ex 僕には戦う権利が与えられていない
先輩との通話を終えた後、中学の男子制服に身を包む秋瀬楓は複雑な面持ちで小さく息を吐く。
今日はとてもめでたい日だ。
姉の誕生日であり、そして特別な日。
誰が考えたって時代錯誤で馬鹿みたいだと思えるルールから解き放たれて自由になれる日。
(良かった……うまくいきそうだったな)
先輩の様子を見る限り、当然のように困惑している様子はあっても自分を曝け出した姉を拒絶している様子はなくて。
だとすればあの二人ならば、この先悪いようにはならないだろう。
なる筈が無い。
紆余曲折はあるかもしれないけれど、それでも。
二人の事を良く知っているからこそ確信が持てる。
……現実的に、秋瀬渚が望んだ結果が見えてくる。
「大丈夫かな!? 誰かに明人盗られたりしないかな!?」
不定期に、そして高頻度で。
昔からそんな不安を自分に吐露してきた姉の、臨んだ未来が見えてくる。
ようやく真っ当な形で恋路を歩み始めた姉の、そんな未来が。
「……」
それはきっとめでたい事だ。
誕生日と一緒に祝うべき事だ。
ずっと見て来たからこそ、そうあるべきなのだ。
そう考えながら。
そう言い聞かせながら、少し前まで一緒に居た人達がいない通学路を歩く。
道中、通学路にある店の窓ガラスに反射された自分の姿が視界に映った。
当然のように可愛げのない男子の制服。
見られたい姿とは真反対の姿。
偽り。
「……なんだこれ」
苦笑いが零れる。
あと二年だ。
中学三年生で三月生まれの自分が、姉のように素の自分を他人に曝け出せるようになるまであと二年。
そうするべき理由をちゃんと理解している、決して破ってはいけない縛りから解き放たれるまであと二年。
楠明人という、本当の自分を見て欲しい相手の前で、見て欲しい自分を表現できるようになるまであと二年。
あまりにも、長い時間。
その頃にはきっと、全部終わっているだろう。
祝福すべき未来が訪れているだろう。
「…………なんだこれ」
姉の幸せな戦いは始まった。
では、秋瀬楓は。
最初から、戦う事すら許されていない。
それは、分かっていた筈なのに。
ずっとずっと理解していた筈なのに。
(……めでたいって思えないや。最低だな、僕って。大好きな二人の事なのに)
ずっと、理想の未来を掻き消せない。
秋瀬楓自身の、理想の未来を。
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