6 騒ぎ

お茶会のセッティングが完了して、使用人が持ってきてくれたチーズタルトを一口、そしてアッサムの紅茶を一口飲む。


「ん、食べて良いよ」


「はいはい。美味しい?」


「おう。美味しいよ」


 いつも、このやり取りでお茶会は始まる。


 オリーは心配しすぎだというが、王太子妃であるのだからいつだって毒殺なんて暗殺の危機があるのだからしかたのないことだ。


 まあ、王宮にきてから一度たりとも毒物混入が起きてないけどね。


 視線を自分の分の紅茶に移せば赤と青と言う、色違いの目をもつ自分の顔が写った。


 お茶会中の会話は他愛もないものだ。


 そうするように決めたのはオリーであり、理由は単純で「ゆったりした時間に仕事の話しとかしたくない」なんて理由だ。


 わかるし、私もこの時間はゆっくりしたいので反論なんかあるわけもない。


「そういえば、ラジェのことは相変わらずなの?愛想つかしてもおかしくない感じだけど……」


「なんでその話をここでするんだよ……」


「そりゃあ……気になるじゃない?昔っからなんだし、社交界じゃ恋愛話なんて早々にないもの」


「面白がってる訳じゃないよな?」


「違うわよ。野次馬根性がないかって言われたら、ちょっと否定しにくいけど……」


「あのなあ……」


 お茶会中の話題の一つとして、私が片想いをしているラジェとのことについて聞いてくることがある。


 まあ、確かに義弟となる相手に片想いしている幼馴染みとなれば気になるのも無理はないし、私だってグランさんとオリーの二人のことは気にならないと言えば……。


 うん、なんとも言えない。


「で、どうなの?」


「変わんないよ。相変わらず、名前すら呼んでくれないよ」


「う〜ん、何でなのかしら……?」


「さぁ?心当たりなんてないからなんともね」


 本当に唐突に今の状態になったものだからなんとも言えないし、仮に私が何かをやってしまっているのならばグランさんが私達の仲を気にする素振りを見せるのも違うだろう。


 どちらかと言えば、私がラジェに接触しないようにとり計ると思うのだ。


 あの人、身内大好きなところがあるからな。


 私よりもラジェを優先するだろう。


「私が間にはいるのも違う気がするのよね……」


「別にいいよ。そんなことしなくても、今で十分」


「謙虚ね」


「謙虚っていうか……。まぁ、昔に比べれば十分幸せだし?」


 そう、昔に比べれば随分と幸せで、飢えや寒さに苦しむこともないのだ。


 恋一つ叶わないくらい、スラムにいたときや家族だった人達に捨てられたときのことを思えば、なんともないのだ。


「……」


 それから話題は変わりグランさんのこと、最近のドラン騎士団のこと、ドラゴノフ様のこと、色々と話しているとタルトも食べ終わり、ほどなくして満足してきたところで紅茶とタルトともにメイドに頼んでいた他の護衛役がやってきた。


 タイミングを計ってきたんだろうな。


 経験不足が、と心配していたが私がトゥウィシュテの森の捜索に行ったときにうまいことやっていたから大丈夫だろう。


 というわけで、私はこれから用事があるからとオリーに断り、護衛役の交代となった。


 向かう先はもちろんのことグランさんさんもところである。


「書斎にでも行けば会えるかな……?」


 それか、魔法が得意で色々研究しているらしいラジェの研究室辺りか、ハウさんの魔法資料庫にいるかな?


 魔獣が暴れてる原因が、あの魔方陣関係なのは確実だろうから必死になって魔法が出きるメンツで調べてるんだよな。


 湖の水もそうだ・


 オリーも、ちょっと前まで資料を読み漁ってたしさ。


 私は体質の問題で致命的に魔法と相性が悪くて魔法事態が使えないし、魔法の知識も一般教養程度の知識と対抗策くらいしかないので手伝いはできていない。


 だから、わかりにネジュに指示を出して情報を集めるように言ってるんだけど、私自身がやれることって限られてるんだよねぇ……。


 やれることって戦うことと指示出すことくらいだもん。


 それが現状役立てるかって言えば、ねえ?


