ある未明の海岸で

星見守灯也

ある未明の海岸で(死体、死体損壊描写あり)

誰もいない、真っ暗な砂浜を歩いていた。

サンダルがずずっと砂に沈む感覚。

山からの涼しい風が吹き、思ったよりベタつきは少ない。

このごろ汀に落ちるもの。流木、プラごみ、二世の縁……。


自分より先に死んでるやつがいるとびびる。

死体がうち上がっていた。

砂やらゴミやら海藻やらにまみれているが、それは人の死体だった。

男と女。つながった白い手。きらりと光った銀色のリング。


これは警察に連絡しなくてはならないのだろうか。わたしが。

と考えるより先に、わたしはまじまじとその死体を見ていた。

青白くふやけた皮膚に服がまとわりついている。

全体的に体が膨らんでいるようにも見える。

ふむふむ、海で死ぬとこうなるのか。

濡れた髪をもち上げて、血の気のない顔に懐中電灯をあてる。

他に持ち物は……なさそう。

金目のものを期待したわけじゃないけれど。


だいたいなにさ。心中? 恋人なの? 夫婦なの?

こんな固く手なんてつないじゃって。

わたしは力いっぱいにその手を引き離した。死体の爪がとれたが文句も言うまい。

蹴るようにして男女を引きはがす。ざまあみろ。

そうなると、左手の薬指にあるリングも気に入らない。

女のほうの手をつかんで抜こうとしてみたが、どうにも抜けそうになかった。

しかたなく、わたしはたまたま持っていた包丁で薬指を落とす。

皮膚がたるんで切りにくい。力ずくで関節にいれるとちぎれるように指が切れた。

男のほうも同じようにしてリングを抜く。

その2つを黒い海に投げ捨てた。まったく別の方向に向かって。

落ちたはずの水音は聞こえなかった。


それからわたしは包丁を波で洗い、水草でつかんで女の右手に握らせた。

これでよし。なんだかぜんぶがバカらしくなり、帰って寝ようという気になった。

そのうち誰かが通報してニュースになるのだろう。

警察が探したらあのリングは見つかるだろうか。


それもまあ、寝た後の話だ。

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