湧き、消えたモノ。


 ※虫注意。


――――――――


 Aさんが子供の頃のこと。


 Aさんが母親と兄弟、そして親戚と買い物へ行って家へと帰って来たときのことだったそうだ。


 車から降りて買い物袋を持ったAさんは家に入ろうとして、玄関の前で絶句したという。


 玄関のタイルの上に、とある生物達がうねうねと一斉にうごめいていたからだ。


 白い、2センチ程の大きさの大量の蛆虫達がうねうねと、玄関のタイルの上を這っていたという。その数、少なく見積もっても数百。その、数百匹全ての蛆虫がうねうねと玄関の・・・ドア・・へと向かっていたそうだ。


 幸い、玄関は閉まっていたそうだが・・・


 Aさんは、まるでこの蛆虫達が家の中に這入はいろうとしているような気がして、ゾッとしたという。


 呆けていたのは、数分の間。その間に、Aさんの母親がホースで水を撒き、数百匹はいた蛆虫達を庭の土の方へと押し流したそうだ。


 そして、全てを庭へと押し流して、ようやく一息吐いて家の中へ入れたという。


 それから、数十分後。


 Aさんは、玄関にいた数百匹の蛆虫がとても気になって、仕方なくなってしまった。けれど、玄関を開ける勇気は無かったそうだ。


 玄関を開けて、またあんな風に大量の蛆虫がいたら、今度こそ家の中へ這入ってしまう……そう思い、けれど確かめずにはいられず、Aさんは妥協案として窓から外へ出て、怖々と玄関へ向かった。


 すると、玄関のタイルは少し濡れているだけで、ナニもいなかった。更には、あんなに大量に・・・いた蛆虫・・・・を流した庭にも、ナニも・・・無かった・・・・のだという。


 木が生えている庭の土の上には、蛆虫の死骸など、一匹も・・・見当たら・・・・なかった・・・・そうだ。


 更に不思議なことは、Aさん達が買い物に出ていた時間は一時間にも満たない時間だという。

 そして玄関は勿論、庭にも動物の死骸や生ゴミなどが捨てられてはおらず、腐敗臭なども一切無く、数百匹もの蛆虫が短時間で発生する原因となることが不明だった点。


 Aさんの家族と、そして親戚も、玄関先のタイルを這う、数百匹もの大量の蛆虫を見ていた。けれど、その死骸は跡形も無く全て・・消えて・・・無くなって・・・・・いたのだという。


 Aさんの兄弟曰く、「蛆虫は殆ど水分だから、蒸発して消えたように見えたんじゃないか?」なのだそうだ。蛆虫が消えたように見えた理由は、それで説明がつくのかもしれない。


 けれど、蛆虫があんなに大量に、玄関の・・・タイル・・・の上に・・・だけ・・湧いた原因については、未だに不明だという。


 ちなみに、蛆虫が2センチ大の大きさになるには、数日の時間を要するらしい。

 もしもAさん家族への嫌がらせだったとしても、数百匹の蛆虫をわざわざ育てて、他人の玄関に撒くような人がいるのだろうか・・・?

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