第6話 コラボ回

「みんなー みうだよー」


「うおー! みうちゃーん!」


 妹がカメラに呼びかけると、俺が過剰に反応する様を見てゲスト二人が白い目を向けてきた。


 実際にはホームビデオでしかないので、その場で即座に反映している生配信と違い、反応が寂しくなる場合があるのだ。

 その為、俺が都度間の手を入れているのだ。


 そこ、呆れていたらこの先持たないぞ?


「今日はねー、なんと特別ゲストが来ています」


「誰々ー?」


 俺がガヤとして機能しているのをゲスト二人は笑いを堪えながら持ち直し、妹の呼びかけで九頭竜プロが画面に入る。

 俺はすかさずズームで二人の被写体をアップで写し続ける。


「も、もしかして?」


「はい! なんと今回九頭竜プロが遊びに来てくれちゃいました!」


 すごく感激でー、昨日まで考えてたセリフ忘れちゃいました。

 とカンペの大事さを痛感するみう。


「こんにちは、九頭竜瑠璃だ。今日はこちらの配信にお邪魔しているよ。なんでも面白い取り組みをしていると聞いてね」


「えへへ! あたしのしてることがそんなに面白いだなんて知らなかった! 今日はお願いします」


「こちらこそ、よろしくね」


 両者がお辞儀をして、インスピレーションが降りてきたコメントをメモに書き込んでいく。ここで書き込んだコメントが後々編集に反映されていくのだ。

 カメラは固定で、そのまま雑談に移った。


 今は衣装の発表会だ。

 なので掛け声は決まっている。


「そういえばみうちゃん、今日は衣装が変わってるねぇ!」


「あ、わかります? 実は、お兄ちゃんに頼んで買ってもらっちゃったんです! えへへ、初めてのオシャレで何を着ていいか迷ったんですけど〜全部買っちゃいました!」


「それじゃあこれからいろんな姿を見せてくれるのね」


「そうできるように頑張っていきます」


「期待してるわ」


 いつになく饒舌な妹。

 今回は俺の前でだけ語る『お兄たん』を封印し、よそ行きの会話術『お兄ちゃん』で挑戦中だ。

 流石に身内ネタをゲストの前で披露するのは失礼として、妹の方から企画を持ってきた。


 こうやって前向きに企画に取り組んだのは今回が初めてである。

 そう呼んでもらえないのは悲しいが、今回ばかりはみうの肩を持つことにした。

 今回くらいはゆるそう。

 どうせそう何回もコラボするわけじゃないしな。


「それではみうちゃん、いつもの運動に移ろうか!」


「うん、今日はいつもよりたくさん狩れる気がするよ」


「無理はしないでね!」


「憧れの九頭竜プロの前で恥ずかしい真似はできないからね。見ててください」


 みうは木の棒をセットした。

 俺は以前テイムしたことのあるスライムを舞台である廃棄ダンジョンに魔力を流し込んで排出させた。


 俺のジョブ『マスターテイマー』でのみできる芸当だ。

 廃棄されたダンジョンを手中に収め、魔力の限りテイムしたことのあるモンスターを生み出す能力。

 生み出したモンスターは、俺の魔力から生まれたやつなので基本無害。

 そして経験値とドロップがない。


 ダンジョンと一切関係ない能力だからである。

 探索者のようなダンジョンのカウンター組織と違い、俺は探索者側なのでそれが発生しないのではと考えていた。


 しかし世の中にはそれで悪いことを考える奴が絶えず、俺に擦り寄ってくるほとんどはそういう金儲けに加担するようなやつばかり。

 なので、縁を切るためにも探索者学園を自主退学し、こうしてバイトをしながら生計を立てている。

 もちろん世間体を考えてのことだ。


「おい、坊主。あれは壁から滲み出てきたように見えたが、本当に坊主が操ってるのか?」


 ゴニョゴニョと熊谷さんが耳打ちしてくる。

 テイマーのジョブとは明らかに隔絶している能力だから驚くのも無理はない。

 しかし俺はあとで編集するとしても声で返事をするような愚は犯さないのだ。


 カンペに書き込み、それから筆談を交わす。

 

:妹には言わないでくださいね?

:すまない、配慮が不足していた 筆談でなら可能か?

:かまいません。どうせ驚かれるのはわかってました

:スライムの行動パターンは随分豊富だが?

