第40話
2人がお見舞いに来る当日となり、亮達3人は智代と唯を駅で集まって話し合っていた。
「絶対、今日は絶対バレないように過ごすぞ!」
「「おー!」」
「おー!」
恵梨香と麻奈美がおーと声を上げた後、スマホの向こう側から杏奈の声も聞こえる。
今日のために、入念に準備をしてきた。
何回も話し合いをしたし、対策も考えてきたし、さらに亮は智代のご機嫌取りのために買ってもらった服を着て来ている。
対策は完璧で、後は2人を待つだけだ。
「桜とか瑞希さん達が来なければいいけどね……」
「あーたしかに……」
あの後、亮のクラスどころか、他のクラスにも広まってしまいた。
桜を論破して泣かした件もあるし、瑞希の耳にも届いている可能性もある。
「流石に大丈夫でしょう。杏奈様の入院している病院なんて特定できる訳もありませんし……」
「ま、まぁそうだよね……」
その後、待つこと数分、黒いリムジンが3人の前にやってくる。
「お待たせしましたー」
「遅くなって申し訳ありません……」
リムジンからは私服姿の唯と智代が降りてきた。
2人の手にはお見舞いの品が入っているであろう紙袋を持っている。
「2人とも、妹のために来てくれてありがとうね?」
「いえ、杏奈様の妹様のためなら、おやすいごようですよ!」
「私も、この日をどれだけ楽しみにしていたか……」
目をキラキラと輝かせながら2人はそう話す。
「それと、私が選んだ服着てくれたのですね……。すごくお似合いですよ!」
「あはは……本当にありがとうね……」
「では向かいましょうか」
照れ笑いする亮に変わって、恵梨香の案内で病院までの道を5人で歩く。
5人で会話をしながら、歩くこと数分、杏奈の病室にたどり着いた。
「杏子様、入っても大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよー」
ドアをノックして、恵梨香が声をかけ、杏奈の返事が聞こえると、恵梨香はドアを開けて中に入る。
それに続き4人も中に入ると、ベッドの上に座った杏奈が待っていた。
「ほ、本当にそ、そっくりですね……!!」
目を丸くしながら恵梨香は杏奈に近づき、杏奈に抱き着こうとしたので、恵梨香は咄嗟に抱き着こうとする智代を止める。
「すいません、まだけが人の身なので、過度なスキンシップはお控えていただけると幸いです……」
「あら、これは失礼しました……」
丁寧に智代は頭を下げると、杏奈は笑顔で大丈夫と言う意味で手を横に振った。
「えっと……、智代さんだっけ?」
「はい、栗花落智代と申します」
「可愛い名前だねー。私は村上杏子だよー」
杏奈がそう褒めると、よっぽど嬉しかったのか、智代は駅にいた時よりも目を輝かせる。
「な、名前を褒められたのは、生まれて初めてですー。嬉しいです!!」
「あははは……。良かったよ……」
手を握って握手してきた智代に流石の杏奈も少し引いた顔をしていた。
「唯ちゃんも、先週ぶりだねー!」
「はい、また会えて嬉しいです!」
2人が杏奈と話している後ろでは、亮や麻奈美が冷や汗を見守っている。
「唯ちゃんはおとなしいけど、智代ちゃんはぐいぐい行くね……」
「そうだね……。でもいつでも動けるように恵梨香が近くにいるから大丈夫だと思うよ……」
近くへまた智代が過度なスキンシップをしないように恵梨香を配置しているが、予断を許さない状況なので、非常に怖い。
「あ、そうだ! お見舞いの品を2人で買ってきたんですー。このゼリー杏子さんのお好きなものでしたよね?」
持って来た紙袋の中から取り出してきたのは、杏奈の大好きな高級フルーツゼリーだった。
「わぁ……。ありがとう、智代ちゃん!!」
「喜んでもらえて嬉しいです。実は私もこのゼリーをよく食べるんですが、杏子さんもよく食べるんですか?」
「うん、大好きだよー! 特にぶどうが大好きで、家にストックするほどなんだー」
「私も、ぶどうが大好物なんです!!」
「本当!? 同じだねー!」
いつの間にか杏奈と智代は高級フルーツゼリーの話で、意気投合をして仲良くなっていて、会話を繰り広げる。
「良かったら、皆さんもお食べになりますか?」
どうやらこの前と同じコンプセットを2つずつ買ってきたようで、ぶどう以外のゼリーを智代は机の上に並べた。
それぞれ、麻奈美は桃、亮は蜜柑、恵梨香はサクランボを取り、唯は林檎を取る。
「やっぱり、ここのぶどうのフルーツゼリーは格別ですねー」
「ですよね、ですよね!」
仲良く会話をするな中に恵梨香や亮や麻奈美は、入っていたが、智代がイレギュラーなことを言い出さないかと、ひやひやとしながら話の輪の中に入っていた。
何事もなく仲睦まじく会話をしていると、そこに、看護師が検査のために病室へ入ってくる。
「あら、お兄……」
「すいません、看護婦さん少しお話が……」
なんと亮の事を、智代や唯の目の前でお兄さんと言いかけてきたので恵梨香が咄嗟に口を押えて病室の外へと連れ出していく。
「え、な、なんですか? 今のは……」
「き、気にしないで唯ちゃん……」
何が起こったかわからず、唯は混乱していた。
「今、お兄さんって言い掛けませんでしたか?」
かなり不信感を募らせた顔をし、亮の事を見つめる。
「いつも男のような服を着ているからお兄さんと間違われるんだよ」
「なるほど、そう言う事ですか……」
そう説明をすると、智代は納得した表情を見せた。
(危なかった……)
何とか窮地を脱出し安どのため息をつく。
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