第13話 満腹スキル

 俺はみうから聞いた情報を早速九頭竜プロへとメールで送信する。

 それとは別に熊谷さんにも情報の共有をした。

 こういったことは素人が闇雲に探し回っても正解に辿りつかない。


 だからと言って超一流の九頭竜プロはスケジュールが埋まりすぎて手が空いてない。確かに権限はあるのだろうが、本人の手が空いてないのでは意味がない。


 そこでダンジョンセンターが浮上する。

 素人ほど無知ではなく、そこそこにダンジョンへの知識があり、医療関係とも連携が取れている組織。

 その上で熊谷さんとは秘密を共有し合う仲だ。


「成功報酬は属性の極大魔石結晶、または上級ポーション。どちらでもいいよ」


「なんでお前は100か0かなんだ。間の10や50でも喜んで引き受けてくれる業者はいるぞ?」


「熊谷さん、俺はね。別に妹を実験動物にしたいわけじゃないんですよ」


「その成功報酬は口止め料も入っていると?」


「話が早くて助かります」


「と、なると極大魔石結晶が遺品という話はデマか?」


「どうでしょうね」


「お前さんと話をしてると調子が狂うな。だが、お互いに表に出せない秘密を扱う同士だ。報酬分の仕事はするさ。期日はのほどは?」


「そこまで急ぎませんが、妹の体調次第ですね」


「まぁな。命の危機だって話じゃないか。以前の撮影を見る限りでは元気一杯だったがな」


「あいつは昔からダンジョンに入ると何故か元気になるんですよ」


「一般人の無許可でのダンジョンの出入りは法律上禁止されてるぞ?」


「ああ、生きてるダンジョンじゃありませんよ。廃棄されたダンジョンです。ただの穴蔵です。そこに入ったら、なんか元気になったんですよ。それからですね、妹がここでならたくさん運動できるって言い出したのは」


「昔からダンジョンに深い縁があると?」


「もしかしたら、妹がダンジョンで生まれたからかもしれません」


「ダンジョンで?」


「俺が小さい頃の話ですので、詳しくは不明ですが。母さんが産気づいたのがダンジョン内だったとか。それからダンジョンに異様に興味を示すようになってましたね。俺としては元気で過ごしてくれるだけでよかったんですが」


「なるほどなぁ。そこら辺も合わせて探っとくわ。で、今日はアタックしてかないんだな?」


「みうの検査次第ですからね。今は食欲が良くなったそうなので、もしかしたら週あたりのアタック日数は増えるかもしれません」


「そりゃ結構だ。本当に今ダンジョンは人が来ないからな」


「いっそ、ポーションが出土したって言いふらせばいいんじゃないですか?」


「馬鹿野郎。俺の手が空かなくなるわ。妹さんの症例を調べるのが後回しになってもいいってんなら俺は構わねぇぜ?」


「やっぱやめましょう。ここは多少暇なくらいで十分だ」


「そういうことだ。ただでさえ、ここは左遷先みたいなもんだしな。忙しいのは春先だけで十分だ」


 駆け出し探索者の登竜門として、いくつか残しとかなくちゃいけない一つがそのダンジョンだという。

 なんというか、活力に満ちてない理由はそこか。


 みうが違うダンジョンに行きたいとか言ったら泣くかもしれない。



 ダンジョンセンターを後にして、最寄りの総合病院へとやってくる。

 みうが入院してるのがここの4階なのだ。

 看護センターで面会の申し込みをしつつお風呂の予約も入れておく。

 普段はそんなに動かないからお風呂の予約もそこまで入れないんだが、どうもいっぱい食べてるようなので念の為だ。

 元気になると動き回るし、汗もかくからな。


「おにいたーん! 見て見て見て見て見て見て見て見て見て」


「おうおう、どうしたどうした。今日はいつになく元気だな」


 元気すぎて周囲に迷惑をかけてないか心配になる程だった。


「あたしね、お腹がすごく空くって言ったじゃん?」


「ああ。聞いたな。すごく食べると」


「それでね、お腹いっぱい食べさせてもらえたの!」


「ああ」


「そしたらね、満腹スキルのポイントが1ポイント貯まったの! このスキルが、どうやらあたしに授けられた新しい力みたいなんだー」


「誰が言ってたんだ?」


「え? この間の子だよ」


 夢の世界から話しかけてきた住人は、どうやらみうの中に住み着いているようだ。

 住み着く、というより一心同体になっているのかな?


