第三十七死 ユビキリゲンマン

「――逆に申し訳なるくらいですよ――」





「――――ッ全員!今すぐそいつから離れッ――」

 


ミルが叫ぶ。だがその次の瞬間、葛葉以外の全員が赤く光出したかと思うと鎖のようなものが真達を囲み、体を締め付ける。


「…………やられた。」

「これは……」


状況が一切飲み込めない。


これは一体……


「フハハハハ!!ご主人達マジですか!!?まんまと罠にかかってくれましたねww!!」

「葛葉さん……これは一体どういう了見かな……」


鎖で拘束された小栖立が努めて冷静な声で聞くが、その雰囲気から出る苛立ちは隠し切れていなかった。


「まぁ〜だ分からないんですかぁ?」

「なるほど……いっぱい食わされたようだね……」


左神原が状況を飲み込む。


なるほど……


「こんなものすぐに千切って……!」


小栖立が力を込める。


しかし……


「千切れない……?」

「無理無理!無駄ですよ委員長。その鎖、能力を無効化する効果があるんですよぉ!だから委員長ご自慢の怪力は使えませんよ!」


高らかに笑う葛葉。


「そう……今まで……私がどんな仕打ちを受けてきたことか……特に委員長ぉ!!」

「わ、私……?」

「あの時の写真の屈辱は忘れませんからね……!」

「あ、あ〜……」


途端に目を逸らす小栖立。


「しかし、見事にマヌケですねぇww今、優位に立っているのは私!……さて、どうしてくれようか……」


真達が拘束されているのをいいことに、見事に調子に乗る葛葉。腕を組み、頭がもはや後ろを向く程上から目線だった。


しかし次の瞬間、何かに気付いたかのように葛葉はその場で動きを止めた。

 

「――何が可笑しいのだ?」

「……!!」


目の前に突然一匹のコウモリが現れる。

 

いや、そうじゃ無い……気付けば何十匹もの紅いコウモリが僕たちの周りを囲っていた。


「こ……れは……」


その一匹一匹からは先程の触手なんかとは比べ物にならない絶望的なまでの力の差を感じる。


やがて、それらのコウモリは集まりひとまとまりになると人の形を成した。


「ほう……如何やら拘束するのは成功したらしい。どうせ無駄だろうと思っていたのだがな……」

「ド、ドルキュラ様!!」


葛葉が背筋を伸ばし、声を上げる。その顔には大量の冷や汗が張り付いていた。


ドルキュラと呼ばれたは、見た目はただの人間と変わらないように見える。だが、異常なのはその身長だ。三…いや、四メートルはあるだろうか。この中で身長が一番高い左神原くんの約二倍もの高さだ。


血のように真っ赤に染まった髪は綺麗に腰まで伸びていて、まるで生気を感じないその顔は底知れぬ異彩を放っていた。


「へ、へへ……それにしても相変わらず美しい!今ここに人が通りかかっても、十人中全員が振り向く程の神々しさ!!よっ!美の神!!」

「…………」


こ、小物臭が半端な過ぎる……


「お前……」

「……あぁ久しい……と言ったほうがいいか?最後に会ったのは何年前だったか……いやはや、森の中といえどこの森は広過ぎるからな。……探すのに一苦労だった。」


ミルが睨むが、そいつは意にも返さずミルへと話しかける。


そんな中、僕はドルキュラと呼ばれた男の気配に既視感を感じていた。



 …………こいつは……あの時の気配の主か……?


だけど……こいつの放つ殺気……あの時感じた気配の比じゃないぞ……


「……ん?他にも何匹かいるようだが……?」

「あ〜彼らは私と一緒にこの森に入って来た者達でして……」

「……ほぅ…これは中々……」


ドルキュラは左神原と小栖立を交互に見る。

 

「そ、それでですが……えーっと……言われた通りにやったから……私はこれで……」

「……?…………あぁ……」


その場からそそくさと離れようとしていた葛葉に、ドルキュラは目もくれず一言……


「ご苦労だったな。」

「…………んぇ?」


すると、逃げようとした葛葉の目の前には二体のレッドバッドが佇んでいた。


「あ、あの……この子達が邪魔で…前に行けなくて……ほんのすこーしだけどかしてくれないかな……何て……」


チラリ


「…………」

「あのぉ……」

「……お前達、食べていいぞ。」

「ですよねぇ〜……」


ゆっくりとその場から後退する葛葉だったが、三歩歩いたところで勢い良く振り返りダッシュで逃げ出した。


それに釣られ、レッドバッド達も葛葉を全速力で追い掛ける。


「何でこっちに来るの!?ほ、ほら!!エサはあっち!あそこに沢山あるよ!エサ!!」

「キキッ!!」


葛葉は捕えられている真達を指して叫ぶ。


(((こいつ…………)))


