夢魔の花園 初案
夢魔の少女に安らぎを。2
誰かの作った遊園地で遊ぶ夢から覚めて起きるまでの隙間のような時間で、私は私自身の夢を見ました。
「わたし、もっと楽しい夢がいい! 夢を見ている人も一緒に楽しめるようなそんな夢!」
『素敵な夢だね。そうだ! この子をキミの使い魔にしてあげてもらえないかな――』
なにか怖い目に遭ったはずなのに夢を語る幼い私と顔の見えない男の子の会話が聞こえます。――これは過去、けれどそれを今はわかるのにすぐに忘れてしまう、夢の中でしか再演されない泡沫の記憶。視界が明るい光に染まっていき意識が肉体へと浮上していくのを感じました。
「また、あの人に逢いたいな」
伝わらないこの言葉は私の願いです。この人間界のどこかにきっといるその人に、私は逢いたいーー。
♦♦♦♦ ♦♦♦♦ ♦♦♦♦
私、サユ・ナイトメールはとある事情で人間界へとやってきた
「ぅー、げっぷぅ」
そんな私は抱いて寝ていた使い魔で友達のクゥちゃんから可愛らしいゲップ音が聞こえて目を覚ましました。
「んー! おはよう、クゥちゃん! 今日も夢をありがとっ♡」
「くぅくぅ~っ♪」
上半身を起こして腕を上へと伸ばします。今日も快眠、絶好調! この子は夢喰い
「私が夢魔女だとわかると目つきが変わって怖かったもんね。ほんと、クゥちゃんがいてくれてよかったよー」
「くぅ~~っ♪」
夢魔は寝ている間に他人の夢へと侵入します。それは種族としての強制的なものでそこに私の意思は関係ないのです。そして、夢魔女は男性に夢の中で快楽を与えて虜にするために存在している……のですが、私はそれがどうしてもダメで夢魔女教育課程も欠席、悪魔学校を退学になり魔界を追放されました。
そんな私と幼い時から一緒にいてくれるクゥちゃんは、私の嫌いな男性の欲望から守てくれる
「ぐへへ、今日もとてもお可愛いですね。ええ、本当に寝顔も寝起き姿も可愛くて、私が
「ひっ! ……だ、だれ?」
ですが、そんな穏やかな時間はすぐに終わりました。部屋のどこからか変態的な発言が聞こえてきたのです。私は恐怖心を抱いて急いで布団を抱き寄せ、無駄だと思っていても不審者に体を許したくない。そんな一心で身を固めます。
「失礼。心の声が駄々洩れになっていたようです。それはそうとサユお嬢様、おはようございます」
「マ、マイヤー!? あなた、一体どこに――」
「くぅ~?」
朝の挨拶をされてようやく、侍女であるマイヤーの声とわかりキョロキョロと周囲を見渡しました。けれど部屋には彼女の姿が見つかりま……せんでしたが、クゥちゃんがベッドの下から伸びた棒とその先端に取り付けられたスマートホンを見つけて鼻でつつきます。私はその持ち手側、ベットの下を覗き込みました。
「……おはよう、マイヤー。えっと、自撮り棒は盗撮のために使いものではないと思うのだけど」
「それはもちろん存じております。しかし、お嬢様の成長の記録をご両親へと報告するのが私の仕事……であるなら! 最高に可愛いサユお嬢様の寝顔や寝起き姿を撮影する責任があるのです!」
確かに過保護なお父様とお母様は魔界を追放された私に住む場所、お金、使用人まで付けてくれました。代わりに近況連絡は定期的にすることを条件にです。なのでマイヤーの行動は確かに職務の一環なのですが……。
「とりあえずその自撮り棒とベット下に潜ることは禁止します。それと罰として最高に可愛く身嗜みを整えてください」
許される行為と許されない行為があるのです。部屋に勝手に入ってくることまで禁止してしまうと私に何かあった時に困るのでこの辺りが妥協点でしょうか。
「っく、罰は素直に受けます。ですがお嬢様、そんなに意気込んでも女学院ですよ?」
「だからこそです!」
「夢魔女だからと汚らわしい目を向けられない楽園……私はこの学院で友達を作るのよ!」
私は拳を突き上げて夢を語ります。昔、『夢を見るのは素敵なことだけれど、それを現実のものにするのは自分自身の力だよ』と、夢の中で私を救ってくれた人が言っていました。……いつだったかも何から救ってくれたのかも、誰だったかすらも思い出せないですが。
「はいはい。お嬢様の熱意はわかりましたから、とりあえず布団から出て顔を洗ってお着換えしましょうね。済んだら呼んでください。それまで私は朝食の準備をしていますので」
いつの間にかベットの下から抜け出していたマイヤーは、それだけ言い残すと部屋から出て行きました。
「いつもありがとう。マイヤー」
たまに変なところはあるけれど、幼いころから親し気に世話を焼いてくれるマイヤーの背中にお礼を投げます。いつか恥ずかしさよりも伝えたい気持ちが勝り、正面から言える日が来ることを願って。
それから顔を洗い、制服に着替えてからマイヤーに身嗜みを整えてもらました。ここの制服は女学院では珍しく現代風で可愛いと思いましたが、身嗜みを整えてもらった制服姿の私も別人のように可愛くてびっくりしました。それから朝食を食べ、少し早めに学校へと辿り着くような時間に登校を始めます。
「それじゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃいませ、サユお嬢様」
マイヤーに手を振って玄関を開けて外へと足を踏み出します。季節は初夏、緑の匂いと暖かな日差しを浴びました。
「私の初登校! 頑張るぞー!」
人気の少ない早朝の通学路を意気揚々と進みます。空気もなぜか美味しく感じて、特別な朝を演出しているようでした。そうこうしながら気合を入れて登校してきた私は……校門を抜けた先、オシャレなカフェテラスが見える中庭のような場所でさっそく途方に暮れました。
「どうしよう。完全に迷子になっちゃった……」
登校する人の流れに身を任せて校内に入れたのはよかったものの、中で学校が繋がっていると思った私はこの大学のような場所を彷徨っています。
「ねえ、今日の講義はなんだっけ?」
「いや、それを私に聞かないでよ。履修科目も違うんだしさ。それよりもあの子って中等部の子かな?」
「じゃない? 迷子?」
「え、今更? もう夏だよ? 入学して何カ月も経っててそれはないんじゃ……」
中高一貫の学校では中学のことを中等部、高校のことを高等部と呼ぶようです。なのであの人たちが私のことを喋っているのはわかりました。私は勇気を出してそこの年上の人に話しかける覚悟を決めます。
「ねえキミ、何か困りごと?」
決めたところで背後から声をかけられました。振り向くと帽子を被りサングラスをしたパンツスタイルの女性がいました。
「僕でよければ話を聞くよ?」
これが
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