俺ら、そんな安くねぇかんな4


 年季の入った木製の扉を押し開くと、カランカランと音が転がる。


 永田は電話の声の主、ドールの正体を知らなかった。

 この店の中からそれらしき人物が探し出せるのか?


 扉のすぐ横でイヤホンをして動画視聴に夢中になる男――ガタイのいい体つきからはあの軽やかな英語は想像できない。違う。


 右手のカウンターの奥でアイスコーヒーを啜る、耳にピアスを付けた男――怪しいが、ゴツい指輪とバングルから気軽に話しかけていい雰囲気を感じられなかったので保留。


 奥のお手洗いからハンカチ片手に出てきた男性――便利屋、何でも屋と言うにはあまりにも普通すぎるので、可能性は低い。


 永田は店の奥に踏み入れ、中央の柱の向こう側を覗く。


 こちらを向いて男が二人、丸テーブルの片側に寄るように座っている。

 片方は白い肌に高貴な雰囲気を漂わせる鼻筋の通った男。

 もう一人は店内でもカラーサングラスをつけているが、座っていても分かる高身長と持て余すほど長い足をしていて――あれだ、と思った瞬間、サングラスをかけた男がこちらに気付いて手を振った。


「永田サン。こっちこっち!」


 声の通り具合からしてまだ二十代と伺える。

 というか、俺の顔をどこで知った? 


「アンタらが何でも屋……ドールか」


 若くして定職もつかず不安定な生業をしている青年二人、これがドールの正体か――取っ組み合いにならない限り警戒する必要はないだろう。


 向き合うよう浅く腰掛ける。長居するつもりはなかった。


「それで、依頼した写真は?」

「お先に料金の方をいただけませんか?」

「いいや、写真が先だね」


 先程も言った通り、便利屋を相手に長居する必要はないのだ。

 所詮相手は便利な何でも屋。永田は圧をかけるように語気を強めた。


「写真が、先だ」

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