この時、真を除いた三人が満場一致でそう思った。


そうしてレッドバッドに追い掛けられ、そのまま森の奥へと葛葉は姿を消した。


「……さて…失敗すると思っていたのだがな。まさか成功するとは……何とも……」


ドルキュラは冷酷な目でこちらを見下ろす。


「……他人頼りの姑息な手を使って捕まえられて嬉しい?」


それに対し、ミルは表情を変えず冷たく言い放つ。


「ふむ……口数が多いな。それほどまでに弱っているのか、お前は。」

「…………」

 

弱ってる……?それはどういう……


「さて、久々の会話なのだ。もう少々話したいとこではあるが…………貴様がいるのでは油断は出来ん……手早く殺すとしよう。」


手に禍々しいオーラを纏い、ミルに手を伸ばす。すると今まで黙っていた左神原くんが突然、口を開いた。


「はぁ……そうか、成程。」

「……貴様は…」

「大罪……そう言われていたからてっきり【特殊指定】されてるモンスターなのかと思ったけど……ッ」

「何が言いたい。」


ドルキュラが左神原の首を掴み、持ち上げる。


苦しそうに表情を険しくする左神原だが……



その表情は途端に嘲笑的な笑みへと……変わる。



「いいや、実際目の前にしてみると――大したことないんだなって――」

「…………」


首を絞める手が一層強くなる。


「……ほう…中々に愉快なことを言うものだ………」


そう言うと首を掴んでる左神原を更に高く持ち上げ、


「…………だが……そうだな、喜べ。殺すのは貴様からにしてやろう。」


苦しそうにしている左神原の胴体をドルキュラは手刀で……


「死ね」



貫いた――





――が


 

「…………ッ」


貫こうとした直前、左神原の口角が微かに上がったかと思うと、次の瞬間ドルキュラの視界が眩い閃光に覆われた。


「何だこの光は……ッ…目が…灼けるッ……!」


あまりの眩しさにドルキュラは目を覆い隠す。そしてその拍子に左神原を掴んでいた手を離してしまった。


着地すると左神原はすぐさま剣を抜きドルキュラを真っ二つに切る。左神原を縛っていた鎖は、触手相手にも使用していた光属性の【閃光】をドルキュラに放った拍子に消失していた。


そしてそれは左神原だけでは無い……



「――ミルちゃん!!」

「……【断血】」


追い打ちをかけるが如くミルの血の刃がドルキュラに炸裂する。


「……ぐッ…貴様らァ!」


ドルキュラは腕を振り、空間に無数の血の刃を生成。


するとそれを全方位へと放とうと指を擦り合わせる。


――しかし


「――煩い――」


その直前、上から小栖立の拳が叩き落とされる。


「……ぐはッ……!」 


ドルキュラの体は地に叩きつけられ、地面には人型サイズのクレーターが出来ていた。


そしてドルキュラが苦し紛れに生成した血の刃は、行き場を失いやがて消失する。




「やった……?」


小栖立達は倒れたドルキュラを警戒していたが、その体は切り刻まれ、ぴくりとも動かない。もはや立ち上がれない様子だった。


「いや……こいつは恐らく吸血鬼だ。だからミルちゃん同様再生能力も持っている筈……油断はしないほうがいい。」


左神原の意見にミルは横に首を振る。


「吸血鬼だって不死身じゃない。致命傷……これだけやれば再生は出来ずに死ぬ。」

「……何だか呆気ないですね。」


この森にずっと封印し続けて来たモンスターって聞いたからどんな化け物かと思ったけど……


これ別に街に出ても大した被害にならなかったんじゃないのか……?


それに……してたんだけどな。いつでも死にに行く準備はできてたんだよ?……それなのに強すぎるでしょ……この三人……


……まあ仕方がないか。


それにしても再生を妨害する血…か。この件が終わったらミルに試しで殺って貰おうかな!


とまあそんなことを考えていたわけだが……


「おかしい……あの個体がこんなもので終わる筈が……いや、そもそもこいつは【特殊指定】では無かったのか……」

「左神原くん……?」


横を見ると、左神原くんが何やらぶつぶつと言っている。


しかも何やら気になる単語がチラチラと出て来ている。大罪なんやらの話が出たあたりから様子がおかしい気がする。


……はっ!これはもしや俗に言う……厨二病!!


うんうん……気持ちは分かるぞ左神原くんよ……男なら誰しもが通る道……

  

ちょっと話を聞いて………………ッ!


