第28話 逃げ惑う人々

 オレとレイ、そしてアニカは慌てて家の外に出た。


 タミーさんは家にいた方が安全だから、お留守番だ。


「オレはレイと一緒に、魔族が多く集まっている街の中心部に行く。アニカは神殿へ行ってくれ」


「わかったよ、ルド。王城へは神殿から使いを出してもらう。私はケガ人の治療を手伝うよ」


「ああ、そうしてくれ」


 ブルーのマントを羽織ったオレはレイと、深い緑色のフード付きのマントを羽織ったアニカはひとりで、転移魔法陣を起動して移動した。


 レイを伴って辿り着いた街中はひどい騒ぎになっていた。


 当然だ。


 突然、空から魔族が襲来して慌てない人間は少ない。


「魔族だー!」


「宇宙魔族が来たぞー!」


 宇宙魔族の概念だけは、この異世界にもあったようだ。


「皆さん、慌てないで!」


「落ち着いて神殿へ避難してください!」


 神殿で働く者たちが、逃げ惑う人々を誘導していた。


 神官や聖女たちには、防御や癒しの力がある。


 だから魔族の襲撃も防げるし、ケガ人の治療もできるのだ。


 緊急時、魔法塔の者で攻撃魔法が使えない者は、神殿の手伝いをすることになっている。


 だからアニカは神殿に行った。


 あそこなら安全だ。


 オレは空を見上げた。


 うじゃうじゃと魔族がいる。


 こんなに大量の魔族、どこからやってきたのだろうか?


 今までは平和な国だと思っていたのに、一気に様変わりした。


 魔族が他国に住んでいるなんて話も聞いたことがないし、マジで謎だ。


 翼を持っている魔族は自力で飛んでいるが、そうでない者は円盤状の台座に立って空中を飛んでいる。


 空中を浮遊する円盤状の乗り物なんて、この異世界で見たことはない。


 奴らは、この世界では見たことのない技術を持っているようだ。


 マジで宇宙から来たのだろうか?


 円盤状の乗り物は、棒が突き刺さっていたり、金属の棒で回りが囲われているような物もあるが、円盤状の台座しかない物に乗っているヤツもいる。


 体幹半端ないな。


 魔族恐い。


 すでに街のあちこちには攻撃を受けて破壊されたような跡があった。


 白い煙が上がっている場所もあれば、黒いすすをまき散らしながら炎を上げて燃えている場所もある。


 事前に王国全体マッピング記録をしておいてよかった。


 建物の被害だけなら、あとから簡単に修復できる。


 だが人的被害はダメだ。


 アレはマッピング記録できないし、もちろん修復もできない。


 皆をなるべく安全に神殿へと避難させなければ。


 オレは両手のこぶしをギュッと握った。


 空を見上げて敵を確認していると、そのうちのひとつがスゥとオレに近付いてきた。


 円盤状の物に細い棒が刺さっているタイプの乗り物に乗っていたのは、スラリとしていて背の高い一人の女魔族だ。

 

 整った顔だちに金の瞳、赤い唇に褐色の肌。


 そして巨乳。


 身に着けているのはビキニアーマーだ。


 赤い髪と赤いマントを靡かせてはいるが、ビキニアーマーということは、お色気担当の魔族だろうか?


 でも色気っていうのは露出すればいいってもんじゃないだろ。


 必要最低限の場所しか覆ってないし、その紐代わりの細いチェーン必要? みたいな実用性ガン無視のビキニアーマー着てたって、アニカの方が魅力的なんだぞ。


 それは揺るがない、絶対だ。


 譲らないぞ、その一線だけは。


 なんとなく目がいく胸の谷間や腰のあたりなどを意識しつつも、オレは敵の金色の瞳に集中した。


 どんな攻撃を仕掛けてくるのだろうか?


 美しいがキリッとした表情の魔族がオレに話しかけてきた。


「お前が勇者か?」


「いかにも」


 よし、返事ができたぞ。偉いぞオレ。


 逃げ惑う人々が、「ハレンチアーマーの魔族だー!」とか「ハレンチアーマーの魔族が来た、逃げろー」とか叫んでいるような気がするが。気のせいだろうか?


「私は魔族軍を率いるナルキラル将軍だ」


 は?


 女将軍設定なんだ?


「この魔力量豊富でエネルギーたっぷりの星は、我ら魔族が有効活用してやる。ありがたく思え」


 で、この異世界の、この国がある星は魔法量が豊富でエネルギーたっぷりだから狙っているだと?


「私たちの母星は余所にあるが、その星のエネルギーが足りないのだ」


 そんなん住んでる星のエネルギーに合わせて暮らせばいいでしょ?


 どうせアレだ。君ら戦闘民族で消費が激しくて、ってヤツだろ?


 省エネに励めよ、省エネに。


「ナルキラル将軍~、コイツは我々の言うことなんて理解できませんよぉ~。下等な人類なんですからぁ~」


 ナルキラル将軍の隣で粘っこい喋りを披露しているのは、チビでデカ目の魔族だ。


 カメレオン系の魔族なのか、全身が緑色で大きな目をギョロギョロさせている。


 フード付きのマントを羽織っているが、緑の体に緑のマントってどうなの?


「わが忠実なしもべにして副将軍のドアノーよ。そう言うでない。話せば分かるかもしれぬではないか」


 ほうほう。ドアノーっていうんだ、そのチビ魔族。


 ドアホーでなくてよかったね。


「コイツ、ロボット生命体なんて連れてますよ」


「ワタシはレイちゃんっ」


 隣にいるレイを冷酷そうなギョロ目が捉えている。


 レイに怯えている様子はないが、魔族の強さを把握できているかどうかは分からない。


 なにせ、五歳だからな。


 ドアノーってヤツの、デカい目をギョロギョロさせている姿は滑稽だが、油断ならない雰囲気がする。


 見た目は醜いが、知能は高いのかもしれない。


「ふふ。ロボット生命体っていうのは味わったことがないねぇ。どんな味がするんだろうねぇ……」


 ナルキラル将軍は金色の瞳がレイの姿をとらえ、舌なめずりしている。


 赤い唇を赤い舌が這う様は、背筋がぞわぞわする色っぽさと不気味さを兼ね備えていた。


 でもっ、アニカの方がっ、絶対にっ、魅力的だしっ!


 露出なんて少なくたって、アニカは色っぽいし。


 そのうえ賢くて優しくてフワフワなんだからなっ。


 こうして戦いの火蓋が切られた。

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