6 インチキ男装テクニック
「ほう……私の事を知りたいって話で最初にそれかぁ。ふーん、エッチじゃん」
「あ、いやいやいや、悪い。流石にこれはデリカシーなさ過ぎたか……!? ナシナシこの話!」
からかうように言ってきた渚にそう返すと、渚は少々顔を赤らめながら小さく笑みを作って言う。
「いやいや、一回私から触らせといて何言ってんだって話だし、さっきも言ったけど絶対気になる話だし……あとそもそもの話、ついこの前まで男子中学生特有の猥談に参加してきたんだよ。この程度今更じゃん」
「前半部分はともかく後半部分は男だと思ってないとやらないだろ……」
「そんなもんかな?」
「そんなもんじゃね?」
「でも少なくとも明人が私に言う分には気にしなくても良いと思うな。そういう仲じゃん私達」
「今そういう風に纏められると、凄く如何わしい仲みたいになる!」
「で、どういう風に隠してたかって話だったね」
「お、おう……」
渚は人差し指をピンと立てて言う。
「例えばサラシを巻くとかさ」
「ああ、なんか漫画とかで男装してるキャラがやってた気がする……」
とはいえ。
「でも完全には無理じゃね? その……今のお前を無にするのは流石にっていうか……いや、どうなんだろ……」
できるのだろうか。
当然そういうのを巻いたりする事に関わった事が有る訳じゃ無いのでさっぱり分からない。
……分からないけど。
「いや、さっき例えばって言ったよな。これに加えて他に何かあるって事か?」
「流石、鋭いね明人」
そう言って渚は右手の親指と人差し指で小さな隙間を作って言う。
「ちょっとインチキもしました」
「インチキ……ね」
仮に胸にサラシを巻くという行為を正当という立ち位置に置くとしたら、インチキとは…………いや全然分からん。
少なくとも、普通に小さく見せる手段が有るとすれば、それもきっと正当側だろう。
そこから逸脱しているとすれば……なんか、もうこういうパターンもあり得る気がしてきた。
「もしかしてだけど……この話題、ちょっとファンタジー入ってる?」
少し非現実的要素があるのかもしれない。
普通に考えたらおかしな話だけども。
そして渚は指をそのままに答える。
「うーん、小さじ一杯位? 隠し味程度だよ」
「隠し味の主張強すぎません?」
入れたらもうその味しかしなくなりそう。
「……って、マジでそんな感じなの?」
「ま、古い神社の家の娘だからね。そういう風に小さく見せたり、男っぽい雰囲気を出す程度の事ならできるよ」
「古い神社ってそんな便利アイテムじゃなくね?」
「まあ確かに」
「いやでもマジか……すげえ」
「……なんか反応薄いね。結構非常識な事言ってるつもりなんだけど。それこそインチキっていうか、ちょっとした魔法みたいな物じゃん。もっとうおおおおおってなる奴では?」
「今更何が出てきても、親友が女だったって衝撃に勝る事ねえよ」
「これは朝から刺激的すぎる物を見せちゃったかな」
そう言って笑う渚に、ちょっと聞いてみる。
「ちなみにそのインチキっていうか、魔法みたいなのは今使えたりすんの?」
「気にはなるんだ」
「まあ流石にな」
だって普通に見て見たいだろそれは。
だけど渚は言う。
「よしきた! って他の事ならノリノリで言うかもしれないけどさ、これはちょっと嫌かな」
「なんか手間掛かるとか……じゃねえなこれ。それもあるかもしれねえけど違うわ」
言ってる途中で気付く。
「多分そうする事自体が嫌なんだろ、今のお前的には」
「まあようやくこうして自分を出せてるからね……流石明人。名探偵だ」
「どういたしまして。そんな訳で別に見せなくても良いからな」
「一応どうしてもっていうならやっても良いけど」
「お前が嫌なら駄目だろ」
「……ほんと、流石明人って感じだね」
「こんなのは俺じゃなくても当然の事だって」
「どうだかなー」
と、そんなやり取りをしている内に高校の最寄り駅行の電車がやって来る。
「おっと、キリが良いね。続きは乗ってからだ」
「だな」
「席空いてるかなー」
言いながら席から立ちつつ考える。
……ファンタジー、か。
非現実的な事を見せられた上でそんな要素まで飛び出てきた訳だけれど……ほんと、秋瀬家の家庭の事情はどうなっているのやら。
さっきの話の流れでその事情を詮索するつもりは無いと改めて考えた。
その上でもしやるならそうすべきだと思った時だって。
でも仮にこの先そういう時が来たとしても、なんとなく自分にできる事なんて殆ど無さそうだなとより一層思った。
元より人の家の家庭事情な上に、そんな要素まで絡みだすと流石にな。
……まあ本当にもう、終わった事ではある以上、そうすべき場面事態が来る事は無いとは思う訳だけど。
そんな事より。
……ひとまず優先順位的にはそんな事よりだ。
まだまだ現実的な話で、考えないといけない事が有る。
こうして改めて女だった渚と話しながら湧いてきた、考えなければならない大きな問題がある。
今はそれを含めた現実的な事の方が優先だ。
そう考えながら、渚と共に電車へと乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます