第20話 クロエの学院生活

 クロエ達は、王立学院に入学してから全く何事もなく順調に学院生活を送っていた。しかし一学年上のアーサー王太子がいつもクロエを探して学院内をウロウロしているため、クロエは感知魔法を使って王太子達に一切会わないように注意して過ごしていた。


そして王立学院の前期の授業も終わりに近づき、クロエ達は初めての学期末試験を向かえていた。


「クロエ、試験勉強しなくていいのか?」


ロアは、辺境伯のタウンハウスで、辺境伯産のワイルドベリーのジャムと練乳をのせたかき氷を食べていた。ブラン辺境伯領は北に位置しており夏でも涼しいので、そんなにかき氷を食べたいとは思わなかったが、ヒューマン国の王都は南にあるため夏は暑い。クロエはロイに氷製造機とかき氷器を作ってもらい、辺境伯のタウンハウスでかき氷を楽しんでいた。


「前世の日本での教育レベルと比べたら、この学院の試験なんて小学校レベルよ。歴史学とマナーの試験勉強だけ少しやればいけるかな?ルカはどう?」


ルカはかき氷の器をテーブルに置くと「余裕だろ」と言って、このタウンハウスに設置するための電磁波&超音波発信魔道具の設計図を確認していた。



学院の生徒達は、試験のために図書館に通ったり各教科の教師に質問したりと学院内はザワザワとしていたが、あっという間に学期末試験が終わり、学院の生徒用玄関口にトップから50位までの試験結果の順位が3学年分すべて貼りだされた。


<第一学年>

1位 500点満点 ロア・シルバーズ

1位 500点満点 ルカ・シルバーズ

3位 495点   クロエ・ブラウン

4位 490点   シルビア・ビースト


「ルカとロア、満点じゃない!私、マナーの試験、1問間違ったわ~。ヴァンパイア国のマナーと勘違いしちゃったわ。あら、第二学年の順位は10位までしか発表されてないのね?」


「あぁ、王太子の順位が下位過ぎて発表できないからってことらしいぜ。おっ、噂をすれば……」


王太子とその側近候補達が、クロエ達に向かってやってきた。


「俺の婚約者のクロエ・ブラウン!やっと見つけたぞ!前期も終わるというのに、俺に挨拶もしに来ないとは、俺に罰を与えられたいのか!」


(うゎ~、学院内で合わないように避けてたのに油断したわ)


「殿下、私は殿下の婚約者ではございません。王宮に提出している私とルカの婚約届を早く受理していただきたいと王妃様へお伝えください」


「俺がお前を婚約者と決めたのだから、これは決定事項だ!たかが辺境伯の娘が王家に逆らったらどうなるか分かっていないようだな」


「殿下こそ、全く分かっていないようですわね。王家がブラウン辺境伯家を敵にまわしたら、この国がどうなるかよく考えたほうがよろしいかと」


クロエが冷たい目で睨み返すと、王太子の後ろに控えていた側近候補達がクロエ達の前に出てきて喚き出した。「この女、生意気だぞ!捕まえて痛い目に合わせましょう。そうしたら殿下を恐れて言うことを聞くようになりますよ!」


「それもそうだな。お前らこの女を拘束して王宮に監禁しろ!」アーサー王太子は歪んだ笑みを浮かべ側近達に指示をしたが、クロエの側にいたルカとロアの氷点下の視線に気が付くと、ヒッ!と怯えて自分の護衛の後ろに隠れた。


「やっぱ、馬鹿だなこいつ」ロアは小声で呟いた。


側近候補達はクロエを捕まえようと前に出た瞬間、彼らの足元に落とし穴のように黒い闇が広がった。


「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」」


そして王太子1人を残し、側近候補達は黒い闇の穴に落ちていった。


一人残された王太子は、「えっ?」と青い顔をして動けなくなっているところを護衛に担がれて去っていった。


「ねぇ、ルカ。彼らをどこに飛ばしたの?」


「闇の中に10年閉じ込められた記憶を持たせて、寮の前に放り出したよ」


(えっ、それって凄いトラウマになりそうなんですけど……!)


