第4話
「助かった……」
駅のホームに引きずり出された亮は、息も絶え絶えだった。
「大丈夫?」
そう言いながら亮の顔を覗き込んできたのは、茶髪で長髪のクラウンハーフアップで、花の髪飾りを付けた清楚な如何にもお嬢様という見た目の女の子だった。
同じ聖ブリリアント学園の制服を着ていて、ケープに緑色の線が入っているので、亮と同じ新入生のようだ。
「うん、大丈夫だよ。助けてくれてありがとうね」
亮は一瞬にして女性声に変える。その声は杏奈と全く変わらない声色だった。
小さい頃から、良く入れ替わる事が多かった亮や杏奈は良くお互いの声を出せるようによく2人で練習することが多く、杏奈は亮の声を出せるし、亮は杏奈の声を出せるという訳だ。
「ううん、同じ新入生なんだしお互い様だよ?あ、自己紹介がまだだったね。私は
「村上杏奈だよ」
「杏奈……」
お互い自己紹介が終わった後、真奈美は亮の顔を不思議そうに見つめる。
「どうかした?」
「ううん、なんでもないよ! 早く学園行こう?」
学園へと向かう真奈美の後姿を見ていると、ふと頭の中にぼんやりしたものが浮かぶ。
(それにしても真奈美って名前……。どこかで聞いたことが……)
だが亮は思い出すことができなかった。
学園に近づくにつれ、心臓の鼓動が高鳴って来ていた。
(本当にバレないよな……)
バレないよう、完璧に恵梨香から手ほどきを受けてきたが、それでもやはり不安は不安だ。
「どうしたの?」
門の前で、躊躇していたのを見て不思議そうに真奈美が声をかける。
「あぁ……ごめん! 今行く!」
意を決して門をくぐると、聖ブリリアント学園の校舎が現れた。
(すげぇ……ここが聖ブリリアント学園……)
全国の名だたる名家のお嬢様が通う中高一貫の学校。
教室棟、教官棟、体育館、寮がある棟等、何個もの大きな建物があって敷地の大きさは東京ドーム5個分もあるらしい。
あまりの大きさに亮は圧倒されていた。
「杏奈、新入生の人は体育館に行ってくださいだってさ」
麻奈美が指を指した方向には、何人かの在校生が、新入生を誘導する立て看板をもって立っているのが見える。
「早く行こう?」
「ちょ、麻奈美ちゃん!!」
そう言うと、真奈美は亮の手を引いて走り出したのだった。
入学式が始まると、体育館内は厳正な雰囲気に包まれる。
300人近くいる新入生は学園長の話に耳を傾けていた。
そして、ほどなくして、新入生代表の挨拶の時がやってくる。
壇上に立ち、杏奈の評判を落とすまいと練習してきた挨拶が書かれた紙を開き読み上げ始める。
「本日は、新入生代表として、この場で挨拶をさせていただく機会を頂き、大変光栄に思います。新入生一同を代表して、心からの感謝の意を表します。ここに集う皆様と共に、充実した学園生活を送ることを楽しみにしています。そして、互いに励まし合い、支え合いながら、素晴らしい学園生活を築いていきたいと思います。」
紙を閉じて、読み終えると、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
(ふぅ……緊張したけど、一言一句、嚙まずに読み上げることができたぞ)
ほっと一息ついて、静かに壇上を降りようとした時、目の前に座っていた1人の女子が突如として立ち上がってた。
「貴方が成績1位なんて認めません! 絶対に成績2位である
亮のことを指指して、桜と名乗る少女は高らかに宣言する。
突然の出来事に唖然とする亮と周りにいた生徒達。
(え……何……?? でも……ぷりぷりしててかわいいな)
かなり怒っているようだが、背が小さくツテインテールという事も相まってあまり恐怖は感じなかった。
むしろ逆にぷりぷりとしていて、可愛さも感じる。
「お互い頑張ろうね」
そう言って、亮はウインクをすると、自分の席へと戻っていく。
後ろからは「ぐぬぬ」なんて言う悔しそうな声も聞こえてきた。
(本当にかわいいな……)
「何あの娘……、鳴海財閥のご令嬢だからって調子に乗って……」
自分の席へ戻ると、隣に座っていた真奈美が不機嫌そうな顔をして、小声で話しかけてくる。
どうやらあの娘は、有名な財閥のご令嬢様らしい。
「ま、まぁなんかすごい娘だったね……」
「何が引きずりおろしてみせるよ……。杏奈も負けちゃだめだからね!!」
「はい!」
念を押すように顔を近づける真奈美に圧倒されながら亮は答えたのだった。
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