第30話 戦う合体勇者さま
防御シールドの外に出たオレとレイは、次から次へと襲ってくる敵を、次から次へとやっつけた。
炎に氷、土に水。
レイが飽きないように、使用する魔法に工夫した。
工夫するところがちょっと間違っている気がするが、セツによるとレイを飽きさせないことが重要らしい。
確かに、この激しい戦いの最中に飽きてごねられても困る。
「キャハー」
と楽しそうに魔族を追っかけているレイは、戦っているというよりも遊んでいる感覚なんだろう。
魔族といっても生身の体である。
ロボット生命体であるレイにとっては、剣を振り回したり魔法使ったりするけど弱っちい何か、といった感じのようだ。
怯える様子も疲れる様子も見せない幼児に、魔族はビビり始めた。
「なんかオカシイですよ、奴ら。ここはいったん撤退しましょう」
「ああ、そうだな」
大きな目をギョロギョロさせているドアノーに言われて、ハレンチビキニアーマーのナルキラル将軍がうなずく。
「退却だ! 退却ーっ!」
ドアノーが声を張り上げると、魔族たちが一斉に空を目指して移動を始めた。
退却といっても、かなりの数の魔族が空へ昇っていく。
そのまま行かせてしまったら、すぐにまた襲撃してくるんじゃなかろうか?
オレは訝しんだ。
撤退しようと退却しようと、再び襲撃してくるのでは落ち着かない。
ココはひとつ、徹底的にたたいておくべきではなかろうか?
『私もそう思います、ルドガーさま』
また心を読んだな? AIめ。
でも同意してくれるなら許す。
『レイさまに乗っていけば後を追えますよ』
そうだな。
いっちょ宇宙の旅と洒落こみますか。
『レイさま、ルドガーさまを乗せて宇宙船に変型してください』
「あいっ」
レイは元気な返事と共に、オレをひょいと持ち上げて口の中に放り込んだ。
やっぱり搭乗口はそこですか……。
ヨダレや胃液みたいな保護溶液でベッタベタになりながら、オレは操縦桿を握った。
「ばっびゅーん」
とか言いながら空へと飛び立つレイの中にはオレがいる。
『ルドガーさま。やはり魔族たちは一時的に撤退し、再び攻撃を仕掛けてくるつもりのようです』
AIセツが通信傍受して、魔族側の情報を得た。
魔族は他の星から来た奴らで、大型宇宙船を所有しているらしい。
円盤状の乗り物は、小型戦闘機的な何からしいが詳しいことは知らない。
つか、知る必要もなくない?
既に目視できる所にあるデカい宇宙船を壊してしまえば、しばらくは襲撃しに来られないだろう。
『各自、緊急時の転送魔法陣を装着しているようですから、宇宙船壊してしまっても死体で宇宙空間が埋まってしまうようなことにはなりません』
サラッとAIセツが物騒なことを言ったような気がするが、そういうことなら遠慮は無用だ。
『どうやって攻撃なさるおつもりですか?』
さて、どうしようか。
レイは魔法が使えないらしいし。
物理攻撃か?
「レイちゃん、うちゅうせん、ぶっつぶすっ」
ん、これ以上、教育上良くないことをレイに仕込むと、親御さんたちから苦情が出そうだな。
ここは一発、オレが決めるべきだと思う。
「なぁ、ここから魔法で攻撃をするとして。射出口はどうなる?」
『そうですねぇ。レイさまの口から、ということになるかと』
そうか。口からビーム放っちゃう系か。
「どっち向いて魔法を放てばいい?」
『正面、窓のあるほうですね。ですがレイさまが口を開けますと、ルドガーさまは無防備になりますのでご注意ください』
ん? それはどういうことだ?
『ルドガーさまは宇宙空間と触れ合うことになります』
そうか。それじゃ、攻撃魔法を放つのと同時に防護壁を作る必要があるな。
でも、あのサイズの物を壊すだけの攻撃魔法と同時に防護壁か……ま、なんとかなるでしょ。
「攻撃魔法を放つから、レイに敵の宇宙船に向けて口を開けるように言って」
『はい、承知しました』
レイの腹の中にいるって言うのに、直接話せないのは面倒だよな。
もっとも、直接話せたとしても相手は五歳児だから、さして違わないか。
オレは、カイル王子付きの爺やさんが展開した魔法陣を思い出しながら、攻撃魔法を練り上げていく。
その一方で別に防護壁も構成していった。
大きな力と小さな力を組み上げて魔法を使うのは面倒だが、出来ない事じゃない。
目の前の宇宙船に続々と魔族が乗り込んでいくのが見える。
オレたちの存在に気付いても、攻撃してくる様子はない。
甘く見られているんだろうな、と思いつつ、攻撃魔法陣に魔力を注ぎ入れていく。
「レイに口開けて、って言ってくれ」
『承知しました』
セツの返事が響くと同時に目の前が上下に開いていく。
不思議な光景だ。
レイの宇宙船は上下に分かれるようにして口を開けていき、その先にはデカい宇宙船が浮かんでいる。
宇宙空間は真っ暗で音もない。
なのに、宇宙船はやけにキラキラと光って見える。
魔力を注がれた魔法陣が青く輝きだす。
防護壁と保護溶液が静かに柔らかくオレを包むなか、魔法陣から放たれた攻撃魔法は、真っすぐ敵の宇宙船を目指して飛んでいった。
静かなまま、敵の宇宙船が引き裂かれるようにして砕けていく。
ピカンピカンあちらこちらに見える光は、転移魔法陣のものだろう。
魔族の乗ってきた大型宇宙船は、静かに確実にその姿をボロ船へと変えていった。
一方、レイの体は元の宇宙船へと戻ってく。
セツが報告する。
『どうやら、最後のひとりが転移終了したようです。もう魔族は近くにいません』
「そうか……」
オレは満足感に包まれて、宇宙空間に浮かぶポロ船を眺めた。
『で、あの船はいかがいたしましょうか?』
ん? 何、あのままじゃいけないの?
『レイさまが、あの船を食べたいとおっしゃっていて……』
そうか。
レイも頑張ったからね。
あのボロ船はご褒美として食べていいことにしようか。
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