第21話 暴れん坊幼女リエ★

 絶賛された食事回の撮影後、早速前回のモンスターを参考に放流。

 通常スライムに、羽根スライム、スライムスネークだ。

 それを計3匹づつ。

 カメラを回す俺の前に出ながら、二人は仲良く準備を始めた。


「みたことのないモンスター、けれどスライム系なら氷結魔法が通用するはず……」


「見てて、お姉たん! みうが攻撃するよ!」


 いいところを見せたいのか、何やら呟いていた理衣さんの前にみうが躍り出る。


「あ、ちょっと待って!」


「スラッシュ!」


 今までずっと一人でやってきたのもあり。相手に合わせることができないみう。

 スライムはその場に縫い付けられ、その隙をついて羽根スライムが強襲を仕掛ける。


「わー」


「みうちゃん、よく周りを見ないとだめだよ!」


「お姉たん、ごめんなさい」


 すんでのところでみうの周囲を炎の壁が覆った。

 酸欠にならないように、すぐに火は鎮火したが、みうは怒られたことによりしょんぼりしてしまった。

 今まで褒めて伸ばしていたのもあるので、ミスを指摘されてショックを受けている。


「大丈夫だよ、みうちゃん! 次は周囲をもっとよく見よう! もしかしたら理衣お姉さんが何かしたかったのにみうちゃんが前に出て何もできなくなってしまったのかもしれないね!」


 やんわりと相手の意向を伝える。

 ただ怒るのではなく、相手の事情を知らせないとみうはわからない。

 集団行動をしたことがないので、ここはおいおい直していきたいところだ。


「そうなんだね! あたしばかり攻撃しようとしてた! ごめんなさい!」


「こっちも、やれることを教えてなかったから。みうちゃんは悪くないよ」


「二人とも、初めての共闘だ。一人ずつ自己紹介を兼ねて得意分野を語ってみよう。そして自分が行動中に何をされるか嫌かを教えてあげようね!」


「わかった!」


「そうね。その方が合理的だわ」


 みうが元気よく返事をして、理衣さんも不承不承と言った感じで頷いた。

 お姉さんというだけあって、妹のわがままに振り回されてきたのだろう。

 あの九頭竜プロが?

 ちょっと想像できないが、妹を持つ姉としての意識はあるようだった。


「あたし、さっき攻撃したから理衣お姉たんが次攻撃していいよ!」


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


 突然現れた炎の壁を警戒してか、羽根スライムは遠い場所からこちらを覗き込んでいた。

 スライムだけがぴょんぴょん飛び跳ねている。

 スライムスネークはまだ姿を見せていない。


「それでは自己紹介。私は魔法使い、水と氷の魔法が得意よ──スコール!」


 ダンジョンの中で雨が降る。

 不思議な現象だが、こういうのはもっと前もって連絡してほしい。

 みうと同じで自慢したい気持ちが前に出過ぎて、周囲の迷惑を考えてない、そんな傲慢さを感じた。


「うわ、急にすごい雨! これはお姉たんがしてるの?」


「そうよ。本当はもっと範囲を狭めることもできるけど、今はわたし全力の効果範囲を教えてるの」


「周囲一帯が雨で見えなくなってるよ!」


 本当にな。もう少し撮れ高を位考えてほしいものである。

 範囲は本人を中心に100メートルくらいだろうか?

