第26話 サブチャンネルの反響

 昨日、探索者ごっこの配信が早速アーカイブ化されて配信された。

 対策は可能な限りしたが、実際にそれを目にするみうの反応が気にかかるところだった。


「おはようさん。今日は体調どうだー?」


「あ、お兄たんおはよ」


 今日も平熱だったよ、と体温計の記録表を見せてくれる。

 ある程度動けるようになったら、自分でやらせるスタイルなのだ。


「朝からタブレットとは、ずいぶん昨日の配信が気になってるみたいだな」


「だって九頭竜プロのサブチャンネルで配信されたら、登録者数600人規模のあたしには身に余る光栄だよ!」


 そりゃそうだ。


「お前、登録者数が30人の時でもそんなこと言ってなかったか?」


「そ、そんなことないよ?」


 泳ぎ出す視線。どこか誤魔化そうとしている態度。


「リスナーは何人いたっていいだろ? それに一気に増えても純粋に応援してくれるとは限らない。600人の有象無象と、30人の純粋な応援者。お前ならどっちとる?」


「難しい質問だね」


 小学生にさせる質問ではないと思う。

 しかしだ、配信者という名の人気商売なら必ずぶち当たる壁。


「まぁ、その中で取り捨て選択するようになる前に、覚悟だけはしとけってことだ」


「今回お兄たんは編集に関わってないの?」


「九頭竜プロがテープ持ってちゃったからな。俺は俺で撮影してたが。そっちも見たか?」


「見た。お姉たんの活躍より、あたしばっかりが目立ってて、あたし一人だったっけって錯覚した」


 言われちゃったな。

 俺が撮影すると、そういう傾向になる。

 みう以外の余計なものはイレイズマジックで消しちゃうからな。


 俺も九頭竜プロのサブチャンネル立ち上げに関わったが、本チャンネルに比べて圧倒的に登録者数が少ない。


 まだ登録してからの期日が空いてないというのもあるが、純粋に余計なコメントを残すと登録すら弾かれる鬼仕様だからだ。


 本チャンネルとは打って変わってハード仕様なのは俺の妹愛以上に瑠璃さんのお姉さん愛が強いからだろう。

 俺があれこれ言う前に、最初からそうするつもりだったっぽいしな。


「と、いうわけで。チャンネル出張おめでとう。これからも俺の撮影での配信は続けるが、もう俺たちは瑠璃さんと同じクランメンバーだからな。向こうからも過去のアーカイブを統一化させるか? なんて提案もあった」


「え、そんな提案も来てたの?」


 乗っちゃおうよ、という顔。


「ああ。でも俺の方から断った」


「どうして?」


「うちのチャンネルでさえ600人というお前では持て余すのに、瑠璃さんのサブチャンネルなんてもうすでに数千人だ。メインに比べたらだいぶ少なく見えるが、本家本元のうちより多いからって鞍替えしてたら、純粋にお前を昔から応援してくれる人に悪いだろ?」


「…………そうだね」


 だいぶ葛藤した上の了承どうも。

 それ以前に、ドロップしたアイテム類が表に出せないものばっかりなんだ。

 今までは俺が編集してたからいいが、それを世に出すとなったらまた別なんだ。

 みうには、妹にはあれが高価な品だってバレるわけにはいかないからな。


 それを瑠璃さんとコラボする前から、当たり前のように扱ってたことがバレたら嫉妬コメントが集中する。

 だから先手を打ってそんなコメントを残そうもんならアカウント凍結からのキックなんて仕様にしたが、そんな場所に火種を持ち込むのはせっかくサブチャンネルに招待してくれた瑠璃さんに悪いだろう。


 というより、俺とみうで育てたコンテンツを他の誰にも取られたくない、てのが本音だ。この思い出づくりは今後誰にも邪魔させるつもりはない。


「おはよう、陸くん」


 いつもなら寝てる姫君は今日は起きてる。

 多めに持ってきた魔石から、今日もぐんぐんエネルギーを持って行ってるらしい。

 昨日配信中に魔法の威力を極力抑えたのが良かったのだろうか?


「おはよう。理衣さん。朝ごはんできてるけど食べます?」


「んーー? 苺ある?」


「嫌いなもの、好きなものがあったら要望聞きますよ」


「じゃあ──」


 理衣さんの口から出てきたのは好き嫌いの集大成だった。

 白米などのご飯は食べたくない。朝食はパン(できればデニッシュ)。

 甘いジャムなどがあれば最高。酸味が強いのは苦手。

 飲みものは紅茶オンリー。デザートは酸味が弱くて甘いものならオッケー。

 苺はギリ許せるんだそうだ。


 あなたは本当に日本人なのか? と突っ込みたくなった。

 どこかの意識高い系かと思ったぞ?


