第11話
数分後、落ち込んだ様子の亮と何もなかったかのように、恵梨香が戻ってくる。
「杏奈様、どうしたのですか……」
「あー……。あんまり気にしないで……」
気を遣った唯が、麻奈美に聞くと、とても言いにくそうに答えた。
「そ、そうですか……」
察した唯は、それからはもう何も言わなかった。
改めて、全員揃ったところで、佳苗はピンポイントでこのサロンルームの床だけが、掃除のした時にワックスを塗っていたと謝罪を受ける。
「本当にごめんね……。ちゃんと話を聞いていればこうはならなかったのに……」
「いえ、別に気にしていませんので大丈夫ですよ」
隣にいた4人も同調して、首を縦に振る。
「ありがとう……皆……。お詫びとしてこれあげるから皆で食べてね」
そう言いながら佳苗は、持っていた手提げカバンから高そうなお菓子を大量に机の上に置き、サロンルームから出て行った。
3人が目を輝かせながら、高級なお菓子を手に取って食べているが、亮は躊躇して手が出せない。
(お詫びとは言え、こんなのもらっていいんだろうか?)
「えい!」
食べないでいると、隣から麻奈美がロールケーキを亮の口にねじ込んだ。
「んむー!! 何するのー!? 麻奈美ー!!」
「だって、杏奈ずっと食べないで考え込んでるんだもんー」
可愛く舌を出して、いたずらっぽく笑う。
「杏奈様、これすごくおいしいですよー? 食べないんですかー?」
幸せそうに食べる唯に太鼓判を押されて、ねじ込まれたロールケーキを一口ほおばる。
「おいしい……」
流石は高級お菓子、普段食べているロールケーキとは一線を画しているおいしさだ。
あまりのおいしさに気づけば、亮はロールケーキ以外のお菓子にも手を伸ばしていた。
机の上のお菓子が少なくなってきた頃、ふと唯が口を開く。
「そういえば、サロンって何をする集まりなんですか?」
「こうやって、お菓子を食べたり、楽しく話したりする集まりだよ」
亮はそう説明すると、唯は「へー」と納得した様子でお菓子を頬張る。
「サロンって、いろんな悪い面もあるって聞きましたけど、私は杏奈様のサロンに入れて良かったです」
「唯ちゃんがそう言ってくれて嬉しいよ」
そう唯から言われて、改めて自分で作って良かったと亮は実感する。
(早く杏奈にも見せてあげたいな……)
「あ……」
何かを思いついた亮は、スマホを取り出してカメラを起動した。
「皆、写真撮って良い?」
「私はいいよ」
「私も構いません」
「だ、大丈夫です!」
3人の了承を得て、内カメラに4人が入るように収めてシャッターを押す。
「あの、誰かに送ったりするんですか?」
「うん、大切な人にね」
亮はメッセージアプリを開き、先ほど撮った写真を杏奈に送ると、すぐにありがとうというスタンプが送られてきた。
その反応を見た亮は、見て作って良かったと改めて思うのと同時に早く杏奈自身に体験させてあげたいなと窓の外を見て思いにふけっていた。
「お邪魔しますわー!!」
突然ドアが開いたかと思うと、桜がサロンルームに入ってきた。
追い出せと言わんばかりの表情を麻奈美はするが、可愛そうなので少し相手をしてあげることにする。
「桜ちゃんいらっしゃい。どうしたの?」
「杏奈さんが、サロンを開設したと噂にしたのでお祝いに駆け付けましたわー」
流石お嬢様学校。噂の広がりが早い……。
「ちなみに私は、瑞希さんのサロンに誘われて入らせてもらいましたの。いいでしょう?」
「へ、へぇ……」
(俺も誘われたんだよな……断ったけど……)
軽くあしらうように、返事をするが桜は止まらなかった。
「瑞希さんは私の才能はを認めてくれたのですのよ?ね?すごいでしょ?羨ましいでしょ?」
周りで聞いていた唯もうっとしそうな顔をしており、麻奈美にいたっては舌打ちまでするくらいに怒っている。
早くこいつを追い出してくれ、そう思っていた時だった。
「しつこい」
2人の前に、恵梨香が割り込み、鋭い眼光で桜を睨みつける。
「ひ、ひぃ!!! ごめんなさーい!!!」
恐怖に耐えきれなくなった桜は、逃げるように外へと出て行った。
「ありがとう、恵梨香」
「いえ」
「あいつ、神宮寺サロンに入ったって言ってなかった?」
「言ってたね」
そう答えると、麻奈美はガタガタと震え始める。
「あんな風に追いだして、瑞希さんの逆鱗に触れないよね……?」
「わ、わ、私達ひ、ひどいことされるんですか!?」
涙を浮かべながら、唯も麻奈美と同じようにガタガタと震え始めた。
「だ、大丈夫だって! 私が何とかするから!」
「本当に!?」
「流石杏奈様ですー!!」
安どの表情を浮かべた2人は、うれしさのあまり亮に抱き着く。
「く、苦しい……」
だが、そうはいったものの、瑞希からどんなことをされるやらと、内心亮も震えていた。
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