第36話―終末の音は鳴り止まない

「―“神々ノ黄昏ラグナロク”ッッ!!」


瞬間、ピシッ……と、何かが砕けそうな音が、辺りに鳴り響いた―気がした。

だが、私たちはそれには見向きもせず、ただ目の前の災厄を止めるべく、五感を全てフル稼働させ、限界以上の身体強化を施す。


「―“淵葬閻舞えんそうえんぶ”ッッ!」

「―“炎華えんか……轟天ごうてん”ッ!!!」

「―“画龍点睛がりょうてんせい紅焔べにほむら”ッッッ!!!」

「―〚暴嵐の神爪テンペスト・クロウ〛!!」

「―〚永劫なる氷獄アブソリュート・ゼロ〛ッッ!!」

「―“龍凰邁進りゅうおうまいしん”ッ!!!」


闇が舞うように蠢き、紅白2つの炎が猛り爆ぜ、神の如き嵐爪が切り裂かんとせめぎ合い、鮮紅色の猛吹雪が万物を凍らせんと荒れ狂い、神鳥と龍王が全てを滅ぼし尽くすかの如く突き進む。

二つの勢力の尋常でない力がぶつかり合った、その結果。

先ほどの砕けるような音は、幻聴ではなかったことに、すぐに気づくこととなった。何故なら―

―パキッ。パリンッ。

そして。


「かッ…………………」

「ぐあああぁっ!!」

「か……………はっ」

「きゃああああぁぁっっ!!!」

「く、は……っ」

「がは………ッ」


――バキイイイイイィィィン!!!

氷の砕け散る音。それすなわち――

――世界の破滅の音だ。

私たちは皆壁へ吹き飛ばされ、叩きつけられると同時に、気を失いそうなほどの激しい痛みが全身を襲う。

……どれほどの時が経っただろうか。いや、恐らくそれほどの時は経っていないのだろう。全身に走り続ける苦痛に、時間感覚が狂わされる。僅か数秒の事なのかもしれないが、終わることの無い痛みのせいで数分、いや、数時間経っているようにも感じる。

もはやもがく気力すら残っていない中、私は懸命に目を開く。

そこに映った光景は、言葉も出なかった。

赤き氷の世界が砕けた結果、私たちの技の余波が現実世界にも影響を及ぼし、訓練場は見るも無惨な有様で、周りにいたのであろう騎士たちは、生命反応こそはあるものの、皆気を失っている。

ふと、私は気づく。


「ア、リオ、ス………」


そうだ。奴はどうなったのか。解らない。どこだ。どこにいる。


「やあ、呼んだかい?〝紫〟の弟君?」


奴は、無傷で立っていた。

これが、絶望というものなのか。

私は死にかけている状況の中、感情とは裏腹に、頭の中は酷く冷静だった。

だが、私の感情は、無理だ、勝てない、と、真っ黒く塗り潰されたようだった。


「全く、最後の最後まで迷惑しちゃうよ、ホントに。でも……残るはあと一人。君だけだよ」


そう言われて、私はハッとする。



姉上の、反応が、無い。



いつも近くで感じていた、安心するあの魔力が、一切感じられない。それが意味するところは――








――姉上が、死んでいるということだ。

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