探索者ランキング
「この量を毎回お届けできる訳ではないのですが」
僕の言葉に五十嵐さんが小さく肯いた。隣に居る邪神ちゃんは僕の肩に頬を乗せて目を閉じているようだ。
「もっと少なくていいけれど、出来れば定期的に欲しいと思っている」
段々と音量が小さくなるように呟いた五十嵐さんは、僕の顔を見ながら言った。僕は少し首を傾げる。今のところダンジョンに入れるのはランカーに絞られているだろうし、どこのダンジョンも進化していてランカーとはいえ探索者が気軽に入って魔石が集められるとは思えなかった。
そうかと言ってトップクラスのランカーが魔石だけを集めるとも思えないし。どうやって話を進めようか考えていると、魔石を分類して収めている機械が、フォンと聞いた事のない音を出した。
僕と五十嵐さんがそちらを見ると、座って作業をしていた佐藤さんが立ち上がってこちらを見ていた。
「この魔石の元のモンスターが、協会の図鑑に未登録です」
そんなのがいたのか。どれだろうか。
僕が佐藤さんの隣に歩いていくと、佐藤さんは機械についているモニターを動かして画面を見せてくれた。
〈未登録モンスターの魔石・エネルギー変換率/2000〉
僕にはよく分からない数字が、下の段にも並んでいるが見るのは止めた。夜遅くの徹夜っぽい頭では理解が難しそうだったから。
「解析は出来ないのですか?」
僕の声に佐藤さんが答える前に、機械から声が出て来た。
(解析できます。解析後にそのまま登録いたしますか?)
佐藤さんがぎょっとして機械を見るが、邪神ちゃんが肯いたので僕は声に出して命じることにする。
「解析後、登録して」
(はい。分かりました)
今度は僕の顔を見た佐藤さんがバカでかい溜め息を吐いた。
「…魔王さま、一応これは協会の機械なのですが」
協会の職員さんにまで魔王と呼ばれるとは。
僕の後ろにいた五十嵐さんが困ったように笑い声を上げた。
「もう申請されてしまったのならば、仕方ない。我々が登録するよりも正確にされるのならば、良かったんじゃないか?」
「…本部長がそう言われるのならば」
佐藤さんがそう言って機械を眺める。魔石の大きさが大きくなるにつれてフォンという音が連続で鳴りだしたが、佐藤さんはもう何も言わずに画面を眺めて書き留める作業を継続していた。
「では僕はこれで失礼します」
いい加減疲れていた僕はそう言って探索者協会を出た。まだ暗い外には協会の傍のダンジョンに潜るための探索者が数名うろついていたが、僕を気に留める事なく歩いていく。
遅い帰りでも静は文句も言わずに対応してくれた。夜食を食べてベッドに横になったら、一瞬で気付かぬうちに寝ていた。
どれだけ疲れていても何時も通りに目が覚めて、僕は寝起きの頭をかきながら階下へ降りる。
「おはようございます、有架さま」
「うん、おはよう、静」
キッチンテーブルの椅子に座って、リモコンでテレビを付ける。指先で撫でただけなのに、なぜか邪神ちゃんには溜め息を吐かれる。いいだろ?好きなんだよリモコン。
何時も通りの画面が映り、いつものレポーターさんが街並みを背景にマイクを構えている、そんな画像をぼんやりと眺めている。
けれど、レポーターさんの表情はいつもと違って酷く興奮したように、目を見開いて赤い顔をしていた。
『では皆さまからのリクエストが殺到していた、探索者ランキングを久々に発表します!大きな変動に、皆様の叫び声が聞こえるようです!』
大きな声で話し始めたレポーターさんを、遠巻きに囲んでいた町の人達がじっと注目をして足を止めた。何人もがスマホを構えだす。動画でも取るのだろうか。
『第十位はクラン〈神の焔〉の姫見 結愛さん。第九位は同じクランの春日 陽向さんです。今回の事態にもめげずに、果敢にダンジョンに潜られたと聞いています。第八位はクラン〈籠目〉の久保田 睦さん。第七位は同じクランの澤田 楓さん。このクランは大阪では有名なクランです。今までランクインしなかったのは十位以内に入れなかっただけだそうです』
そして少し眉を顰めてから、レポーターさんが大声を出す。
『そして第六位は、なんと〈天原に征く〉の藤原 鈴菜さん。今まではランキング不参加と申請されていましたが、今回から参入との事。これまでの成績がないのは悔やまれますね。そして第五位が津島 大和さんです。不動の第二位だった津島さんが初めてのランクダウン!さすがの〈天原に征く〉も、今回の事態にダンジョンでは辛かったのでしょうか』
レポーターさんの声に、辺りの群衆が騒めいた。
『そしてなんと!!第四位は〈光輝の勇者〉の近衛 蓮さんです!!』
その声に、辺りがしんと静まった。
かざしたスマホを下げてレポーターさんを驚いた顔で見る人たちが、何人も画面に映る。僕も画面をじっと見つめてしまった。
僕が探索者になろうと決めた時にはもう、ランカーツートップは不動だったから。
『今まで何年も不動だったランキングが、今回の大事件で大きく変動しました。ダンジョンパニックはランカーといえども手に負える事件では無かったのかも知れません』
少し目を閉じてレポーターさんがうんうんと頷く。しかし周りの人たちは彼女の声に真剣に耳を傾けている。
『いよいよ第三位の発表です。第三位は元のクラン名〈悠久の旅人〉の伊達 悠斗さん。第五位からランクアップです!第二位はクラン〈雷の光〉の富士 海斗さん。富士さんも第八位からのランクアップ!伊達さんよりも激しくランクが上がっています。このお二人は今回のダンジョンパニックで活躍されたそうです』
僕は静から受け取った湯呑に口を付ける。酷く口が渇いていた。
『そして今回のランキング第一位は!!』
興奮しているレポーターさんがマイクを持っていない手を、ブンッと天に伸ばした。
『結成して僅か数か月のクラン、〈漆黒の魔王〉の九条 有架さん!!今回のダンジョンパニックの全てを治めた現代の魔法使いが、堂々のランキング一位です!!』
お茶を吹かなかっただけ、誰か褒めて欲しい。
多分、呆然と画面を見ていたと思う。僕の眼の前で邪神ちゃんが手の平を何度も振った。顔を見ると嬉しそうににっこりと笑う。
「今日から大変だねえ、有架」
いや、これは、全くの想定外です。
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