「――――危ないッ!!」

「…………え?――『ドンッ!』」


咄嗟のことだった……


咄嗟に左神原を突き飛ばす。

 

真っ直ぐ飛んでくる血の刃をどこか他人事のように眺めながら…………次の瞬間には僕の腕が空に飛んでいた。


視界の奥がチカチカと揺れる。


だがそれも一瞬のことだ……無くなった右腕の感覚はもう無い。


「物語くん!!」


小栖立さんが僕の元へ駆け寄って来る。


「真ッ!……やられた…これが分身だったなんて……」


そう言いながらミルは目の前で悠々と飛んでいる一匹のコウモリを睨んだ。


「…お前が本体か…」



背後では、先程倒した筈のドルキュラは既にドロドロに溶け出している。





「――ふむ……金色の髪の小僧を狙ったのだがな……」


(……何故あのチビは私の不可避の攻撃に気付いて……いや……)


「まあいい、あのチビはどうせ死ぬ。あの血の量だ……もう助からんだろう。」

「お前……」

「――な、何で!!血が止まらない!!回復魔法を掛けてるのにッ!!何でッ!」


腕が飛ばされ、地面に横たわる真を助けようと小栖立は必死に回復魔法を掛け続けていた。


しかし何度やっても流れ続ける血は止まらなく、傷の塞がる気配は一向に無い。


「哀れだな……」

「哀れ……?」

「あのチビの死は避けられぬと言うのに、必死になって救おうとする。これの何処が哀れでないと言うのだ。」


そう言って首を捻るドルキュラ。


「それに……チビの体には既に私の血が混じっている。その血は傷口を広げ、内部から細胞を壊し、回復を阻害する。」

「…………」

「だが私は優しい……貴様らも同じ方法で仲良く殺してやろうではないか。」


・・・・


「物語くん!ああぁ……ッ!!」


真の右手からとめどなく溢れる血。


回復魔法を掛け続けている小栖立も、もはや限界であった。


「だ、だめ……!意識を強く持って……お願いだから!!」

「…………」

「ごめんなさい……ごめんなさい!私が……もっと強ければ……もっとッ…スキルを使いこなせれば……ッ!!」


それでも回復魔法をかけることを小栖立は辞めない。


「……お願いだから死なないでッ!!」


瞳から涙が溢れる。


「……小栖立さん……」

「……!どうしたの!!何でも聞くよ!何でも聞く……だから……」

「その言葉……本当ですか……?」

「……うん!」


「なら……」とミルのいる方を向く。


「僕のことはいいので……ミルを助けに行ってあげて下さい。」

「……!……ごめん……それは出来ない……絶対に。」


何かを堪えるように小栖立は言う。


すると真は残っている方の腕を動かし、小栖立の手を掴む。


「ひゃッ!」

 

そして曇り無き眼で小栖立を見つめ、言った。

 

「僕は……誰にも傷ついてほしく無い……だから……お願いです小栖立さん……ミルを……!」

「……それでも物語くんを置いて助けに行くなんてことできない!……今、私が一番助けるべき人は目の前にいる貴方なの……!」


手を振り解き、小栖立は回復魔法を再びかけようとする。


しかし……


「……あれ…血が……止まって……」


右腕から流れ続けていた血はいつの間にか止まっていた。


「……言ったでしょう僕は不死身だって。」


小栖立は真の顔を見る。


「腕が切られたくらいじゃ僕は死ねない。」

「……ッ」

「でも、ミルはそうじゃない……彼女は不死身じゃ無いんです。」


ゆっくりと手を上げ、再び真は小栖立の手を取る。


「死ぬ痛みって言うのは…存外……辛いもんですよ。」


真は、はにかみながら言った。


「……ずるいよ…その言い方は……」

  

小栖立は俯き呟く。


やがて、顔を上げると真をお姫様抱っこで持ち上げ、近くの木陰へとそっと下ろす。

 

「……行ってくる…ただし、絶対安静にして待っててね……物語くん片腕取れてるんだから……約束……」

「……はい、約束です。」


不意に僕が小指を出すと、小栖立さんは目を丸くし、やがておずおずと自身の小指を僕の小指にくっつける。




「――じゃあ……すぐ戻るね!!」


それだけ言うと小栖立さんは、その場から一瞬にして走り去って行った。





「――ふぅ……ごめんね小栖立さん……」


小栖立がいなくなったと同時に真は体の力を抜く。見ると、切られた方の腕の出血は未だ止まってはいなかった。


小栖立さんをここから離れさせる為に一芝居うったのだ。腕の出血だって全身に力を込め血流の流れを一時的に止めていただけにすぎない。


不死身が故の荒業――


「約束……守るつもりは毛頭無い」

 

あぁ……まただ……


「だって……」


また……そうやって嘘をつく


「僕は……目的の為に手段を選ぶつもりはないのだから……」

 

嘘をつく度……僕は僕自身の人間として欠けてはいけない何かが少しずつ欠けていっている……





「――嗚呼……死にたい――」





そう感じるんだ

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