第3話

雨が降り始めた6月の午後。坂道はしっとりと濡れ、歩くたびに足元が少し滑る。美大へ続く緩やかな坂道を歩く妖國は、傘を持っていないため、雨に濡れてしまっている。


中目川妖國は、美大のアトリエから帰る途中、雨が降り始めたことに気付き、少し憂鬱な気持ちで坂道を歩いていた。彼女は傘を持っておらず、雨に濡れるのは避けられない状況だった。坂道の勾配が緩やかであるため、歩き続けるのも面倒だと感じながら歩く妖國の頭の中には、今日のアトリエでの出来事や今後の予定がぐるぐると回っていた。


突然、前方から一人の少女がやってきた。少女は中学校の制服を着ており、その姿からはまだ若さが感じられる。妖國の視界に入った瞬間、少女は手に持っていた傘をサッと差し出して、妖國に渡してくれた。


「これ、使ってください。」


少女はにこやかに言いながらも、そのまま走り去る。その様子は、まるで風のように軽やかで、妖國は思わず立ち尽くしてしまった。少女の姿が坂道を駆け上がっていくのを見送りながら、妖國はその優しさに心を打たれる。


妖國は、少女から渡された傘を広げ、雨をしのぎながら坂道を歩き続ける。傘の下で、雨の音が心地よく響き、少しだけ心が温かくなる。少女の思いやりに感謝しながら、妖國は坂道の先にある美大のアトリエへと向かう。



妖國は、少女の無償の親切に感謝し、雨の中でも前向きな気持ちを取り戻す。雨に濡れた坂道の途中で受けた小さな善意が、彼女の心に残り、日々の小さな喜びと感謝の気持ちを改めて感じることができた。

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