第8話
「ど、ど、どうするのー!?」
昼休憩、亮は顔が真っ青になった麻奈美から問い詰められていた。
「大丈夫でしょ……」
「も、も、もししっぺ返しとかされたら……」
ビクビクと震えて相当ビビっているようだ。
「まぁ、それは後で何とかするから、安心して」
亮の力強い一言で麻奈美は安心した表情で「うん」と言いながら頷く。
それよりも、サロンを自分で設立できることは朗報だ。
杏奈に居場所を提供出来るし、自分で作れば人選は自由だし、よく分からない政治にも無縁でいられるし、仲のいい友達と楽しく過ごせる最適な空間だと思う。
思い立ったが即行動という事で、教壇に立っていた佳苗に相談を持ち掛ける。
「サロンを作るのは良いんだけど、メンバーは何人いる?」
「いえ、まだ私1人なんですけ……いてて!!」
隣で聞いていた、麻奈美が不機嫌そうな顔で亮の手のひらをつねった。
どうやらのけ者にされて怒ったらしい。
「どうしたの? 村上さん」
「い、いえ……2人です」
不思議そうな表情で聞いてくる佳苗に亮は焦った顔で何事もなかったかのように振る舞う。
「えっとねぇ。サロンを作るには最低でも4~5人メンバーが必要なんだよねぇ。またメンバー集めて私のところに来てね」
「そんなぁ……」
そう言って、佳苗に却下されてしまった。
「ひどいよ……仲間外れなんて……。私も杏奈の友達なのに……」
「ごめんって……麻奈美ちゃん。悪かったよ……」
麻奈美は頬を膨らませて、かなり機嫌が悪いようだ。
反省した顔を見せる亮を見た真奈美は少し笑って亮に近づく。
「まぁ、今日は許してあげるけど、次はないからね」
「分かった……」
ほっと一息をつくと、改めてどうやってメンバーを集めるか考える。
「誰かあてはあるの?」
「まぁ、一応1人、多分入ってくれる人がいるよ……」
「恵梨香ちゃんだよね?ちゃんと説明すれば、絶対入ってくれる思うんだけど……」
「まぁいろいろあるんだよ……」
そう言いながら亮は、スマホを取り出して、恵梨香にメッセージを送る。
「何か、ご用でしょうか?」
メッセージ送って数分後、送り主である恵梨香が目の前に現れた。
「杏奈のためにサロンを作ることになったんだ。メンバーが足りないから……」
「入ってほしいってことですよね?いいですよ」
「え……」
あっさりと、普通に入ってくれたことに驚く。
何か、また罵倒をしてくるのだと思っていたが、流石に恵梨香も事情をわかってくれたようだ。
「ありがとう。恵梨香ちゃん!!」
隣にいた麻奈美も嬉しそうに恵梨香の手を取って喜ぶ。
「いえ、ろくにメンバーも集められない、人が可哀そうだと思ったので……」
「ぐッ……」
遠まわしだが、自分のことを言われているのはわかった。
確かに、杏奈の人徳ならクラスメイトから自由に選出出来るだろう。
だが、誰でも良いわけでもない。
(ちゃんと杏奈に相応しい娘か、見極めないと……)
そう思っていると、突然後ろから怒鳴り散らすような声が聞こえてきたので、振り向くと小さな女の子が、恐らく同級生であろう生徒3人に囲まれているのが見えた。
「ねぇ……あれやばいんじゃない?」
「助けに行こう!」
3人は小さな女の子のもとへと走り、声をかける。
「なんだよ、お前ら……」
「何やってるか、知らないけど、弱い女の子に大勢で寄ってたかるのはひどいんじゃない?」
小さな女の子を擁護するように注意をすると、3人は「違う!」と一斉に声を張り上げる。
「そいつが購買でロイヤルプリンを3個も買ったから、売り切れたんだよ。私たちも食べたかったのに!!」
何というしょうもない理由。
食べ物の恨みは怖いと言うが、流石にこれでこの小さな女の子がいじめられるのは可哀そうだ。
(しょうがないか……)
「ゴホン」と一回咳払いをして、亮は目を光らせた。
「いやいや、たった3つ買っただけで怒るなんて流石に心が狭すぎますよね……。そもそも本当に食べたかったら貴方たちがこの娘より先に並べばよかった話なのでは? というかプリン如きでこんなにも追い詰めるなんて、正直ださくないですか……?」
配信で培った論破術を亮は繰り出すと、何も言い返すことができなかった3人は、心底悔しそうに退散していく。
後ろで見ていた2人も「おー」と歓声を上げながら拍手をする。
(ふぅスッキリした……)
久しぶりに論破してスッキリした亮は、清々しい表情をしていると、小さな女の子が寄って頭を深々と下げた。
「あ、あの……。あ、ありがとうございます! えっと私、
「私は村上杏奈だよ。別にこれくらいお安い御用だよ!」
「柏崎麻奈美だよ」
「本宮恵梨香と申します」
それぞれ3人は自己紹介をすると、何度何度もお礼を言って頭を下げる。
「本当にありがとうございました!! では私はこれで……」
「早い……もう行っちゃった……」
彩香は3つのプリンを抱えてどこかへ消えて行ってしまったのだった。
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