第38話

 カフェを出た3人は、帰路に着こうと駅に向かって歩き始める。


 しばらく歩いていると、麻奈美が亮の隣に立ち手を握ってきた。


「ひゃ!! な、何?」


 びっくりして声を出すと、それに気が付いた恵梨香がギロリとこちらに目を向ける。


(や、やばい!!)


 視線を感じ取った亮は麻奈美の手を振りほどこうとすると、逆にかなり強い力で握られてしまう。


「観念してね?」


 そう言って、ニッコリと笑ってガッチリと握られた。


「わ、わかりました……」

 

 観念した亮は、おとなしく手を繋いだまま、駅まで歩く事になる。


 隣から、恵梨香がごみを見るような目で見つめられていて、とても気まずかった。


(駅までまだ遠いんだよなぁ……どうしよう……)


 何とかできないかと、考えていると、今度は逆の手を恵梨香から握られてしまう。


「へっ?!」


 突然の出来事に、どうしようかと考えた結果、こちらからも握り返そうという結論となった。


「握り返したら、殺す……」


 握り返そうとした瞬間、殺意の籠ったまなざしで脅されてしまう。


「恵梨香ちゃんも、亮君と手を握りたいんじゃん……」

「別にそんなわけでは……」


 珍しく恵梨香は顔を赤くする。


「ふーん、へー、ふーん……」

「なんですか?」


 ニヤニヤと笑う麻奈美に恵梨香は少し怒った表情で聞く。


「なんでもー」

「あまり調子にならないでください……」


(この会話を俺はどう聞いてればいいんだ……)


 そんな二人の会話を亮は複雑な気持ちで聞きながら、駅に向かって歩いていたのだった。








 麻奈美と別れた後、家に帰った亮はリビングのソファで寝転がっていた。


「亮様、智代様といい、麻奈美様といい、女の子とくっつきすぎで不潔です」


 夕飯の準備をする恵梨香は、亮に向かって説教じみた事を言い始める。


「しょうがないじゃん……。向こうからくっついてくるんだし……」


 口をとんがらせながら、亮は屁理屈を言うと、恵梨香は深いため息を付く。


「次2人不潔な行為をしていたら、亮様にはこれをくらってもらいます」


 そう言いながら、取り出したのは、どこで買ったのかわからない、スタンガンだった。


 不敵な笑みでバチバチとさせながら、脅してくる。


「ちょっと待った! それだけはやばいって!」


 あんなものを食らってしまったらひとたまりもない。


 そう感じた亮は、ソファから起き上がって恵梨香からスタンガンを奪い取ろうとする。


「没収だ! 早くその危ない物をよこせ!」

「な、何をするんですか!? 離れなさい! けだもの!」


 キッチンで2人は、スタンガンをめぐって、ひと悶着していた。


「早く離れないと、本当に怒りますよ……?」

「じゃあ素直に、その危ないものを渡してもらおうか!」


 手に持っているスタンガンに手が届きそうになった時だった、不意に足を滑らせてしまい、そのまま恵梨香を巻き込み、転んでしまう。


「いててて……」

「亮様……」


 気が付けば、亮が押したような形となっており、恵梨香は見たこともない表情を見せる。


 その束の間一瞬で元の表情に戻って、亮の体にスタンガンを押し当てた。


「うぎゃあああああああ!!!」


 かなりの強さで体へ電流が流れてしまい、亮は気を失ってしまう。


「ふん……。ざまぁみろ。死ね猿以下が……」


 相当キレ気味に吐き捨ててリビングから出て行った。


「いてて……」


 恵梨香出て数分、意識を取り戻した亮は起き上がる。


「アイツ料理作ってる途中じゃねーか……」


 キッチンに立った亮は恵梨香が作りかけていた料理を自分で作ったのだった。








 

 その日の夜中、珍しく亮は目が覚める。


「喉乾いた……」


 部屋を出て、水を飲むためにリビングへと向かうとすると、脱衣所に電気がついているのに気が付く。


「恵梨香か? つけっぱなしにするなんて珍しいな……」


 脱衣場に向かうと、中から今まで聞いたことのない女の子の声が聞こえる。


 泥棒か?不審に思った亮は少し扉を開けて中を覗く。


「誰かいるの……!!??」


 すると、そこには、今まで見たことのない表情をした恵梨香がいた。


 しかも手には風呂へ行くときに脱いだ亮のシャツを持っていて、あろうことかそれをくんかくんかとかいでいるのだ。


「はぁはぁ……亮様……亮様……」


 そっとドアを閉めて、亮は混乱している頭を整理する。


 まず脱衣所の中に恵梨香がいました、自分のシャツを持ってくんかくんかと匂いながら、興奮していました。


(いやいや訳わからねえよ!!!)


 そもそも何故、普段罵声を浴びせたりして、自分を毛嫌いするような恵梨香があのような行動していたのか亮には到底理解ができなかったのだ。


 いや今のは自分の見間違いかもしれない。そう思った亮はもう一度脱衣所を覗こうと決める。


「どうかされましたか? 亮様」

「わぁ!! え、恵梨香いつの間に……」


 振り向くと、そこには脱衣所から恵梨香が出てきていた。


 バレたかと思って亮と同じく、動揺していると思いきや、平然としている。


「早く寝た方が良いですよ、猿以下の猿さん」


 動揺している亮を気にすることなく、恵梨香は自分の部屋へと戻って行く。


「いつもの恵梨香だ……。そうだよな恵梨香があんな事する訳ないもんな……俺が寝ぼけていただけかもしれん」


 先ほどの事は幻覚だと自分に言い聞かせて水を飲みすぐに眠りにつくのだった。

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