第14話

子供達を迎えに来た親御さん達の車が駐車場に並んでいる。

 親御さん達はグラウンドに入り、我が子のもとへ向かっている。

 僕ら三人は駐車場から道に出ようと歩いていた。

「貴方」

 背後から女性の声が聞こえる。

 僕ら三人は振り返った。目の前には江頭さんと同年代ぐらいの綺麗な女性が立っていた。

「……由紀」

 江頭さんは目の前にいる女性を見て言葉をこぼした。

 きっと別れた奥さんなのだろう。

「おい。龍聖」

 小声で龍聖に話しかける。

「なんだよ」

「空気読むぞ」

「そ、そうだな」

 僕と龍聖は二人の邪魔をしないようにさりげなく近くに停まっている車の陰に隠れた。

「どうだった。雄平は?」

「楽しそうに野球してたよ」

「そう。ちょっといい?」

「何だよ」

「……雄平の夢って知ってる?」

「……知らない」

「教えてあげる。でも、驚いちゃだめよ」

「……おう」

「……どこでも守れるプロ野球選手」

「え?」

 江頭さんは言葉を聞いて、固まってしまった。

「驚いちゃ駄目って言ったじゃない」

「…………」

「やっぱり親子ね」

「……そうか……そうか」

 江頭さんは必死に涙を堪えている。

「ねぇ、今度三人でご飯行きましょう」

「……それは」

 江頭さんは首を横に振る。

「大丈夫よ……大丈夫だから」

 女性は江頭さんの手首を掴み、包み込むような声で言った。

「……由紀」

 江頭さんは涙を堪えきれなくなり、大粒の涙を流した。

「本当に昔から泣き虫なんだから」

 女性は江頭さんを抱き締めて、頭を撫でる。

「ごめん、ごめん」

「やり直しましょう。もう大丈夫よ」

「……ありがとう。ありがとう」

 江頭さんの涙は止まらない。

「……もう、しっかりしてよ」

「……悪い」

「一人だけずるいわよ」

 女性は江頭さんの泣いている姿を見て、耐え切れなくなり泣き始めた。

 僕は二人の姿を見て、もらい泣きをしてしまった。

「なぁ、真一」

「なんだよ」

「なんか、いいな」

 横を向くと、龍聖は僕以上に号泣して、顔がぐちゃぐちゃになっていた。

「そうだな」

 僕は龍聖が友達で良かったと心の底から思った。


 すっかり夜になった。星達が夜空で煌いている。

 僕ら3人は泉丸書店に向かっていた。

「すまないね。見っともない姿を見せてしまって」

 江頭さんは照れながら言った。

「そんな事ないですよ」

「……ありがとう。君のおかげで前に進めた気がするよ」

「いえ。江頭さんが頑張った結果ですよ。頑張ってくださいね。応援してます」

「……ありがとう」

「はい」

 笑顔で返事をした。

 そうこうしている内に泉丸書店にたどり着いた。

「これを返すよ」

 江頭さんは鞄から「  」を取り出し、僕に手渡した。

「はい。これで依頼終了です」

「本当にありがとう」

「いえいえ。気をつけて帰ってください」

「あぁ。それじゃ失礼するよ」

「はい。さようなら」

「お疲れ様でした」

「さようなら」

 江頭さんはそう言って、去っていく。

 僕は去って行く江頭さんの後ろ姿を目に焼き付けるように見つめた。

 理由は分からない。けれど、そうしなきゃいけないと思った。

「……なんか、今日いいもん見れた気がするよ」

 龍聖は江頭さんの後ろ姿を見ながら呟いた。

「そうか。今日はありがとうな」

「いいんだよ。いつも世話になってるんだからさ……あ、そうだ」

「急になんだよ」

「今度キャッチボール付き合え」

「はぁ、いきなり言うなよ」

「そう言うなって。頼むわ」

「……分かったよ」

「決まりだからな。それじゃ」

 龍聖はそう言って、去って行った。

「おい!龍聖」

 勝手な奴だ。でも、憎めない。だから、ずっと友達でいるのだろう。

 僕は空を見上げて、大きく深呼吸をした。

 身体中に新鮮な空気が流れてくる。

「よし」

 僕は泉丸書店の自動ドアの前に立つ。

 自動ドアが開き、僕は店内に入る。

「帰りましたー」

 レジカウンターにいる小山さんに向かって言った。

「お、帰って来たか。どうだった?」

 小山さんが僕に気づき話しかけてくる。

「まぁ、成功ですかね」

「そうか。それはよかった」

「本、戻しますね」

「あぁ、頼む」

 僕はレジカウンターから布巾を取り、「  」の表紙を拭き、貸本コーナーの元々置いてあった場所に「  」を戻した。

「ちょっと休憩してから帰りますね」

「おう。今日は特別にジュースとお菓子をお前の為に買ってあるから食べろ」

「マジですか?本当に店長?」

 小山さんの気遣いに驚いた。普段接している小山さんとはにわかに信じがたい。

 僕は疑いの目で小山さんを見る。

「正真正銘わしだ。変なこと言うならわしが食べるぞ」

 小山さんだ。正真正銘の人使いの荒い小山さんだ。

「すいません。ありがとうございます」

「黙って食って来い」

「はい。美味しくいただきます」

 僕は至福の時が待っている事務所に向かう。

「真一」

 小山さんが僕を呼び止める。

「何ですか?」

「……お前に合ってるかもしれないな」

「何がですか?」

 小山さんの言った言葉の意味が理解出来なかった。

「いや、何も。休憩して来い」

「……はい。分かりました」

 僕は小山さんの言葉の真意を聞かずに事務所に向かった。

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