:多少のアレンジを加えています

 

 そんな筆談に、九頭竜プロが混ざってくる。


:操れるのはスライムだけ?

:過去に討伐したモンスターに限ります


 モンスターを手足の延長線として捉えるテイマー。

 その手足での討伐履歴が俺の生み出せるモンスターリストになっている。

 ただし生み出すには俺の魔力以上のものは生み出せない。

 使役は可能だが、使役化に置かれた状態では経験値とドロップが消失する。


 俺の魔力と混ざるからだと言われているが、本当のことはよくわかってない。

 それで学園生時代によくトラブルに見舞われたものだ。


 助力は必要なかった。

 俺がテイムして一命を取り留めた生徒は、後日傷だらけの体を押してそう告げてきた。

 自分の命を助けてくれた感謝よりも、逃した素材、儲かった筈の皮算用ばかり気にしてた。

 学園を自主退学したきっかけは、みうの事もあるがそんな人間関係に嫌気がさしたというのも後押ししていた。


 あーダメダメ。昔のことを思い出すとイライラしてしまう。

 俺にとっての癒しの時間は妹との語らい!

 せっかくの撮影時に闇落ちするなんて兄失格だ。

 撮影に集中しよう!


「えい! やあ!」


「いいよー、みうちゃんその調子!」


 ビデオ以外でも、無駄にカメラで撮影している。

 新衣装は何枚あってもいい。

 心が洗われる様だ。

 あとで焼き増ししよう。


 みうは木の棒を振り回す。

 熊谷さんの言うとおり、運動が目的なのもあってスライムの操作はすばしっこい状態でセットしている。


 なので通常個体ならとっくに死んでるような鋭い攻撃でも、妙にしぶとかったりする。

 おかげでよく転ぶと言うわけだ。


「大変だ、みうちゃん!」


 俺が投石でスライムの気を逸らす。

 音の鳴った方にスライムが意識を向けた。

 その間に起き上がり、呼吸を整え気合い一閃。


「やぁーーーーー!」


 スパーン!

 スライムは油断しているところに木の棒を打ち付けられ、そのままぶくぶくと泡立って消失した。

 今回ドロップは0。

 今頃世の中の厳しさを味わっていることだろう。


:おい、手厳しすぎないか? あれはドロップがあってもいいだろ


 熊耳をつけたおじさんが憤る。


:世の中そんなに厳しくないって言ったの誰ですか?

:あそこまでユニークなスライムがいる前提で言ってないわ


 九頭竜プロまで熊谷さんの肩を持つじゃん。


:じゃあ、次から出します。グレードはどうしましょう

:まだ持ってるの?

:父の形見って我が家にいっぱい眠ってるんですよね

:それ本当に形見なのかしら?


 痛いところを突かれた。

 これは最悪俺がこの魔石をドロップさせた張本人だと勘付かれ始めてるな?

 まぁだからなんだって話だが。


:うちの両親はすごい探索者だったんですよね?

:そうね、そう言われたら納得するしかないんだけど

:俺たちはその価値を正しく知りません


 事前に釘を打っておく。

 後から騒がれても困るからだ。

 次にみうが倒したスライムからは薄緑の魔石がドロップした。

 なお、みうの中では大外れという印象だった。


:おい! 赤いのとグレードが一緒だぞ! どういうことだ!


 緑の極大魔石結晶。

 多分深層あたりのグリーンドラゴンからドロップした奴だろう。

 記憶はだいぶ曖昧だったりする。

 何せ探索者学園を自主退学してからだいぶ経つからな。


:違うのは色ぐらいだと言いましたよ

:聞いてないぞ


 そうは言ってないからな。

 俺の交渉は全て了承を取らせてからの後出しジャンケンである。

 了承させた後に、文句を言うなと再度釘を刺す形だ。


「すごいわ、みうさん。もうドロップアイテムを手に入れたの?」


 スライムと戦って二戦目で、である。

 しかもドロップしたのはあたりも当たり、大当たりの部類であるが。

 みうは残念そうにそれをポーチの中に詰め込んだ。


「ありがとうございます。でもこれ、大した価値じゃない奴ですよね? お兄いた、お兄ちゃんがこれじゃあ入院費の足しにもならないって」


「そうね……」


 何故か俺の方をじっと睨みつけてくる九頭竜プロ。

 ちょっと、表情が硬いのでもっと微笑んでくれませんかー?

 役目でしょ!


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