何事も無かったかのように、すでにカフェテリアに向かって歩き始めていたロアは、2人を振り返って大きく手招きした。


「そんなことより早く昼飯食いにいこうぜ~。スベシャル魔獣肉コンボのランチセットが無くなっちまう!」


((いや、誰も注文しないから。絶対残ってるから!))




クロエ達がカフェテリアでランチを食べていると、ビースト国のアランがクロエ達の座っているテーブルにやってきた。


「クロエ様、学期末試験3位おめでとうございます。御付のお二人も成績優秀ですね。ぜひ、私もクロエ様に勉強を教えて頂きたいですね」アランは長い黒髪をサラッと手でかき上げながらクロエに魅了をかけようとクロエを見つめた。


ロアは、ダルそうにアランを見ると「クロエには魅了かかんねーから」と口の端を上げてニヤリと笑った。


ランチ時間を邪魔され、そして先ほどの王太子の件もあって少し気分がイライラしていたクロエは、無表情な顔でいきなりガタン!と立ち上がり「解術」と呟くと、学院内が一瞬、眩しい光に包まれた。そして、アランが学院内の生徒や教師達にかけていた魅了が一瞬で解術されると、アランはあわてて周りを見回しながら、青ざめた顔をして小走りで去っていった。


「あいつ何がしたいんだ?クロエにハニートラップ仕掛けるならもっと考えた方が……」ロアが言いかけると、いつも無表情なルカが、苛立った様子で被せるように言った。


「消すか……」


クロエは、すんっとした無表情でルカの後頭部をパシッと叩いた。


「留学生を消したら、国際問題になるから。消すなら完璧に、痕跡を残さないでね、ふん!」クロエは大きく切った肉を口に入れると、イライラしながらモグモグと咀嚼した。


「あぁ、俺なら完璧に消せる……」ルカも無表情で答えた。


「お前ら、物騒だわ。侯爵家の御令息と辺境伯の御令嬢なんだから、少しは猫被れよ~」


「「猫は不要だ(よ)」」


(ん~、ホント、こいつら意外に気が合ってんだよなぁ~)


* * *


 授業が終わりクロエが寮へ戻ると、シルビア王女がクロエの部屋の前で1人立ちすくみ、クロエの帰りを待っていた。


「シルビア様、どうされたんですか?とにかく、部屋へお入りください」2人が部屋に入ると、メイがサッとお茶の準備をして退室していった。


シルビア王女はお茶を一口飲むと、ふぅ……っと小さく息を吐きクロエに話始めた。


「クロエ様、今日はアランが大変失礼いたしました。アランは今日限りで学院を辞めてビースト国へ帰国することになりました」


(えっ?何で急に?)


「ビースト国王から帰国の要請があったようです……」


(えっ、彼はシルビア王女の監視役じゃなかったの?)


「シルビア様も帰国されるのですか?」クロエは心配そうに訊いた。


「いえ……。私にも帰国の要請があったのですが、私はビースト国へは戻らないつもりです。ビースト国王が何か謀をしているらしく、今私が国へ戻ったらもうここには戻ってこれないような気がするので……」


クロエは少し考えてからパッと顔を上げると、シルビア王女に笑顔で提案をした。「シルビア様、夏休みを辺境伯領で過ごしませんか?」


「えっ……。それは、とても嬉しい提案ですが、私が辺境伯領へ行ったら皆様にご迷惑をお掛けしてしまいます。あの国王が何か仕掛けてくるかもしれません」


クロエは悪い笑顔を王女に向けながら「辺境伯領にはそう簡単に仕掛けることは出来ませんよ〜。シルビア王女はダン兄様と交流を深めていただいて、他のことは私達に任せておいてくださいね。辺境伯の両親と師匠にこれからのシルビア王女の動き方を相談しますので、シルビア様は旅行の準備をしておいてください。うふふ、楽しくなってきたわ~」


(クロエ様!笑顔がコワいです~~~!)シルビア王女は、引きつった笑顔でクロエに頷いた。

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