第4話 本部

 20分後、車から降りると、目の前には大きな5階建ての重厚感のある建物がそびえたっていた。えっと。てっきりご飯を食べに行くものだとばかり…。そう思った矢先、ほむらが慌ただしく告げる。


「言い忘れたが、私は秘密警察の幹部かんぶだ。ここは、その秘密警察の本部。私の職場だ」


「ひ、秘密警察?」


 唐突な言葉に驚く私。そこへすかさず、カラスのヤトが突っ込む。


「おいおい!そんなことも話してなかったのかよ」


「話そうと思ったら君が来た」


 私はまじまじと建物全体の1階から屋上まで見る。屋上には大きな旗。すっかり暗くなって、どんな旗なのかはわからないけど。


「ちなみに、ヤトも私の仲間だ。情報収集や凪の護衛を担ってくれている」


 はにかむヤト。足でゴシゴシと頭をかく。


「はあ」


 話を聞きながら、私は力なく相槌あいづちを打った。まだわからないことだらけだけど、どうやらこの焔とヤトは私の味方みたいだ。


 すると、焔は運転席のグローブボックスを開けてドライフルーツを取り出し、ステンレスのボウルにザラザラと入れ、ヤトの前に差し出した。


「君はここでお留守番だ」


 ヤトは一瞬嬉しそうな顔をするが、すぐに不服そうな顔で焔を睨む。


「君の好きなイチジクのドライフルーツ、入れておいたから」


 ヤトはプイッと横を向いて、それなら仕方ない、という表情を浮かべて焔を見つめる。


「1時間ほどで戻る。行くぞ、凪」


 そう言うと、焔は運転席の扉を開けて外へ出る。私も3秒ほど遅れて外へ。前方を見ると、すでに焔は歩き出している。私は小走りで、焔を追いかけた。


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 サーっと自動ドアが開き、私は秘密警察の本部に足を踏み入れる。高い天井、館内の奥には大きな掛け時計と円形のエンブレムが飾られている。


 エンブレムには「SPT」の文字。


「SPT…?」


「秘密警察『Secret Police Taskforce』、通称『SPT』だ」


 私は息を呑んだ。なんか、ドラマでしか見たことないけど、アメリカのFBIとか、CIAみたいな感じだ。なんとなく、格好いい…。呆然とエンブレムを見つめる私を気にも留めず、焔は話を続ける。


「あんなことがあったばかりだし、外は危険だからな。ここの食堂で食事でもしながら、詳しく話そう」


 そう言うと、焔は再び颯爽さっそうと歩き出した。


 10分後。私は広々とした食堂の窓際のテーブルにちょこんと座っていた。


 窓からは美しい夜景が見える。


 焔はこの世界が私にとってのパラレルワールドだと言っていた。それに、さっき私を襲ってきた黒装束の小男。あの男は、確かに私を「幸村凪」と呼んだ。


 どうして、私を知っているんだろう?


 一体何が起きているんだろうか?


「待たせたな」


 窓から前方に視線を移すと、片手に2枚ずつ器用に皿を乗せた焔が立っていた。ウエイトレスさながらの仕草で、丁寧に皿をテーブルへと置く。


 ハンバーグ、野菜サラダ、ハーブが乗ったチキングリル、コンソメスープ、チーズフォンデュ、フルーツ盛り合わせ…。レストランのような豪華な料理の数々を見て、私は思わず声を上げた。


「え?あ、あの」


「足りないか?」


「…いえ、十分です。ありがとうございます」


 私は会釈をする。


「そうか」


 素っ気なく腰を掛けると、焔はいよいよ本題について語り始めた。

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