「その子はみうのそばにいる? 見えない感じの人か?」


「ううん、姿はないんだ。でも声をかけてきて、頭の中でおしゃべりできるの。それでね、この満腹スキルは食に関するスキルが使えるようになるんだって!」


「へぇ、どんなのだ?」


 子供は基本、話しかけてきた時は否定せずに耳を傾けてやるくらいでいい。

 話がしたいというより、話を聞いてもらいたいだけだったりするからだ。

 みうもその傾向にある。


 昨日は頭ごなしに否定したから膨れてしまったが、本来なら自分一人だけ感じ取れて薄気味悪かった。それを突き放した形なので心細かったんだと思う。

 俺から突き放されたと感じた美雨は、そのよくわからない相手と距離を縮めてしまった。


 今はまだ、余計なことはしていないけど。

 用心するに越したことはないな。


「この満腹スキル、使うとお腹が減っちゃうの! 100%で使えるスキルや、20%だけ使うスキルもあるんだけど、しょっちゅうお食事休憩が入るくらいに燃費が悪いスキルなんだー」


「そりゃお前、それだけで全て解決しようとするからの話だろ?」


「うん」


「俺だったら、スラッシュの合間に挟んでわざと技の発動の隙を減らすように配置するぞ? もちろん、空腹だってんなら食事休憩は挟むし」


「いいの?」


「俺はみうに食べてもらうために料理系のアルバイトをしてるんだぜ? むしろ腕の見せ所ってやつさ」


「そだね。でも、お兄たんが作ってくれるんなら安心!」


「なので飯に困ったら兄ちゃんに頼れ!」


「うん!」


「それで、満腹スキルを扱う上での懸念てんはそれだけじゃないんだろ?」


「やっぱりお兄たんはわかっちゃうか」


「飯を食うだけで使用可能になるなんてスキルのデメリットが、それだけであるはずがないからな」


 俺のマスターテイマーしかり。

 使役中の獲得経験値、ドロップ0くらいはあって当たり前だろう。


「実はね、そのスキルでモンスターを倒すとドロップが0になっちゃうんだー」


「経験値は?」


「うん? 経験値かー。え、そっちは平気? そっちは大丈夫だって」


 例の存在と話していたのだろう。

 みうは虚空を見上げた後に何度か相槌をして、俺の質問に答えた。


 これじゃ精神に支障をきたした患者のようじゃないか。

 これは退院が難しくなるやつだぞ?


「ドロップ0になるのは痛いな。ドロップをなくすってのは稼ぎがなくなることを意味する。お前の好きな魔石も出てこないんだぞ?」


「でも得られるスキルはどれも強力なんだよ!」


 みうは自慢するように教えてくれた。

 話をかいつまんで聞いた限り、どうもコストパフォーマンスに優れない分、効果は大きいようだ。


「みうはどれを選択するんだ?」


「あたしはこれを選択するつもりー」


 それは相手の命を消費して自身の傷を治す『良く食べる子』というスキルだった。


 他にも、一日一回限定だけど、満腹時に即死ダメージ無効の『我慢できるもん』だったり、


 満腹ゲージを消費して相手を癒す『おすそわけ』など、ユニークなスキルが揃ってる。


 一見可愛い感じのスキル名に騙されがちだが、普通に凶悪なスキルが混ざってるのが絶妙に怖い。


 特に周囲一帯から満腹ゲージを強制的に奪う『みんな平等』とかもちゃっかり混ざっている。


 強いスキルほど、必要満腹ポイントが高いのが救いだが、無知なみうがうっかり手に入れてしまわないかだけが心配だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る