第46話 仮免探索者みうE《油断》

「えーい! 先手必勝だよ」


:みうたん強い! みうたん最高( • ̀ω•́ )✧

:おい、コラボ相手が目立つな

:有能なアタッカーなのは確かだろ?

:これで最近までFだった?

:ランクアップは妥当( ・᷄ὢ・᷅ )

:同じEランクが霞むでしょ

:普通にひかりたんクラスじゃね?

:まぁその分隙も大きいがな

:それは確かに


「みう、前に出過ぎだ。お姉さん達のところに戻ってきなさい」


「はーい」


 とてとて歩いてきながらついでに壁をガンガンと叩いた。


 それだけで壁に張り付いてたと思われるカエル顔の亜人がボトボト床に落ちた。


 ゴルフのフルスイングをするが如く、みうがその亜人をこちらに飛ばしてくる。


 衝撃で半分死にかけてるが、出番を奪われて暇をしていたコラボ先にはいい手土産になったことだろう。


 ここのモンスターは遠巻きから魔法攻撃を仕掛けてくるタイプのいやらしい存在しかいないからな。

 

 ダンジョンのランクがEとは思えないほどの悪辣さだった。


 単純にパーティビルドがここに適してないだけってのもあるけどな。


 最適解は盾もち一人に弓三人。斥候が一人いてちょうどいいくらいか。


 ここにいるのはタンクに斥候もできるアタッカーが一人、さらにはみうという規格外のアタッカー、永遠のサポーターである俺。


 傍目から見たって最適解とは言い難い。


 まぁそれでも進んでいけるのはビルドなんか無視してゴリ押しできてるだけなんだけどな。


「なんだかどっちがコラボ先かわからなくなっちゃったね」


「本当に」


 言いながら、みうからリリースされた魚達(蛙含む)をザクザク切り刻みながらドロップを入手していく。


 なるほど、考えたな。


 今回は派手に動くことで攻撃力があることをアピールしながら、デメリットであるドロップ0を隠す算段か。


 とはいえ、全ての行動にドロップ0がつくわけではない。


 【よく食べる子】だけが対象だ。


「だいたいこっちを伺ってたやつは片付けられたかな? 少し休憩といこう」


「休憩は賛成です。ドロップ品をまとめる時間的猶予は必要ですものね」


「休憩助かる! あんまり働いてなかったとはいえ、疲労は蓄積するからね」


「威高さんも警戒お疲れ様。軽食を作ってきたから美雨と一緒に摘んでくれ」


:軽食?

:こんなおどろおどろしい場所で?

:知ってる、きっと携帯食とかいうやつや

:ああ、レーションな

:あれ、栄養バランスはいいけ不味いんだよな

:ははは ٩(›´ω`‹ )ﻭ

:これは反応が楽しみですね( • ̀ω•́ )✧


 事前にテイムしてきたスライムが、集まって椅子を形作る。


 三人がゆったり座れるチェアに大変身。


 そこに足場をスライムで固めたテーブルを置く。


「お姉たん達、そこに座って!」


「え、ええ。大丈夫のようでしたら座りますけど。こおりさん?」


「大丈夫。私も初めてだけど、アーカイブを見てて座ってみたくもあったんですよ。うわ、思ったよりしっかりした座り心地だね。ゆっくり背中を預けたくなっちゃう」


「こおりさんがそこまでいうのでしたら。ああ、本当。まさかダンジョン内でこんなにもリラックスできるとは思いませんでした」


:なんこれ!?

:ふぁ!?

:ダンジョン内でここまで完璧なテーブルセットを?

:配信中はずっと緊張しっぱなしでこういうオフの顔ってそうそう見れないもんな

:これは完全に油断した顔

:今回はコラボありがとうございます!

:変わり身が早いな?_(:3 」∠)_

:カメラマンだからこそ、欲しい画がわかるってことか

:もっと定期的にコラボして


「軽食なので紅茶とスコーンのセットでいいかな?」


「あ、これみたことあるセットだ! 理衣お姉たんの食事中に見たことあるよ!」


 その通り。

 買い置きしていたのが消費期限近くなったので消費しておきたかったのだ。


 もちろん、味は保証する。

 ちょっと飲み手がいないので、こういう機会に消費しておこうと思ったのだ。


 本人が眠りっぱなしというのも意外と厄介なものなんだな。


 通りで理衣さん用の買い置きストックが0の筈だ。

 だいたいが買いつけたはいいが腐らせたか消費期限切れになって廃棄したとかだろう。


「その、理衣さんという方は?」


「検査入院中で本日来れなかったみうの相棒的存在です。魔法使いなので、いつもはそれに合わせた装備セットをしているんですよ」


「あ、そうなんですね」


 今回金棒をセットしてるのは、今のパーティに合わせたものだと語っておく。


 その間、みうは食べるのに夢中だった。


「おいしー! お兄たん、あたし今度から朝食これでもいいよ?」


「急にオシャレに目覚めたな」


「オシャレなの?」


 美味しいのにおしゃれなんか関係あるの? と言わんばかりに食いついてくる。


 オシャレなやつは、基本腹持ちが悪い。動き回るタイプのみうとの相性は最悪だろう。

 

