第79話 傭兵達とチキン南蛮

 レベッカの両親、そして兄弟達にレベッカ嬢と結婚させてください的な挨拶をしたら、想像以上に快く了承を得られた。

 第二夫人でも……別にいいのか。


 見た目はいかにも物語に出てくる赤毛の悪役令嬢の家族って感じなのに、皆、にこやかなものだった。


 何しろレベッカ本人の見た目が赤毛の縦ロールでまるで悪役令嬢なのだ。中身は多分違うけど。

 しかしたいていの悪役令嬢はかなりの美人だ。


 流石貴族は美形が多いなと思いつつ、婚約披露パーティーの事などを茶を飲みつつ話をしている

 と、俺宛の魔法の伝書鳥が飛んで来た。


 内容は俺が声をかけた傭兵が砦に来れるようになったという事だった。

 それが届いたことで俺達はエマの領地へ行く前に護衛騎士達と一旦神殿の転移ゲートで砦に戻る事にした。


 到着してから俺は急いで厨房へ行き、料理人と手伝いのメイド達に鶏肉を大量に揚げて貰う。

 チキン南蛮を作って貰うのだ!


 そして準備を終えてから、応接室にて傭兵三人が待機していた。

 そこで俺は大事な仕事を任せて大丈夫が面接を行う。



「待たせてすまなかった」

「いいえ、今はとてもお忙しいところでしょう」


 確かに!! なのに料理までしてたから!

 胃袋も掴む予定なんで。



「領地防衛のため、ある程度戦える兵士を集めなければならないので、君達傭兵に声をかけてみたんだ、この条件でどうかな」


 給料や維持費などの条件を紙に書いたものを傭兵に渡す。


 だが、団長ではなく、隣の傭兵の側近が目を通し、何やら頷きあってアイコンタクトらしきものをしている。


 もしかして文字を読むのが苦手で得意なやつに任せてる系?

 まあ、人間得手不得手はあるよな。

 平民なら文字を読むのが苦手でも、腕が立つなら傭兵団の頭にはなれるのだろう。



「そろそろ一箇所に落ち着きたいと思って居たので、仲間達と検討してみます」

「では、このお土産を持って帰って仲間達とで食べてくれ、酒もつけよう。あ、酒は樽なので荷車に積み込んである」


 箱に詰めた料理と酒を差し出すが、酒は樽なので運ぶのが大変だろうと荷台に用意した。


 そしてチキン南蛮は箱の中でツルっとした綺麗な葉っぱに包まれている。



「酒ですか! 仲間達が喜びます! 食べ物の方は……」


「鶏肉を油で揚げたもので、チキン南蛮……いや、チキンの甘酢あんかけという料理だ。白いタルタルのソースはお好みでかけて食べてくれ、苦手な人はこちらの甘酢ソースだけでもいい」


 南蛮の説明が面倒なので、チキンの甘酢あんかけで通す事にした。



「チキンのアマズアンカケ……」



 いかつい傭兵が弁当を手に、俺の言葉を反芻している。ちとかわいい。



「温かいうちに食べると美味しくいただけると思うが、冷めきっていたらオーブンで軽く温めてから食べるといい」

「分かりました」


 ソースやタルタルの入った器には油紙で蓋をしてある。


 面接をしてみたら、丁寧な言葉も一応使える傭兵だったし、そろそろ一箇所に落ち着きたいと思っていたとのことで、利害が一致したから、多分いけるのでは? と思う。


 傭兵との面会後に俺はエマの待つ子爵領に移動した。

 転移ゲートのある神殿から馬車で移動し、周囲を馬車の窓から眺めて見ると、一見、海に囲まれた島にあるのどかな農村地帯だ。


 しかし、土地が豊かな地力を持っていなくて、作物の収穫量はイマイチらしい。


 土壌改良の仕方を知らないだけということはないかな?


 ひとまず子爵と話をしてみよう。

 広さはそれなりにある気がするから、後は土地に栄養をやればいいような気がする。


 そして子爵家に到着した。

 さすがに侯爵家や伯爵家よりはグレードは落ちるが、赤煉瓦で俺の好きな雰囲気のお屋敷だった。



 ◆ ◆ ◆ 【傭兵団のこと】◆ ◆ ◆


「どうだお前ら? 条件は悪くないと思うが」

「そうですねぇ! 悪くはないけど俺は貴族が好きじゃないんですよねぇ、やたら偉そうにしてて」


「そう言うな、そろそろ家庭も持ちたい頃だろ? なら俺達もどこぞに定住するほうがいい」 


「わかってますよ! 酒を樽でくれるやつはいいやつだって決まってますから! せいぜい気に入られるように上手くやりますって!」


「酒に関してはそうともかぎらないが、待たせてすまないとか、貴族にしては珍しく謝ってくれたし、お土産に食べ物もくれた」

「その箱のものですかい?」


「冷めてしまったから、軽くストーブの中で温めてみるか」


 ストーブの中がオーブンにもなっているので、傭兵の一人が耐熱容器にチキンをのせ、軽く火にかけた。

 そして程よい時に取りだした。


「なんかむちゃくちゃ美味そうなニオイがする!」

「確か仕上げに……先にこのソースをかけてぇ、次に白いソースもかける。白いソースは好みでかけなくてもいいらしい」


「どれどれ? まずは俺が毒見を……」


 傭兵はそう言って、まず甘酢ソースをかけた。


「毒見って、まさか雇用したい相手を毒殺なんかしないだろ」

「念の為ですって!」

「こいつ絶対に先に食べたいだけだ」


「なんだこれ!? めちゃくちゃうめぇ!」


 仲間の食べる様子から、特に問題がなさそうだし、さっきから香ばしい香りで我慢が限界だった団長は自分もチキン南蛮に手をのばし、タルタルソースもかけてから、焼き直しでカリッとなった衣にフォークを突き立てた。


「俺はこっちの白いのもかけて正式な食べ方をするぞ、うん、この方が見映えするってーか、豪華に見えるな。……うん……うめぇ~〜っ!!」


「俺も早く食べてぇ!」

「オーブンが足らない!」

「もう冷えててもそのまま食っていいかな?」


 騒ぎ始める傭兵達。


「それじゃ本来の美味さが伝わないと思うぞ」

「じゃあ力で誰が先に食うか勝負だ!」


 傭兵の一人がテーブルの上で袖を捲って腕相撲のポーズをとった。


「おっ、やるか!」

「おうっ! 望むところだ!」


「いいけどお前ら、ホコリを立てるなよ!」

「俺は先に酒を貰いまーす!」

「あっ! ずるいぞお前!」


「この飯が美味いってだけでも子爵は信用できる! わざわざ下々の者にこんなうめぇ飯を分けてくれるんだからよ!」


「だが素行が悪いと追い出されるだろうから、これからはそこそこ品位をもってだな……」


 ガハハと陽気に笑いながら、傭兵達はチキン南蛮、もとい、チキンの甘酢あんかけを絶賛し、契約を決めた。




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