「寝たきりの病人が食べるシロモンじゃないっすね」


「あら、瑠璃から聞いてないの? 私は寝たきりになるだけで肉体は健康そのものなのよ。もちろんオーダー出したものは全部食べられるわよ。みうちゃんだって最近よく食べるでしょ? 好き嫌いは多いけど、食べられないものはないはずよ」


 魔石のエネルギー吸って起きてる人が何か言ってら。


「とりあえず、今用意してきますのでお待ちください。みうはいつもので大丈夫か?」


「平気。お姉たんはそれしかか食べられないのは少しかわいそうかなって」


「はは、あんまり言ってやるなよ」


「はーい」


 わがままお嬢様理衣さんの分の食器を下げながら、みうは美味しそうに俺の作った朝食を食べ始める。

 この仕事で給料をもらってる俺がいうのもなんだが、妹には無料でも食わせてやりたい魅力があるのだ。


「と、いうことでですね。少し買い出しに行ってきます」


『すまないね、うちの姉さんが迷惑をかけて』


 普段は出された菓子パンを難癖つけながらも完食するそうだ。

 今回は俺が要望を聞いたもんだから、ちょっと調子に乗ってしまったらしい。

 ちょっとってレベルじゃないように思えたが、そこは育ちの違いか。


「むしろ買うだけで揃うので楽させてもらってますよ」


『なら良かった。腕章は私の知名度に応じて効果を発揮するから、どこでも使えるぞ』


 そりゃ助かる。

 病院から外に行く要望を瑠璃さんに伝え、外出。

 今までパン屋に立ち寄ることがなかった為、結構な時間を使ってしまった。

 しかし九頭竜プロの腕章は一般的なお店にも効果覿面で。


「なるほどね、近くにできたビルはどこの誰が買ったんだろうと気になってたが、九頭竜プロだったか。お金持ってる人は持ってるねぇ」


 飛び入りの客であるにもかかわらず、早速次から予約したら配達してもらえることになった。

 御用達になれば店の宣伝になるとも言っていたし、そうなればいいですねと社交辞令を交わして帰宅。


 一見してビル街だったが、少し外れたら普通に商店街があって良かった。

 最悪デパ地下に顔を出さなきゃいけなくなるかと身構えたが、出費は安く済みそうだ。みうのためのフルーツ盛りを買い足し、帰宅。


「うん、いいわね。今度からこれでお願い」


 わがままお嬢様理衣さんはご満悦で朝食を済ませて枕横に積んでた読書を再開させた。

 みうは食事を終えていまだにタブレットを見入っているというのに、あまりにも対照的だな。


「理衣さんは自分の映った配信にご興味はないんですか?」


「あれ? まぁよく映っていたわね。お祖父様たちが見たら卒倒しそうだけど」


「あぁ、本来の能力より明らかに出力しぼってますからね」


「そういうことよ。それに、あの程度の相手だったらあれでも十分。私一人で戦っているわけでもないし、周囲の迷惑を考えて動くというのは陸くんの提案だったでしょ?」


「それはまぁ」


「それで少し翌日の起床時間に余裕が持てたの。当時は疲れるまで魔法の講師を迫られてたわ」


「それは厳しい環境にいましたね」


「本当にね。でも、瑠璃が庇ってくれたから。私の分もあの子が頑張るって言ってくれたから。お祖父様たちは私を見逃してくれた。物理的に眠ってしまったのだからどうすることもできなかったと言った方が良かったかしら?」


「利用価値がなくなった?」


「きっとそうね」


「胸糞の悪くなる話ですね。孫なんて目の中に入れても可愛い存在でしょうに」


「九頭竜の血筋はそれだけ重いものよ。空海だって本当はそれぐらい尊ばれる家系でしょうに」


「俺、うちの両親がどんなことしてたか知らないんですよね。親戚もそこまで気にしてないっていうか」


「あら、そうなの? うちのお祖父様たちは口を酸っぱくさせるほどに言ってたわよ? ポッと出の空海には負けるな、と」


「世界の九頭竜に影響を与えるほどだったんですか?」


「本当に何も知らないのね」


 少し長話をした。理衣さんの知りうる限りの話。

 仮想敵としてあてがわれたうちの両親は、理衣さんの世代において最強だったとか。そんな話に夢中になって、みうからの言葉を聞き逃すほどに。


「お兄たん、お兄たん!」


「おっと、どうしたみう」


「これ見て! うちのチャンネルも!」


「ん?」


 九頭竜プロのサブチャンネルに釣られるように、うちのチャンネルもすごいことになっていると言われて見たら、とんでもないことになっていた。

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