第8話 夢見る少女と犯人探し
課外授業が終わった次の日の朝です。
いつもの朝のホームルームですが、今日は少しピリついた空気が教室に流れています。
課外授業中、洞窟内を探索していたメルジーナが、謎の爆発事件に巻き込まれて怪我をしたと、クラス中で広がってしまいました。
メルジーナは埃を吸い込んだだけだから大丈夫と言ってはいるのですが、メルジーナを慕う周りの人物は、どうしても犯人を見つけようと張り切っています。
そして、ドアがガラガラーと開くとそこには、笑顔いっぱいのスパイク先生がいました。
「よーっし! 朝のホームルームを始めるぞー! はい、一番から点呼だ」
「何でスパイク先生、今日はすごく上機嫌なの?」とフレッシュが聞きました。
「いい質問だ、今日は素晴らしい日だからな!」とスパイク先生は答えました。
フレッシュは「ゲェッ、いつもと感じが違うとなんだか気持ち悪りぃなぁ」と言いました。
「ほら、まずは点呼を取るぞ! 一番、ゼル・カイセドリー!」
「はい」とゼルは返事をします。
そして、全員の点呼が終えました。もちろん、ソフィアは欠席です。
「今日はな、この中の数人が処分を受けるんだ。俺はそれが楽しみでたまらないんだ。今頃、親の方には学園長や貴族のお偉いさんから通知が行っているだろう」と、先生としてあるまじきセリフを発しました。
「その発言は先生としてどうなんですかー?」とゼオンは発言しました。
「先生としてどうだー? はんっ! 知ったこっちゃねーな。そいつらの自業自得だ。顔を上げれない生徒がチラホラいるなー? おー? 何か思い当たる節があるんじゃないのかー? 今はまだ俺の生徒だ。今、正直に言えば除籍処分だけは見逃してやるぞー? 俺は生徒思いの優しい先生だからな」
いつものメリハリのない声とは違って今日は弾んだ声で話し、なんだか楽しそうです。
しかし、生徒たちの調子は狂うみたいです。
先生は辺りを見渡すと、「なんだ、誰も出てこないのか。つまらんな」と言いました。
すると、再び教室のドアが開きます。
そこにはファイル一つと数枚の書類を持ったソフィアがいました。
「やぁやぁ、一般生徒の諸君。初めましての人は初めましてだ。私はソフィア・ローレンス。見ての通り天才美少女科学者だ。まあ、適当によろしく頼むよ」
いきなり出てきたソフィアはそう言って、先生の元へと近づきます。
「ソフィアちゃん!」
「ソフィア!?」
アリアとメルジーナの言葉にソフィアは片手を挙げて挨拶しました。
「先生、初めましてだ。まあ、これからボチボチ通うつもりだからよろしく頼むよ」
「お前はソフィア・ローレンス……遅刻だぞ」
そう先生が言うと、彼女は手のひらで額を押さえ、疲れたように首を振りました。まるで「やれやれ」と言わんばかりのジェスチャーでした。
「私は一般生徒の諸君や暇な先生とは違って、忙しいのだよ。そんな中、この天才美少女科学者である私が通ってあげるんだ。しっかりと、もてなしたまえ」
「俺、こいつ嫌い」と先生はハッキリ言いました。
次はゼルがソフィアに話しかけます。
「おい、ソフィア。今までどこに行ってた? なんで今更通う気になったんだ? ウロチョロされてお前に何かあるとこの俺様が父上に怒られるんだからな!
