第38話―魔王の風格(※三人称視点)

「―なんじゃ、騒がしい」


そう言って、カレンは訓練場だった残骸へ悠々と歩いてきた。


「妾の庭で粗相をする無礼者は貴様か。〝魔女狩り〟よ」

「これはこれは。お初にお目にかかります、現代の魔王様。僕はアリオス。以後、お見知りおきを」


そう言いながら、アリオスは慇懃いんぎんに跪く。


「ふん、貴様の名前など覚えたくもないわ。それにその姿で跪くな。我が友が汚れる」


冷静に、ただ淡々と答えるカレン。だが、その瞳の奥は、確かな怒りで燃えている。


「おお怖い。さすが魔王様だ。でも……、またとないチャンスなんだ。見逃してくれないかな?」

「王たる妾が、配下が殺されるのを見過ごすとでも?」

「まあ、そうだよねぇ…。なら、こうなっても仕方ないよね?」


彼は元に戻った一振りの魔剣を構える。


「自惚れるなよ。貴様が妾に敵うとでも?」

「さあ?でも……僕は強いよ?」

「ぬかせ。そのよく育った高い鼻、根元からへし折ってくれるわ」


カレンは左腕を前に突き出し、黒き渦を生み出す。


「流石魔王だ。王族系統外魔法【虚無】……。恐ろしいね」

「ほう?これを知っておるか。魔族でも一部の者しか知りえないその情報を持っておるとは。貴様、何者じゃ?」

「さあ?僕は誰でしょう?」

「ふん、食えぬ奴よ。すぐにその化けの皮を剝いでやろうぞ!―〚虚佩こはく〛!」


彼女が漆黒に染まった左腕をその場で振るうと、アリオスの右腕が切断される。


「ッ!?」


ここで初めて、彼は焦ったような表情を浮かべる。


「どうなってんだよ、それ……」


彼女はそれには答えず、右手で自身の権能を行使する。


「『慈愛ノ王ヘスティア』―〚再誕リバース〛!」


すると、地に伏せていたラグナやディーレ、ヴァンやメロウ、そして他の騎士達の傷が、最初から無かったかのように癒されていく。

あっという間に、皆の傷が癒えたが、相変わらず気を失っている。目を覚ますのは、もう少し後のようだ。

しかし―彼女の使った権能、〚再誕〛は、レイティアとヴァイには影響が無かった。いや、

カレンは二人を一瞥いちべつすると、再びアリオスに向き直る。


「へえ?肝心の二人は蘇生させないのかい?」


その問いに、カレンは不敵な笑みを浮かべながら答える。


「どれだけ優れた者の身体を奪おうとも、貴様自身の眼はどうやら腐っておるようじゃな。まあ、解らぬならそれでもい。説明する義理も無いしの」

「………」


アリオスはそれに少し苛立ったような表情を見せる。だが、相変わらずその眼は虚ろなままだ。


「ふむ。このままではそちらに分が悪い。妾も貴様と同じく、剣にてやり合おうぞ」


そう言って、彼女は左手の漆黒を消し、前に突き出す。


「征服せよ、君臨せよ。天地二つの界綴かいていを繋ぎ、妾とその名を知らしめよ!双極剣そうきょくけん、グランヴィジア!!」

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