第52話
休みの日、杏奈の病室へと亮と恵梨香は2人で向かい、一週間分の授業のノートを手渡す。
「ほらよ、今週の分のノート、いてて……」
腕を伸ばすと、慣れない運動で痛めてしまったのか、亮は声を上げて腕を抑えた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「うん……。ちょっと最近、社交ダンスのために筋トレや体力づくりをしてて……」
「社交ダンスのために体力づくり……? なんでそこまで本気でやってるの?」
不思議そうに杏奈首を傾げる。
そう聞かれて亮は、大量の冷や汗をかいていた。
学校の人たちに、バレたなんて言えず、亮は頭をひねって考える。
「え、えっと……。ほら……社交ダンス踊れないと、これからの人生苦労するだろ?」
身振り手振り、駆使しながら亮はそう伝えると、杏奈はきょとんしていた。
「よくわかんないけど、頑張ってね?」
笑顔で杏奈は亮にエールを送る。
「ありがとう、杏奈……」
隠し事をしてしまった事に、亮は少し心苦しくなるが、これも杏奈を守るため、致し方無い。
「ねぇ、お兄ちゃん? 私も社交ダンス教えてあげようか?」
杏奈そう言いながら、立ち上がろうとする。
「い、いや……。また怪我したらダメだからいいや……」
「そっかぁ……」
残念そうな顔をして、杏奈は急にふらふらとしながら立ち上がった。
そしておぼつかない足で、亮の方へと歩を進める。
「見て見て、お兄ちゃん! 私、ここまで歩けるようになったんだよー」
自慢げに言いながら、歩いていたが、つるつるの床で、転びそうになってしまう。
「危ない!!」
咄嗟に亮は、杏奈に手を差し伸ばして、危機一髪、杏奈を支える事に成功する。
「何やってんだよ、お前……」
「えへへ、ありがとうお兄ちゃん……」
「完全に歩けるようになるまで、頑張ってリハビリしてからにしような?」
「はーい……」
大事にならなくて良かったと、亮と杏奈はほっと一息つく。
夕方になって、病院を出た恵梨香と亮は帰路についていた。
「本当の事、言わなくて良かったのですか?」
不安げな顔をして、恵梨香は亮に聞く。
「やっぱり、杏奈に心配をかけさせるわけにもいかなしな……」
このまま、早く退院されて、社交パーティーに参加させるわけにはいかない。
やはり杏奈には、安心して学園に通ってほしいのだ。
「やはり、亮様はシスコンですね……自分も協力しますよ」
恵梨香もノリ気で、笑顔で罵声を浴びせながらも団結の意思を示す。
「珍しいね……」
「そうですか?」
「またシスコンだと罵声を浴びせられるのかと思ったよ」
少しビクビクとしながら、そう聞くと、恵梨香は亮の肩を持つ。
「ここまで、積み上げてきた努力が水の泡になるのが嫌ですからね」
そう恵梨香は真剣な表情をしながら言う。
もうすぐ、杏奈が復学すると言うのに、亮が積み上げてきたものが、たった1つの出来事で崩れると言うのは口おしい。
それは亮も同じ気持ちである。
「それもそうだな……。頑張ってこの逆行乗り切ろうぜ!」
「はい。頑張ってこのピンチを乗り越えて、コテンパンにしましょう!」
2人は、珍しく腕をがっしりと組んで、団結するのであった。
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