 十分に広範囲だ。

 突然こんな規模の魔法を打ち込まれたら、みうの活躍の機会がなくなってしまうな。


「これはパフォーマンスなの! 仕上げはここからよ! ──フリーズ!」


 理衣さんが魔法の杖を地面に叩きつける。

 すると濡れていた地面が徐々に凍りつき、ダンジョン全体が凍りついた。

 おかげで風邪をひくこと請け合いだ。


「どう? すごいでしょ!」


 理衣さんは褒めて欲しそうに振り返る。

 けれど俺やみうは寒そうに体を震わせていた。


「へっくち!」


「理衣さん、やりすぎなのでもう少しお手柔らかに! みうは病人なので」


 ちな、機材やお弁当含めて荷物全部が濡れて凍った。

 撮影の続行が不可能なほどである。


「ごめんなさい! 私、全力で魔法を使う機会がほとんどなくて!」


 だからか。限界を超えて使用しようとしてしまうのは。

 きっと夢の中ではこれ以上の魔法を行使していたんだろうな。

 それくらい、加減の効かなさを感じた。


「でもすごかったよ! お姉たんのスコール! 病院のシャワーより激しかったもん!」


 俺が苦言を呈する横で、みうだけが真っ当に評価する。

 いつも加減の効かない魔法で迷惑をかけていたのだろう理衣さんは、まさか魔法を褒められるとは思ってもいなかったという顔をした。


「そ、そうでしょう? でもやりすぎたことは反省してるわ。ごめんなさい」


「大丈夫だよ。ね、お兄たん?」


 妹からそんなふうに言われたら、俺も許す他ない。


「大丈夫だけど、機材は全滅だから撮影はおしまいだな」


「そんな!」


「これからはもっと撮影に影響が出ない程度に絞ってくれたらいいさ」


「はーい! お姉たんも気をつけようね?」


「う、うん。その、お兄さんは怒ってないの?」


 おずおずと、俺の顔色を窺う理衣さん。


「お兄たんはいつもミスする私を励まして褒めてくれるんだよ。一回のミスで怒らないよ。ね、お兄たん?」


「怒っていてもキリがないからな。みうの場合は怒られることがストレスになる。だから怒るんじゃなくて、何が悪かったかを自覚させる。一回失敗しても、次はきちんと考えられる余地を残すんだ」


「すごいのね。私はいつも怒られてばかりだった」


「理衣さんの場合は環境が特殊だったんですよ」


 九頭竜の家系が世界的に頼られてる事実は変わらない。

 九頭竜プロがそうであるように、きっと親の世代から世界で活躍することを義務付けられてきた。

 だから教育にも力が入り、威力と範囲を中心に鍛え上げてしまったんだろう。

 

 教育方針が悪いというよりは、お姉さんに才能がありすぎた。

 故にそっちにばかり気が向いてしまう感じがした。


「そうかもしれないわ」


「ここで普通、というより平凡な魔法の活かし方を見出しましょう。あの威力と範囲は将来絶対役に立つはずです。無駄じゃない。けれどその活躍の機会は今でもない。それだけ覚えておきましょうか」


「うん。ありがとうね?」


「お兄たんはね、絶対に間違ったことを言わないの。あたしはお兄たんの言ったことをやってたら体も動くようになったし、配信者として活躍できてるからね!」


 ぶい、とピースを突きつける。

 そうなの? という顔をされた。

 俺はそうかもしれませんね、と言葉を濁した。


 今回の撮影は終わったが、それはそれとして訓練は続ける。

 配信をできないのはショックが大きいと嘆くみうだったが、あまりにも申し訳なさそうな理衣さんに気を遣い、今ではコンビネーションをどうするかを念頭に置いて動くことを意識づけていた。


