第4話 三人の男と、一人目のターゲット

 それから二日後。ボクはマギア・アカデミーのグラウンドにいた。


 太陽がまぶしい。グラウンドではクラスメートたちが『ゴール・ボール』というスポーツで争っていた。

『ゴール・ボール』は簡単にいうとサッカーみたいなスポーツだ。二チームで対戦し、相手のゴールにボールを入れたら点数になる。点数が高い方が勝ち。

 サッカーと大きく違う点は、試合中にマギア――つまり、魔法の力を使っていいということだ。


 今日の『ゴール・ボール』はクラスの交流を図るために開催された。やりたくなければ応援に回ってもいい。ボクは試合に出るのが面倒だったので、芽上めがみセカイ――陽彩ちゃんの隣で見学していた。


『ヤミマギ』の二人目の攻略キャラクター、『咲衣さくいダイチ』はスポーツ全般を得意としており、今も活躍していた。

 ダイチは足で器用にボールを運んでいる。敵の選手が妨害しようと立ちはだかるもマギアで地面を盛り上げてバリケードを作って防御し、華麗なフォームでゴールを決めた。


「よっしゃー!」


 ダイチは白い八重歯をニッと見せてから、ガッツポーズを決めた。太陽がダイチの金髪と、汗がしたたる日焼けした肌を照り返し、やけにキラキラとして見えた。

 ツンツンと自由に跳ねる短い金髪と、エメラルドグリーンの猫目が特徴的だ。身長は公式設定で百六十四センチ。引き締まった体にはほど良い筋肉がついている。

 攻略対象の中で一番小柄で少年っぽい。ミナセとはまた違ったタイプの、アイドルみたいな顔立ちのイケメンだ。


 応援席から黄色い声が上がる。

 ダイチは人懐っこそうな笑顔を浮かべながら女の子たちに手を振ったり、投げキッスをしていた。

 この男はチャラい。主人公のセカイのこともよくナンパをしていた。一見陽キャラだが、やはりヤンデレだ。こいつのルートに入ればそれがよくわかる。


「セカイちゃんとマモリちゃんじゃん。おれの活躍見てたぁー?」


 甘えるような声で小首を傾げながらダイチは尋ねた。

 あえてなのか、ぶかぶかのジャージ姿だ。長い袖から指先をちょこっとだけ出している。いわゆる萌え袖という奴だ。弟っぽさを全力で推してくる姿、正直あざとい。


 自分の魅力を完全にわかっているんだろう。こいつはファンから「小悪魔」扱いされている。

 ちなみに攻略対象の男にはそれぞれイメージカラーが割り当てられているが、ダイチは黄色だ。あざとイエローだ。ミナセは青で、三人目の男は赤だった。


「おれのこと格好いいって思ってたら、デートしてあげてもいーよ。そ・れ・と・も・ちゅーの方がいーい?」


 ずいっとこちらに顔を近づけて来るダイチ。

 陽彩ちゃんに近づくなんて血を見たいようだなこの男。お前のイメージカラーを今すぐ赤に変えてやろうか。……などと思っていると、ダイチの背後から声がした。


「やめろ、ダイチ。芽上さんたちが困っているだろう」


 王侍おうじミナセだ。


「そんなことないってー。ミナは気にしすぎぃ」

「君は気にしなさすぎだよ」


 ミナセとダイチは幼馴染で仲がいいという設定だった。正反対だしあまり気が合いそうにないが、互いに一番の親友だと思っているそうだ。


「ごめんね、芽上さん、姫野さん。ダイチは悪い奴じゃないんだ……」


 ミナセはすまなさそうな顔をした。


「大丈夫よ」と、ひいろ彩ちゃんは答えた。


「ダイチにはよく言っておくよ」


 ミナセはダイチの方に顔を向け、言った。


「あっ、また怪我をしているじゃないか! あっちで回復魔法をかけてやるよ」

「女の子に手当して貰うからいらねーよ」

「また女性に迷惑をかけるつもりか?」

「もー、ミナはおれの母ちゃんかよー」


 ぶつぶつ文句を言いながらも、ダイチはミナセが促す方向について行った。

 ここでどちらかの好感度が一定数あればイベントが続いたはずだ。今のところ、セカイ――陽彩ちゃんに対する好感度はどちらも低い。いい調子だ。


 陽彩ちゃんの方はどうだろうか。


「ねぇ、ひい……セカイ。今の男の子たち格好よかったわね。どっちの方が好みだった?」


 探りを入れるために問いかけた。


 補足だが、原作ゲームのマモリは主人公の気持ちを探ったり、男の好感度を把握して主人公に教える役割を担っている。

 奇しくもボクは原作のマモリと似たようなことをしているわけだ。


「王侍君……かな。グイグイ来られるの、ちょっと怖くて……」


 頭に入れておこう。



 放課後、ボクは教室で男たちを攻略する作戦ノートをつけていた。すでに何度もクリアしたゲームだけど、時々こうやって頭を整理した方がいいだろう。


 まず攻略対象について整理して行く。


 一人目。王侍おうじミナセ。

 水のマギアの使い手で、回復魔法を得意とする。優等生という言葉が似合う、成績優秀な水色髪の美青年。

 性格は真面目で優しくて責任感が強い。ザ・少女漫画の王子様キャラ。


 二人目。咲衣さくいダイチ。

 地のマギアの使い手で、防御魔法を得意とする。チャラくてあざといスポーツ万能な金髪の弟キャラ。

 目立ちたがり屋で甘え上手なかまってちゃん。正反対のミナセとは幼馴染で親友。


 そして三人目は……。


 ボクは窓の外に視線をやった。


 魔成獣ませいじゅうの飼育小屋の近くに、深紅のウルフカットの男を見つけた。

 猛禽のような鋭い釣り目のあの男こそが三人目の攻略キャラクター、『狩人かるとホムラ』だ。火のマギアの使い手で、攻撃魔法を得意とする。

 身長は公式設定で百八十六センチ。ダイチよりもずっと筋肉質で、軍人みたいにがっしりとした体つきだ。

 攻略対象の中で一番男っぽい。青年誌の主人公みたいなデザインをしていて、イケメンというより男前だな。無口で不愛想でクールっぽいキャラクターだ。三人の中で一番ヤンデレ度が低いキャラクターでもある。


 上記の三人に隠しキャラを加えた四人がこのゲームの攻略対象だ。隠しキャラはまだ登場しないので、まとめるのは今度にしよう。


 ホムラは魔成獣の飼育小屋に入って行った。今あそこにいけばあいつとファーストコンタクトが取れるが……陽彩ちゃんとまだ出会っていないあいつのことは後回しでいい。


 今一番危険なのは……、


 ボクはノートに「まずはミナセからだ」と記録した。

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