美的感覚が逆転した世界に転生した冴えない俺、自分に自信が無い美少女を励ましていたらモテまくった

猫野 ジム

第1話 可愛い子ほど自信がない世界

『ただしイケメンに限る。』なんて残酷な言葉なんだろうか。法律で決まってるわけでもないのに。


 俺は冴えない。今の時代だからやんわりと言ったが、はっきり言う。俺はブサイクだ。自分で自分に言うのはセーフにしてほしい。決して自分以外には言わないから許して。


 女の子と付き合ったことなど無い。「俺の内面を知ってほしい!」と言ったところで、そんな機会は訪れない。完全に詰みだ。


 告白も何人かにしてきたけど、全敗だった。数撃っても当たらない。断り方も様々で、やんわり優しく言ってくれる子もいれば、「誰がアンタみたいなブサイクと」と、人に言っちゃいけないことを言ってくる子もいた。


 もちろん見た目だけで判断しない子も大勢いるだろうけど、好みの見た目というものはきっと誰にだってある。それによって第一関門を突破できる確率がかなり変わるだろう。俺はまさしく門前払いというわけだ。


 イケメンだといいイメージの維持が大変そうだから、これはこれで幻滅されるといったことは無いから楽ではあるかな。


 そんなある日、高校の体育館裏である光景を目撃した。告白だ。男子はイケメンだけど、女の子は……俺と似たような感じだ。


 そして女の子がイケメンに言葉をかけている。それを聞いたイケメンは女の子を指差して、何やら言葉をぶつけているようだった。そして手で『シッシッ』という仕草をして去って行った。


 女の子は両手で顔を隠して、その場にしゃがみ込んでしまった。きっと酷いことを言われて泣いているのだろう。気持ちが凄く分かる。放っておけない。俺はその子の元へ駆け出していた。


「あの、大丈夫ですか?」


 俺が声をかけると女の子は少ししてから立ち上がり、さっきのやり取りを話してくれた。きっと俺と同じ苦労をしているんだろう。


 それから俺は考えつく限りの励ましをした。赤の他人からの言葉なんて気休めかもしれないけど、誰かの優しい言葉があるだけで、本当に救われることだってあるんだ。


 しばらくしてその子は俺に「元気が出ました。ありがとう!」と、お礼を言って帰って行った。


(あの子が少しでも元気になってくれたらいいな)


 俺はそう願いながら家までの通い慣れた道を進んだんだ。



 そしてその帰り道に事故にあって今に至る、と。俺、異世界転生しました。


「心配いりませんよ。家庭環境が訳ありなので俺の帰りを待つ人はいないし、未練もありませんからね。だからって死にたいとは思ってなかったですけどね」


 俺が不思議な空間で女神様にそう言うと、直前に女の子を助けたことにより、特別に異世界転生をさせてくれるそうだ。どうやらあの女の子はもし俺が声をかけなかったら、良くないことをしようとしていたらしい。


 そして俺は転生したんだけど……。馬車もいなければ冒険者ギルドも無い。元の世界現代となんら変わらない。

 もちろん「ステータスオープン!」と言ってみたけど、盛大なひとりごとで終わった。


 女神様の説明では、文明レベルは元の世界と同じ。こっち異世界でも俺は高校二年生ということだ。そして現地の人の意識に入り込むといういわゆる『乗っ取り』ではなく、女神様が用意した環境から生活を始めるということらしい。


 そして今度は見た目で苦労しないように、配慮してくれたとの話だ。


 ベッドで目覚めた俺は早速、鏡を見た。どんなイケメンになっているのかワクワクだ。

 だけど映っているのは転生前と全く同じで冴えない姿だった。


(一緒じゃん!)


 女神様がウソついていいの? うーん、生き返ってリスタートと考えればいいかな? ちょっと釈然としないけど。


 俺は一人暮らしということらしい。頼れる人はいないけど、それは転生前も同じだから全く気にならない。その代わり、本当に困った時は女神様に相談できるそうだ。


 今は四月。今日は新学年の初日ということで、友達作りに出遅れることもなさそうだ。女神様の配慮なのだろう。


 俺が学校までの道を歩いていると、同じく登校中の女の子達の声が聞こえてきた。


「ねぇ、あの人カッコよくない?」


「うわ、すっごいイケメン。同じ高校の制服だよね」


 へえ、本当にそんなことってあるんだ。男の俺でもさすがに気になるな。


 俺も一目見ようと辺りを見回したけど、イケメンなんて見つからない。それどころか周りは女の子ばかりだ。共学のはずなのに。そしてなぜか女の子の視線が俺に集まっているような。


(もしかして……俺?)


 まさかな。それに見た目だって変わってないんだ。いやでもこの場に男は俺しかいない。


 そんなことを考えていると、背中に衝撃が走った。どうやら人にぶつかられたようだ。


「あっ!? ごめんなさい! お怪我はありませんか?」


 俺が振り返ると、綺麗な黒髪ロングから見え隠れする大きな目、シュッとした鼻筋、ツヤのある唇。アイドルかと思うほどの美少女が立っていた。


(うわ、めちゃくちゃ可愛い)


「俺は大丈夫です」


「ごめんなさい、少し前が見づらくて」


 その美少女の前髪は目にかかるほどの長さだ。それでは前が見づらいのは当然のこと。


 そんな中、横を通り過ぎようとする男子の声が聞こえてきた。


「見ろよ、あの黒髪ロングの女子、隣のイケメンに告ってるんじゃね?」


「ほんとだ、身の程をわきまえることを知らないのか?」


(あの男子達は何言ってんだ? こんなに可愛いじゃないか)


「あっ……あの、私はこれで失礼します。ぶつかってごめんなさい」


 美少女はそう言うと、足早に学校へと向かって行った。それにしてもあの男子、俺をイケメンだなんてどういう感覚してんだ?


 そこで終わらせてしまうのは鈍感すぎる。まさかとは思うが、この世界は元の世界と比べて、人の見た目の美的感覚が逆転しているのでは? だから俺はイケメンで、さっきの美少女は冴えない。


 そんな仮説を立てて教室へ入ると、見覚えのある姿があった。さっきぶつかってきた美少女が居た。どうやら同じクラスになったらしい。俺がその子を見ていると、目が合った。



—————————————————————【あとがき】


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!少しでも楽しんでもらえれば嬉しいです。


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