 軽い割にカロリーが高いものばかりという意味では魔法使いタイプの食事だな。

 

「本当に、美味しいです」


「この茶葉、結構お高いんではなくて?」


「さぁ? 九頭竜プロが選んでくれたものなので。これじゃなきゃダメだと」


「九頭竜プロが?」


「今回持ってきたものはですね、その理衣さんの好物でして。買い置きしていたのは良かったんですが、食べられないまま数日が過ぎています。消費期限が切れる前にこちらでいただこうかと。彼女の本体はこれずとも、みうが一緒の気持ちで撮影に挑んでくれたらな、と」


「そういう経緯でしたのね。スコーンもお紅茶も最高でした」


 スコーンは近所のパン屋で買ったもんだけどな。


 美味いのは確かなので、そこはあえて訂正しなかった。


 在庫整理に付き合ってもらったといえば、受け取りてもそこまで恩義に感じないだろう。


「お兄たん、こりほぐしモードおねがーい」


「お前まだそんなに動いてないだろ?」


「あたしはそうだけど、お姉たんたちに体験して欲しくて」


「まぁ、そういうことなら」


「あの、いったいこれから何を始めようとしてますの?」


 何かを察した久藤川さんが尋ねてくる。


 みうが提案してくるものだから害はないと思うが、何をされるかわからないのは正直怖いだろう。


「マッサージですね。スライムって、流動性でしょ? だからこりをほぐす動きもお手なものなわけで。みうにかける程度のゆるいものなので、よければどうですかという提案ですね」


「マッサージですか。ダンジョンの中で、というのは不思議なものですが、せっかくのご厚意です。挑戦してみましょう」


「あたしも参加するよ!」


 と、いうわけで三人にマッサージを体験してもらった。


 三人とも、そんなコリなんて無縁みたいな顔してたが、施術をしたらとろけるような顔を晒してくれたね。


 撮れ高撮れ高。

 

:おっほ!

:おいこれセンシティブ映像じゃないか!?

:ありがとうございます! ありがとうございます!

:今日のコラボはクソつまんねぇとか思ってすいませんでした

:一生ついていきます!

:もっと軽率にコラボしろコラァ!

:これはあかん_(:3 」∠)_

:保護者会案件ですよ、お兄たん( • ̀ω•́ )✧

¥50,000:目の保養

¥10,000:ありがたや、ありがたや

¥2,000:今日ほどこの二人を推してて良かった日はない

:切り抜きから来ました

:祭りの会場はここか?

:みうチャンネル、登録しました!

:お兄たん、一生推します


「少し恥ずかしい目にあったけど、びっくりするくらい疲労が抜けたよね」


「本当に、自分の体がこれ程軽く感じられる日がくるとは思いませんでした。あの、一部カットでお願いします」


「もちろんですよ」


 そっちのはそっちで編集してもろて。


 こっちのは厳しいフィルターにかけられて配信されてっから。


「と、いうわけで二回目の探索レッツゴーだよ!」


「今回はわたくしたちも負けていられませんわよ?」


「あたしたちも前に進んじゃうからね!」


:無理をしないでこおりたん

:正直、お兄たんが参加するだけでヌルゲーになってねぇか、今回の配信

:カメラマン 兼 哨戒役 兼 荷物持ち 兼 食事係だもんな

:カメラマン(5方向)哨戒役(距離と匹数把握)荷物持ち(ドロップ品)マッサージ係(NEW)、みうちゃんのサポート役、だぞ?

:おかしい、これを全部一人で?

:これに慣れると、普通の配信がダルくなりそう

:こんな人数いる? お兄たんなら一人で十分やれる! とか言い出しそうでな

:こうして追放される主人公が生み出されるんや

:ここまでできるのに自主退学に追い込んだ学園ェ


 俺がここまで尽くすのはみうだけなんだよなー。


 コラボでもない限り、俺がここまですると思ってるんなら、それは考えを改めたほうがいいぞ?


 とはいえ、それでみうもいい笑顔をしてくれるんなら安いもんさ。


 今日は最高の撮影会となった。


 ダンジョンボスのダゴンにはちょっと勝てそうもなくて逃げ帰ってきたけどな。


 逃げる方法? あいつは徘徊型ボスだから走って振り切れば逃げ切れるよ。


 最奥に居座ってる閉鎖型ボスだと脱出は討伐か死の二択なんで無理だけど。


 そんなこんなで楽しい時間はあっという間に過ぎ去り。


 俺たちは今回のコラボの反省会をするべく受付に向かう。


 その途中で、


「ちょっとあんたいい加減にしなさいよ!」


 ダンジョンの中で言い合いする言葉が俺たちの耳に伝わった

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