ブレイク物語〜生きる意味のないこの世界を破壊して〜

パタパタ

第1話転生したら生きる目的とか……無くない?

 ブレイブ物語というゲームがあった。


 プレイヤーは勇気ある主人公アサトとなり、様々な仲間と世界を旅したり依頼をこなしたり、ダンジョンという不思議な遺跡や洞窟に潜ったりして自由に生きる。


 やがて世界を覆う魔族との戦いに巻き込まれていくという物語である。


 その自由度の高いシステムからそれは大人気となった。


 しかし、ブレイブ物語は壊れた物語……ブレイク物語、そう呼ばれるようになる。


 それはどのようなストーリー展開になろうとも魔王を倒した後、画面が暗転し燃える王都を背景に、主人公アサトが生首になって転がるエンディングを迎えるからだ。


 そのゲームの世界に俺は転生した。

 転生、したはずだった……。


 今世の生まれた時からの幼馴染であるイルマは俺に言い放った。


「アサトの首を切ったのは私だよ。だって、そうしないと……」


 ゲームヒロインではあるけれどゲームのときよりはるかに美しく、そして瞳に妖しい光を放ちながら。


 ゲーム転生。

 前世ではよく聞いたフィクションだ。

 ゲームの登場人物たちの中に転生して、自分だけしか知らない知識で無双するのだ。


 彼らは今そこに生きていても所詮、ゲームの登場人物でしかない。


 だからそれはあり得ないことだった。

 はずのイルマが、知るはずのないゲームでの主人公アサトの最期を知っていることが。


 これは壊れた世界の物語。

 それが誰の物語であるか、俺はまだ知らなかった。





 ゲーム世界に転生した。


 そう言われれば、俺は迷わず病院行きをすすめるだろう。


 大丈夫、怖くない。

 なんなら俺も病院に一緒についていってやろう。

(とても深い慈愛の目)


 ……はい、ゲーム世界に転生したようです。

 誰か、病院行くから付いてきて?


 転生先は割と豊かなロキシ村の村長の家……の3軒隣の農夫ゴルドンの次男坊クスハ。


 それが俺だ。


 村といえど貧富の差はある。

 生まれながらにして人は平等である。

 誰でも平等に金の影響を受けるのだ。


 少しでも金持ちに産まれたかった……。

 お隣の美人奥様ベネットの家の方が金持ち(物持ち)なのでそこの婿養子になろう。


 奥さん、俺と結婚してください!

 不倫でもいいです!

 ちなみに娘のイルマも俺がいただきます。


 さて、俺が生まれた村は広い農園と風光明媚ふうこうめいびな山々や綺麗な川に囲まれた田舎。


 近くの村まで半日、さらに近くの町まで3日。

 もう少し大きな街まで1週間といったところ。


 これでも都会に近いほうだよ。

 酷いところは隣町まで1ヶ月ほどかかることもある。


 まあ、この距離がいずれ致命的な現実に繋がるんだけど、この世界はわりとそんなもんだ。


 ある日のこと。

 隣の幼馴染イルマの村1番とされる美人お母様ベネットが竈門かまどに魔法で火をつけるのを見た。


 その現代化学ではあり得ない不可思議な現象を目にして全てが繋がる。

 隣に座るイルマがとあるゲームのヒロインであることを。


 それを初めて見たときは俺は随分長い夢を見てるなぁ、と齢3才にして現実逃避をしてしまった。


 そしてそれが現実であることを認めてしまったとき、俺は狂いそうになった。


 一般常識、社会通念上というものを理解していた俺はまずもって、『転生する』などという理論も理由も理解できないものを即座に納得するなど不可能だった。


 だが、人は慣れるものである。


 そもそも、なんだかんだで前世の自分のことは覚えてもいない。

 どんな人でどんな生き方をして誰といたか。


 前世の世界のことはわかるのに、前世の自分のことは何一つわからない。

 なので考えても仕方がないのだと慣れた。


 人類が長い人生で生き残ってこれた理由は、万年発情期とこの適応能力が他の動物に比べて極端に優れていたからだ。


 ……万年発情期を冗談だと思ったやついるか?


 言っておくが人という生き物の真実だぞ?

 目を逸らすな! 真実は己の心の中にあるのだ!


 ゴブリンが巣ごと叩き潰されてなぜ滅びないのか、それはヤツらも人と同じ万年発情期だからだ!


 うん、自分で言っててわりと最低ね。

 理不尽なこともあるだろうけど、それでも生きるしかないわけよ。


 そう思うに至ったのは、ゲームのヒロインであるほどの美少女イルマを美味しくいただこうという志があったことは否定しない。


 ゲームだとか世界とか知ったことか。

 世界が滅びたところで、どうせまた転生するんじゃね?


 生きるなら楽しんで生きたい。

 だから俺はヤリたいことをヤル。


 それだけのお話さ。

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