第10話 綺麗な床は、危険な床。

零 「綺麗な床じゃないか、あっ、女の子になっちゃう」


 零は、床に足を踏み入れた瞬間、股割きにあってしまった。


一花「はいはい。光っているのは油、でしょうね」

零  「凡人を呼べ」


 呼ばれた凡人は、モップで床を丁寧に拭いた。右に左にと、せっせと。終了の報告を受け、零は再び床に足を踏み入れた。


零  「ああああああああ!」


 零は掃除された安心感から、力強く一歩を踏み出したからさぁ、大変。ノンブレーキ状態で大開脚。「助けろ」の声と同時に一花は傍にあったモップの柄を差し出した。零がそれを掴むと一花は勢いよく、引き戻した。


一花「女の子になりました?」

零  「五月蠅い。おちょくっていいなんて契約にはないぞ」

一花「自ら危険に飛び込むのを助けると言う項目もありません」

零  「自らも事故でも助けるのが君の役目だ」

一花「はいはい」

零  「はいは一回でいい」

一花「は~い」

零  「ああ苛立つ!掃除して、なぜ、滑りが酷くなっている」

一花「ウシュレット、でしょうかね」

零  「ウシュレットって日本の丁寧な技術の結晶のAIトイレか」

一花「AIかは置いておいて、一見きれいに見えても、拭いただけでは汚れを広げてい

   るだけってことです。汚れの塊は取れても、油を満遍なく広げたってことです

   かね」

零  「洗剤はないのか」

一花「ここは水捌けが悪く、使い辛いでしょうね」

零  「TEACH、どうすればいい」

TEACH「教えてあげる」

 

 TEACHは秀人に掃除の仕方を伝授した。秀人はおが屑を大量に床に蒔き、T字モップで床の油分をおが屑に絡ませた。終了報告を零は恐る恐る一歩を踏み出した。「す、滑らない」と安心して調子に乗っていると転びそうになった。


一花「そのポーズ、ダサ!」

零  「五月蠅い。掃除をしても滑る、これは、どういうことだ」

一花「元が可笑しいんですよ。ツルツルにワックスがけしてあるので、滑って当たり

   前です。しかも、スロープがある何て、重い荷車を出し入れするには不適合で

   すよ、ここの床の構造」

零  「誰だ、こんなものを作ったのは」

一花「外国人の建築士らしいですよ」

零  「見た目優先で機能が伴っていない」

一花「誰かに似てますね」

零  「誰かとは誰だ、まさか、俺の事か」

一花「そう思えるには心当たりがあるのかと」

零  「ない、あるはずがない。完璧主義者のこの俺が失敗など仕様がない」

一花「はいはい」

零  「また、はいを二回言った。その問いにはいと答えろ。うん、答えろの答えに応

   えろ」

一花「はいはい、もう一回おまけにはい。これでいいですか」

零  「ああ、逆撫コンテストで優勝するぞ、その態度」

一花「優勝、優勝」

零  「五月蠅い」

一花「じゃぁ、またねぇ~」

零  「何だそのふざけた態度は」

一花「知りません?しんちゃんのこと」

零  「しんちゃん…知らん。この俺様が知らないってことはどういうことだ」

一花「遅れているんじゃないですか」

零  「最先端を作り出す俺が遅れている?馬鹿な」

一花「おほほ~い」

零  「ああ、苛立つ。もういい下がれ」

一花「では下がらせていただきます。帰って大人帝国でも観よ」

零  「何だその大人帝国とは…いや、もう、いい」

一花「観るんだ、こっそりと」

零  「観ない、絶対観ない」


 零は、遅れてはならないと、こっそりと大人帝国を観るのだった。

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