「なんだ? そんなに私に会いたかったのか? それとも私が心配だったのか? 可愛い部分もあるじゃないか」
「ふざけるな! そんなわけないだろ! なんで、今更通う気になったのか聞いてんだよ!」
ソフィアはアリアの席に近づきます。
「たまたま課外授業中をしていたアリアと出会ってな。彼女に少し興味があってね」
「えへへっ」とアリアは照れた笑顔を見せます。
「そんな田舎臭い、田舎女のどこに興味を持つって言うんだ? 誰に推薦されてこの教室にいるのかも分からねーしな」
「私、臭うかな? お風呂入ったんだけどなー」
次にソフィアはメルジーナのところへ向かいました。
「それと、私が目を離すと、メルジーナはすぐにやらかすか、何か問題を持ってくるからな。この私が面倒を見てやろうってな」
「私は大丈夫よ」
「そして最後に、父親に私が学園に通っていないと寂しがっている貴族気取りの奴がいるんでね。なんだかその人が可哀想になって仕方ないんだ」
「なんだとぉ!? 寂しくなんかねーよ! 俺は一人でも問題ねぇ!」と、ゼルは怒りを見せます。
「別に君の事とは言っていないんだがね。自覚症状があるみたいだ。やっぱり私に構ってほしかったのかい?」
「んなわけねぇだろっ! 誰がお前なんかにっ!」
ゼルは立ち上がりそう言い放ちました。
「先生、芝居はもういい。これを見たまえ。私が書いた調査報告書だ」
そう言って、ソフィアは持っていた書類を先生に渡しました。
「無視するなぁぁっ!!!」
「あぁ、もういいのか? 疲れたから助かる。犯人が分かったのか?」
「あぁ、もちろんだ。私は天才だからね。それに、学園長がフードを被った男性が決定的な証拠写真を持ってきてくれたと言っていた。それと私の調査結果を照らし合わせた結果、爆弾の種類と設置位置が完全に一致した」
スパイク先生はソフィアの調査報告書と証拠写真の数々に目を通しました。
「こりゃあもう、言い逃れはできないな。学園長はどうするって言ってたんだ?」
「該当の生徒の処分は、担任の先生に任せると言っていたな。両親への連絡はビーリス公爵がやってくれるそうだ」
それを聞いたスパイク先生は背伸びをして、そのまま椅子に座りました。
「んじゃあ、メルジーナ・ガーネット爆破事件の犯人は名乗り出ろ」
スパイク先生がそう言っても、誰も手を挙げたり名乗り出ることはありませんでした。
「はぁ、めんどくせー。今日の放課後まで待ってやる。該当する生徒は職員室に来るように。いいな? 名乗りでない場合は処分が重くなるからなー。よーし、授業が始まるから、準備しろ」
そして、誰も名乗り出ないまま、その日の授業が終わりました。
放課後に差し掛かろうとしていた時、一つの放送が流れます。
「推薦組一年生、アリア・ヴァレンティンさんは放課後、学園長室までお越しください。繰り返します。推薦組一年生、アリア・ヴァレンティンさんは放課後、学園長室までお越しください」
その放送を聞いたカルナは側近たちと一緒に立ち上がり、アリアの机を囲んで言います。
「メルジーナ様の命を奪おうとした犯人は田舎娘ね! なんて卑劣! 卑怯者! 死を持って償いなさい!」
「そうよ! 最低だわ!」
「田舎娘はやることが下品だわ」と、カルナを慕う人物たちの心無い言葉をアリアにぶつけます。
「私じゃないよ? 私バカだから爆弾とか分からないもん。それに友達のメルジーナちゃんにそんなことしないもん」
「田舎者は嘘も下手くそね。優しいメルジーナ様に近づいてこの時を狙っていたのね!」
「ちょっと、カルナさん! アリアさんは私と一緒にいたのよ? アリアさんも被害者よ?」
メルジーナが助け舟の言葉を掛けますが、カルナは言い返します。
「一緒にいたなら尚更です。仕掛けた場所までメルジーナ様を連れて行って爆発させたに決まっています!」
「えっ? ソフィアっ!? ちょっとどこ行くのっ!?」
ソフィアはメルジーナを連れて教室を出て行ってしまいました。