 何か、もう少しできることはないか。


 そう考えているとグランさんの書斎についた。


 ノックして名を告げてみれば、返事が返ってきた。


 中に入ればトゥウィシュテの森、そこに住む魔獣の凶暴化が原因で起こった事件についての資料をさばいてるところだった。


 今のところ、対応できているから死人が出てはいないが農作物や畜産の被害がひどいらしい。


「どうです?」


「最悪だな」


「変わらずですか?」


「そうだ。酷くならないだけましだと考えるべきなのか……」


 グランさんがため息をはく。


「国民達には苦しい思いをさせてしまいそうですね」


「長引くんだったら国庫を開く話、考えないとな……」


「国王はまだしも、あのケチ……節制好きな大臣達が許してくれますかね?」


「説得する他無いだろ。あと、言ってしまっているからな?気を付けろよ」


「はーい」


 また、野菜や肉の物価上がるな……。


 まあ、森沿いの領地の農作やら畜産がダメージを受けてるんだから当然と言えば当然だ。


 森沿いなんかの領地は自然と人の往来が少なくなり、人があまり来ない場所となるし、魔境と言われるトゥウィシュテの森なんか尚更そうだ。


 だが、人がいない反面、農作物の栽培や畜産に適しているのだ。


 人がいないから土地が余る。


 そりゃ、はいて余る程ある土地を有効活用しないわけには行かないんだから土地を使った商売を、と言うことになるわけで、必然と農作物やら畜産やらが行われるわけだ。


 都会に行けば行くほど人が住むから土地がなくなって、畜産やら農作やらができなくなり、そこら辺に関しては田舎だよりになる。


 そういうことで、田舎が被害を受ければ、その分だけ都会も物価高や品数が少ないやらで打撃を受けるのだ。


 まぁ、ポイラー領はドラン騎士団が名物になってたり、治安が良いと言う理由で他の森沿いの領地よりも人は来てたけどね。


 治安維持が仕事に含まれてる身としては、治安が良いと言われるのは嬉しいものだ。


 あ、話がそれた。


「それで、どうしたんだ?誰かから情報でも仕入れたか?」


「よくお分かりで」


「この状態だからな。君なら部下に情報を集めるように言いつけるだろうと思ったんだよ。オリーが一生懸命、打開策を探しているから、何もしないとは思えないしね。君のオリーへの忠誠心は中々のものだから」


 グランさんは呆れた表情で私をみてくる。


「あら?私はグランシュタン様にも忠誠を誓っていますよ?」


「けど、オリーが一番だろう?」


「否定しません」


 にこりと笑ってそう返すとため息をはかれた。


「全く、素直なのは良いが、せめて他人がいるところでは隠せよ……。で、用件は?」


「これをどうぞ。もしかしたら黒が関わっているかもしれません」


 ネジュが報告してくれた内容が書かれた紙を渡せば、すぐに読んでくれたが、その代わり眉間にシワが刻まれることになった。


「……戦争になったらよろしく頼む」


「今戦争すると国民への負担とかでよろしくしたくないですけど、しかたありませんね。出ないで負けるのもダメですし」


「出来るだけ内々ですませるが、相手が相手の場合な……」


 グランさんの言葉にパッと思い浮かんだのは前々から中の悪い隣国、バースノンク国だった。


「隣国とか?」


「具体例をだすな。正解だけど……」


「あそこは謎に、この国に対して敵対的ですからね」


「ほんと、何でなんだか……」


 まぁ、あそこはトゥウィシュテの森を挟んでるとはいえ、向こうからバチバチに威嚇してきてるからね。


 こっちが疑いをかけたら侮辱だなんだと戦争しようとしかねないかも……。


 私達が生まれるよりも前から、隣国でかるバースノンク国との関係はかわらないらしいが、調べてみてもいまいち理由がわからないのだ。


 向こうにしかない情報でもあるのか、それとも単純にこちらが気に入らないだけの、バカみたいな理由なのか……。


 ふと、開いている窓の外が騒がしい気がした。


「ん?」


「どうした?」


「なんか、外うるさくないですか?」


 城の敷地内ではなく、どちらかと言えば城下町の方だろうか?


 警戒しつつも、外を覗いてみると城のなかにとくに騒がしさの原因となるようなものは、特に見当たらない。


「すこし、騒がしいな?」


「やっぱりそうですよね。城下町の方でしょうか?」


「恐らくはな。兵が向かっていると良いのだが……」


 城下町からはそれなりに距離があるのに城に聞こえてくるほど騒がしいのに、それで兵が向かってなかったら職務怠慢でしょ。


 あぁ、でも……。


 流石にないと思いたいけど、最近は色々物騒だから別件に対応してて……なんてことにも、なりかねないんだよね。


 妙な心配をしていると、騒がしい方向から一際大きな悲鳴が辺りいったいに響いた。


「なんだ?」


「ここからじゃ何も見えませんね……」


 こんな悲鳴が聞こえてくるって、警備のやつは何をしてるんだよ……。


「魔獣か何かが現れたのかもしれん」


 えぇ、防衛戦線が崩壊したって話は来てないからないと思うんだけど……。


 でも、もし、これが人為的なもので噂を流している者達も絡んでいるものだとしたら、明らかに国民の不安をあおることが目的だろう。


 その手段の一つだとして、魔獣を城下町までつれてきて解き放つだなんてこと、やりかねないだろう……。


 王都の警備が魔獣の持ち込みを許すほどザルだとは思えないけど、あんな意味のわからない魔方陣を使うような者達だから否定できないな。


「最短距離を使っていいから見てきてくれ。魔獣ならば処分を」


「わかりました。邪神教や盗賊などの場合はどうします?」


「生け捕りだ」


「承知。では失礼」


 開け放っている窓から身を乗り出して、着地できそうな場所を探して飛び降りる。

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