第77話 その夜のパジャマパーティー

 灯籠祭りの終わりかけに王弟殿下も駆け付けてくれ、諸々のお祝いの言葉をいただいた。


 そして急用でバタバタしてすまないと言って、風のように去って行った。

 何かあったのかな?


 ともかく今夜はユージーンや令嬢達も砦にお泊りなので久しぶりにユージーンと俺は一緒の部屋で寝る事にした。

 今日は男子だけのパジャマパーティーだ。

 誰得なのかは不明。



「ネオ、これからは令嬢達の両親への挨拶回りが待ってるね」



 ベッドサイドのテーブルセットにおつまみのカナッペと野菜スティックとチーズとりんご酒を楽しむ俺達。



「はっ! そうだ、令嬢達のご両親にご挨拶という大イベントが待ってる!!」


 俺は緊張のあまりに青ざめた。


「レベッカ様とエマ様は土地なんかもくれると聞いたけど、予め嫁ぐことを親に話してないと流石に土地は無理だよね」


 確かに、だとすると、結婚報告で彼女らの父親に怒られることはないんだよな?



「それはそうだよな、ニコレット様の持参金の事を考えると牧場は必要なので土地はよかった……あと、薬草園もほしいから作ろう」


 病気は怖いからな。

 備えあれば憂いなし。

 風邪薬、咳止め……とかは潤沢に用意しておきたい。

 インフルエンザでも人は沢山死んでたはず。




「なんにせよ、平民の愛人ではなくて貴族の妻を第三夫人まで娶るのだし、特殊スキル持ちだというのはバレるね」

「それは仕方ないな」


「だからね、僕も早く護衛につきたいから、早く騎士の見習い期間を終える為に剣術トーナメント戦にでることにするよ」

「剣術トーナメント戦?」

「早めに見習いを卒業できるイベント制度だよ」


 なるほど、学校のスキップ制度みたいなものがあるのか。



「上位に入れば早期で騎士になれるから」

「上位って何位までだ?」

「三位」

「だいぶ狭いな、せめて五位内……」

「まあまあ、そこは僕の実力を信じてほしい」


 ユージーンてそんなに強かったのか。

 なんで侍従やってたんだっけ。

 あ、ジョーのためか。


 その時、魔法の伝書鳥が俺の元へ飛んで来た。

 お、もしや早速彼女等の両親のどなたか?

 と、思いきや、


「第一王子の立太子の祝いと辺境伯の跡継ぎが継承の儀の試練を無事終えて戻って来るから冬の星祭りと同時にお祝いパーティーが行われる?」


 という内容だった。

 立太子……第一王子が正式に王太子になるってお祝いか。



「そういえば、ネオが子爵の爵位を賜った時に王の跡継ぎ系の方を見なかったね」


 確かにいなかったのは修行中でしたか。


「この国のあれだと、父親が引退決めた時に普通に継げる訳ではないのか」

「流石に王太子と辺境伯には武力が居るからなのかな?」


「この国ではそういうものなんだなぁ……」



 などと言いながら、俺は魔道具で例の掲示板を眺める。


 掲示板でも第一王子と辺境伯の御子息が無事に試練を終えて帰ってくることが話題にされていた。


 そして、他国からの賓客もパーティーに呼ばれるとも書いてあり、心がざわついた。


 隣国からも来るのか?

 つまりはジョーの出身国……。

 俺、仮面とかつけていいかな?

 もしくは顔を隠すベール的なやつ。


 あちらでは俺は死亡扱いだったとは思うけど、流石にジョーの家族か元婚約者あたりが来ることがあれば、俺を見て驚くだろう……。


 深夜0時をまわる頃に、慌てた兵士が駆け込んで来た。


「子爵様! 大変です! 灯籠を流した砦内の池にクラゲが出現しました!」

「寝ぼけているのか? クラゲは海だろうし」


「それがプカプカ空中に浮いてますので、通常のクラゲではございません!」

「!? 魔物か? 魔法使いと様子を見に行く!」



 俺は慌ててガウンを羽織って自室を飛び出し、ユージーンも追って来た。


そして池に到着したら、確かに青白く発光するクラゲが、池の中央にふわふわ浮いてる。見た目はミズクラゲの触手をもっと長くした感じ。



「ほんとにクラゲが浮いてる! 何か攻撃行動をされたか?」


 俺は見張りの兵士に声をかけた。


「いえ、何も攻撃はされておりませんからまだ見守っているだけです!」

「神々しいですね、頭のてっぺんに十字の模様が入ってますし、邪悪な感じは一切しません」

「むしろ神聖なオーラを感じるような……もしや神獣のたぐいでは?」



 とは魔法使いのコニーとマーヤの見解だ。

 神獣!?



「神獣? あのクラゲが?」

「仲間になりたそうにこちらを、いえ、子爵様を見ていると、うちのウンディーネが」



 空飛ぶクラゲが俺の仲間になりたい!?

いつの間にかコニーはウンディーネを召喚していて、思念で会話をしているようだった。


「なんかゲームに出てくるやつみたいでかわいいから、それも悪くないかもな」



 俺がそう言うと、クラゲは俺の方にすうーっと、近づいて来て、目の前でピタリと静止した。


「今です! 名前を与えてテイムしましょう!」


 コニーが叫んだ。


「名前!? え、えーと、……ミゲール!!」


 ぱああっとクラゲが明るい光に包まれた!


「契約できましたよ!」

「えっ、そうなのか? この子、空飛ぶ以外に何ができるのかな?」

「それはまだ未知数ですが、頭に聖なる十字模様がついてますから、悪いものではないはずです」



 なるほど!

 俺はよくわからないクラゲの仲間をゲットした!

 すごくファンタジーぽくてワクワクするな!



「でもなんで急に池から出て来たんだろ」

「灯籠の灯りが神事的なものになってた可能性はないでしょうか」


「あー、確かに神秘的ではあったな!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る