「ほら、ソフィアさんは犯人が分かっているから、犯人であるあなたとメルジーナ様を遠ざけたわ。さぁ、職員室に行くわよ! 私が連れてってあげる!」
そう言ってカルナはアリアの腕を掴んで立たせました。
「私じゃないのにー!」
「黙りなさいっ!」
カルナはそう言ったあと、アリアの頬に平手打ちを食らわせます。
鋭い『パシンッ!』という音が周囲に響きました。
「痛いなぁ。私じゃないのに……」
「まだ、白ばくれるの!? 早く職員室に行って白黒せなさい!」
カルナがそう言うと、教室からイスを引く鈍い音が聞こえました。
「お前たちその辺にしておけ。さすがにやりすぎだ。これはただのイジメだぞ。これ以上するなら学園調和監査局に報告するぞ」
「えぇっ!? あのゼル様があの田舎者の味方を!?」
ゼルの吐いた言葉に驚きを隠せないフレッシュです。
「そうですよゼル様。こんな田舎娘の味方をしないで私たち貴族の味方をしてくださいよ!」
「俺様は誰の味方でもねぇよ。そこの田舎女は学園長室に呼ばれてんだろ? 早く行ってこいよ。それでお前が犯人ならその後、職員室に行けばいい。遅れることは俺様が先生に言っておいてやる」
「でも、ゼル様! メルジーナ様のためにも早く白黒つけないと!」
「そうですよ。メルジーナ様が可哀想ですわ」
カルナたちはあくまでメルジーナのためだと言っています。
ゼルはため息を吐いて、少し溜めてから言葉を使います。
「ソフィアと先生が決定的な証拠があるって言ってただろ? お前たちもそこの田舎女が犯人だという証拠があるからそこまでやってるんだろ? お前ら目線でそいつが黒なら放っておけばいいだろ。先生たちに任せて処分してもらえばいい。
もし、そこの田舎女が犯人じゃなかったら……俺はこの目で見て、耳で聞いた事を先生や学園長に証言してやるからな。覚悟しとけよ」
ゼルの言葉でカルナたちは言葉を失ってしまいました。
カルナたちはアリアの机から少し離れました。
ゼルは「ほら、さっさと行って白黒つけてこいよ」とアリアに言いました。
「うん! ゼルありがとう!」と笑顔で言うと、そのまま教室を出て行きました。
「あぁ!? あいつゼル様のことを呼び捨てにしやがったぞ!」
ゼオンが出ていくアリアを指を差しながら言いました。
「別に呼び捨てだろうがどうでもいい。勝手に言わせとけ」
そして、アリアは学園長室の前にやってきました。
コンコンッとドアをノックしました。
「どうぞ。空いてますよ」と男性が答えました。
ドアを開け、「失礼しまーす!」と中に入りました。
そこにいたのは、貴族のビーリス公爵と学園長でした。
「あ! マナー講師の先生! こんにちは!」
「はい、こんにちは」
ビーリスは軽く頭を下げました。
「アリアさん。この方は先生ではなく貴族のお方です。そして、その貴族の中でも一番偉い方です。ビーリス様、もしくはグラミアン様と呼んでください」
「いいんですよ。呼び出したのは私ですし。それに今は公式の場でもありませんから」
学園長の言葉にビーリスはそう言ってその場を収めました。
「ビーリス様がよろしければ良いのですが……」
アリアを呼び出したのは学園長ではなく、ビーリスだったみたいです。
「おや? アリアさん頬が赤く腫れてるように見えますがどうかしましたか? 大丈夫ですか?」
「うん! 大丈夫だよ!」とアリアは言いましたが、ビーリスは回復魔法を掛けてくれました。
「すごーい! 痒かったのがなくなったぁ! 魔法ってやっぱりすごい! ありがとう!」
「どういたしまして。今日はね、君にお願いしたいことがあって呼び出してもらったんだ。実はね――」
ビーリスはアリアにそのお願いを言いました。
アリアは少し考えましたが、考えた結果承諾しました。
話を終えたアリアはその場を後にし、職員室に向かうのでした。
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