


「あたりまえじゃんん。好きじゃない男の部屋になんか行かないし。」


「でも、お前結構僕に暴言とか言ってたよな?」


「それは、なんか恥ずかしくて。」


 完全に小学生みたいな照れ隠しだったらしい。

 それにしてもまさか雪音が僕のことを好きなんて思いもしなかった。


「とりあえず泣くなよ。ほらティッシュ。」


「誰のせいだと思ってるのよ!」


「ごめん。」


「謝らないでよ。余計にみじめになるじゃない。」


「いや、そうじゃなくてな。」


「じゃあなんだっていうのよ!」


 どうしよう。

 言いにくい。

 彼女ができたなんて嘘で~すなんていったらボコボコにされないだろうか。

 でも、雪音に悲しい思いをさせたのは本当なわけだし腹をくくるしかないか。


「あのな、僕に彼女ができたっていうの嘘なんだ。」


「は?」


「だから、そのごめんな。」


「ちょっと待って、つまり私は秋の嘘に騙された挙句泣き叫びながら自分の気持ちを口にしたと?」


「まあ、そうなるな。本当ごめん。」


 これに関しては完全に僕が悪いため謝ることしかできない。


「、、、なんでそんな嘘ついたのよ!」


 さっきまで泣いてたのに今度は鬼のような形相で睨んできた。

 表情筋が忙しそうである。


「いや、毎日のように部屋に来て暴言を言ってくる雪音に嫌気がさして言ってみただけなんだ。」


「そんなに気にしてたの?それはごめん。」


「まあ、いいさ。猫を被ってる時のお前はなんだか気持ち悪かったからいつものほうがいい。」


「なによそれ。それよりも秋はどうなの?」


「なにが?」


「わたしの気持ちを知ったんだからあなただって私をどう思ってるのか言うべきじゃない?」


 眼を腫らしながらそんなことを言われては逃げることもできない。


「別に嫌いじゃない。」


「そんな遠回しな言葉は求めてないの!もっと直接的に言いなさい!」


「わかったよ。僕も雪音のことが好きだよ。でも雪音は中学入ったくらいから僕に冷たくなったし暴言しか言われなくなったからてっきり嫌われてると思ってたんだ。」


「え!?秋も私のこと好きだったの?じゃあなんで私をいつも部屋から追い出そうとしてたの?」


「そりゃあ、好きな相手に暴言を言われるのはしんどいし、」


 実際僕はずっと雪音のことが好きだった。

 でも、雪音に嫌われてるならどれだけ僕が彼女を思っても最終的には辛くなってしまう。

 だから僕は自分の心に蓋をしていたんだ。


「そうだったんだ。ごめん。」


「別にもう気にしてない。照れ隠しってわかったし何より雪音に嫌われてないって知れたからな。」


「じゃあさ、私達付き合う?」


 いきなりの提案だ。

 でも、僕たちは今までずっと一緒にいたし僕は彼女のことがずっと好きだった。

 断る理由は何一つない。


「そうだな。雪音僕と付き合ってくれないか?」


「喜んで。」


 彼女は綺麗な青色の瞳を潤ませながらうなずいた。

 十数年の片思いがやっと実ったのだ。


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