第21話

 休日、何時ものようにお見舞いに来た亮は杏奈にお泊り会の時に撮った写真を見せながら説明をしていた。


「唯ちゃん可愛い……。いいなぁすっごく楽しそー……」

「唯は、杏奈の事を慕って入ってくれたんだぞ?」

「そうなんだ。すごく嬉しいなぁ……。ねぇもっとよく見てもいい?」

「ほらよ」


 スマホを手渡すと、杏奈は楽しそうに写真を見つめていた。


 暫くスマホを眺めていた後、スマホを机に置いて亮の方を向く。


「どうした?杏奈?」

「お兄ちゃん……」


 急に神妙な面持ちになってこちらを見つめるので、亮は身構えしまう。


「サロンメンバー、もっと知らない女の子がほしい」

「え……?」

「ほらだって、サロンのメンバーは4人もいるけど半分は知ってる娘じゃん~!」


 集合写真を指差しながら、杏奈は亮に訴えかける。


 確かに、初見のメンバーは唯だけだが、杏奈と親交のある人、さらに杏奈に相応しい娘か慎重に吟味した結果だ。


「あのなぁ……。これはいろいろとお前の事を思って……」

「やだやだー! もっと他の娘とも仲良くしたいー!!」


 また杏奈の駄々こねが始まってしまったと亮はため息を付く。


「なぁ、恵梨香も杏奈に何かを言ってくれよ……」


 近くで花瓶に花を飾っていた恵梨香に助けを求めると、こちらをギロっとにらみつける。


「妹がこんなにも、頼み込んでいるのにそんな事にも答えられない無能な兄貴なんですか?」

「うっ……お前なぁ……」

「ねぇ……お兄ちゃん? お・ね・が・い」

「わ、わかったよ!」


 甘えるようにお願いする杏奈に亮は屈して了承した。


(はぁ……またいろいろと吟味しないとなぁ……)


「皆、やっほー」

「あ、麻奈美ちゃん!」

「麻奈美様。ご機嫌麗しゅうございます」


 病室に私服姿の麻奈美が入ってくる。


「何してたの?」

「杏奈にこの間のお泊り会の写真を見せながら、いろいろと話してた」

「へぇ。そうなんだ」

「麻奈美ちゃんも一緒に見る?」

「うん、見る見る!!」


 杏奈の寝ているベッドの近くに椅子を持っていくと、くっつくように一緒に写真を見ながら楽しく話し始めた。


「そういえば、お兄ちゃんお風呂はどうしたの?」

「え、えっとその……」

「私達と一緒に入ったんだもんねー、亮君?」

「ま、麻奈美ちゃん!?」


 唐突な麻奈美のカミングアウトに、亮は顔面蒼白になる。


「そうでしたね、唯様に圧されて入っていましたね」


 追い打ちをかけるように恵梨香はニヤっと笑い、からかうような口調言う。


「うっ……」

「ねぇ、ねぇ。女の子3人とお風呂に入れたどうだった?」

「どうだったって……」

「後、亮君、唯ちゃんに背中を流してもらってたよね?」

「ッ!?」


 杏奈の質問に答えようと考えていると、麻奈美からのさらなるカミングアウトが繰り出される。


「へぇ……。これはいろいろと話してもらう必要があるねぇ……」

「唯ちゃんに背中を流してもらった感想とかいろいろ聞きたいなぁ~」

「勘弁して~!!」


 その後、2人からの質問地獄は1時間以上にも及んでいたのだった。

 





「疲れた……」


 病院から出た亮は疲労感満載で歩いていた。


「大丈夫? 亮君?」


 そう言いながら麻奈美が水を差しだしてきたので、亮は受け取る。


「ありがとう。麻奈美ちゃん……」


 受け取った水を飲んでいると、ふとある事を思い出す。


「あ、そうだ麻奈美ちゃん。サロンに新メンバーを入れようと思うんだけどさ、いいかな?」

「新メンバー……? いいけどなんで?」


 急に増やすと言われて、きょとんとした様子だったので、麻奈美が来る前に杏奈から言われたことを説明する。


「あぁ、なるほどね……確かに唯ちゃん以外は杏奈の顔見知りだからね……気持ちは分かるかも……」

「分かってもらえてよかったよ」


 正直これ以上メンバーを増やされたら困るなんて言われたら、どうしようかと思っていたが、そんな事にならず良かったとほっと一息ついた。


「で、どんな娘を入れるつもりなの?」

「う……うーん……」


 急に聞かれて、亮は頭を悩ませる。


 出来れば杏奈の事を慕ってくれる女の子が手っ取り早く見つかればいいのだが、そんな娘を唯のように、簡単に見つけられるのだろうか?


 すると、頭の中に1人の女の子の顔が浮かんでくる。


「桜を引き抜くとか……?」

「却下!」


 即答で麻奈美に拒否られてしまう。


 だが、誘ったところで桜は瑞希のサロンを脱退する気はないだろうし、杏奈も断固拒否するだろう。


(入学式から、だいぶ時間は経っているからほとんどの生徒はサロンに所属してるだろうし、難しそうだなぁ……)


 これは相当な難題だと、亮は頭を悩ませていたのだった。

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