 誰が悪いでもない。

 なんだったら過去に同じ失敗を何回もしたみうだからこその学びがある。


 お互いにできることは話した。

 突進攻撃が得意なみう。

 自然現象に介入できる理衣さん。


 自ずと攻撃パターンは定まってくる。


 スコールとフリーズはモンスターをその場に張り付けるのに活躍した。

 そこをみうが颯爽と駆けつけて【スラッシュ】する。

 これが黄金パターンだ。


「やったね、お姉たん! 随分とコントロール上手になってる!」


「みうちゃんのおかげ!」


「配信的には美味しくないけどな」


「お兄たん!? せっかくお姉たんが魔法を制御してるのに!」


「しかしなー、みう。みんなはモンスターが棒立ちで立ってるところにスラッシュを叩き込むだけの映像を見て、何を思うだろうか?」


「え? あたしだけが活躍してるように見えちゃうってこと?」


「それもあるが、全く緊張感、スリルが足りないんだ。理衣さんの魔法生成速度があまりにずば抜けすぎているからなんだが」


「それの何がだめなの?」


「魔法はね、詠唱と魔法陣の展開があってこそ映えるんです。そりゃ無詠唱は効率はいいでしょうけど、映像映えはしませんね」


「がーん」


「お兄たん! 言い過ぎだよ!」


「初めてそんなこと言われたわ」


「ガチの殺し合いでならともかく、ここには弱いモンスターしかいませんし。もう少し、みうと一緒に頑張ってるところを撮影したいです。今回はあいにくとカメラが壊れたので撮影する機会はありませんが、次に機会があったらそこら辺意識してくれると助かります」


「でもお兄たん、それはやらせ演出にならない?」


「確かに見る人が見ればそうなるだろう。しかしな、みう。もし理衣さんの力が世界に通用すると知られたらどうなると思う?」


「え? 九頭竜プロと一緒に世界で活躍しちゃう?」


「うーん、まぁそれが理想ではあるんだけど」


「お兄たんが何を言いたいかわからないよ!」


「まず間違いなく、みうは理衣さんと二度と会えなくなるな」


「え?」


 信じられない、という顔。

 話が飛躍しすぎてついていけないのだ。

 当然理衣さんもそれを自覚していた。


「そうなるわね。お祖父様たちは私の力を世界に売り出したがっている。けれど私はずっと寝たきり。売り逃し続けているのよ。今は瑠璃に匿われて、ようやく自由を得たの」


「そんなのやだよ! せっかくお姉たんと仲良くなれたのに!」


「だから、理衣さんには撮影中だけでいいので力をセーブしていただきたい」


「お祖父様に見つからないために?」


「それもありますが、俺が編集中にみうの出番が薄くて納得できないからです」


「は?」


 理衣さんが正気か、こいつ? みたいな顔をしてくる。

 俺はいつだって正気だぞ。ちょっと妹が好きすぎるだけだ。


「お兄たん、空気読んで?」


 しかし俺がどれだけ妹を思ってようと本人には一切伝わってない感じだ。

 だがこれだけは何度でも言わせてもらうぞ?

 なんでゲストに気を遣って本命を食われる配信を許容できるのか。

 俺の配信のメインはみうなんだよなー?


 理衣さんはあくまで客人だ。

 みうと優先順位がどっちが高いかとか、比べるまでもないんだよなぁ。



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作品フォロー  500達成(チャンネル登録者数)

★評価     200達成(高評価)

PV    30000達成(再生回数)


「お兄たんお兄たん! 見て見て見て見て!」

「お、どうしたみう? 今日はいつになく興奮してるな」

「すごいよ、チャンネル登録者数がついに500人になったよ!」

「え、(マジで意味がわからんぞ。配信はまだしてないのに)威高さん効果か?」

「やっぱりあたしが可愛すぎるからかなー?」

「はいはい、そうだなー。最近よく食べるし、リスナー好みの体型になってきたのかもな」

「え! 今までのあたしは細すぎたってコト!?」

「わからんが、かわいそう具合が前面に出てた感じはある。兄ちゃんはあまり気にしてなかったが」

「じゃあ、もっといっぱい食べるね?」

「そんなにいっぱい食べたって、すぐに体力がつくわけじゃないぞー?」

「それもそうだね。今日の配信でもっといっぱい評価されるかも。次の配信までには新しいスキルも手に入れてるだろうし」

「良く食べる子、だっけ? お前のためにあるみたいなスキルだよな、食いしん坊スキル」

「満腹スキルだよー」

「どっちも一緒じゃんか」

「お兄たん、今からそんなんじゃモテないよ?」

「兄ちゃんは、お前が元気になるまで誰ともおつきあいするつもりはないぞ?」

「えー、もったいないよ」

「家族を蔑ろにしてまで、自分を優先できないってだけだ。束縛してる自覚があるなら、さっさと元気になってくれ」

「はーい」

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