4月8日(火)陰謀
アシベルはこの日、微損で戦いを終えた。
今日も居酒屋やっほーで簡単なスナックとお冷を注文する。
聞こえてくる話によれば、
今日はかなり多くの銘柄が寄り付きで飛翔したようだ。
フジクーラなどはストップ高を記録したらしい。
「もう相場はわからん。なんで昨日のストップ安から今朝ストップ高になるんだ? 昨日多少の反発を予想する奴はいたが、大幅下げになるかもしれないって結局みんなビビってたじゃねーか。俺もこんなときに買い玉を持ち越す奴は馬鹿だって思ってた。だが俺の方が間違っていたとはな。まったく昨日買って買い越した奴は勇者だよ」
「そんな奴ほとんどいないさ。少なくともこのニッ家にはな」
「違いねえ」
どうやら昨日と同じ二人組だ。
基本的に勝ち組らしい二人は、
今日もビールを飲みながら相場を振り返っている。
ストップ安からのストップ高。
これに近いことがあちこちの銘柄で同時に起こった。
なんとも不自然な値動きだ――とアシベルが思っていると、
分析好きな方がジョッキを置いてこうつぶやいた。
「どうにも怪しいよな」
「何が?」
「俺は今回の爆上げをアメリ―家の陰謀の可能性があると思うね」
「どういうこった?」
聞いて、連れはぐいとジョッキを煽る。
「翌朝ストップ高に近い値で寄り付くには、前日あるいは夜のうちに大量に買われていなきゃならない。だが、あの地合いでストップ安になった銘柄を爆買いできる奴がどれだけいるんだ? 当たればでかいが、かなりリスクを伴う行為だ。そんなことが出来るとしたら予知能力のある魔導士か、あるいは――」
「爆上げを引き起こした張本人――、か」
「この前、トラン・プが言ってたことを覚えているか?」
「ああ、なんか言ってたな。詳しくは覚えちゃいねえが」
「"Be Strong, Courageous, and Patient, and GREATNESS will be the result!" 我慢しろ、そうすれば凄い結果が得られるだろう――。トラン・プがこう言ってから数日足らずで、まさにその通りのことが起きたんだ。な、怪しいだろ」
「そう言われるとなんだかなあ。プから情報をもらっていた投資家や機関が暴利をむさぼる姿が目に見えるようだぜ」
世の中、同じことを考える人はいるもんだな、とアシベルは思った。
それが正しいかどうかは知る由がない。
陰謀論など所詮は立証できないファンタジーだ。
だが、これがアメリー家の陰謀ではなく純粋に計算ミスだったとしても、
このままお咎めなしなんて酷い話だ。
たかが計算ミスのせいで、
アシベルの集落では二〇〇万以上の資産畑を失った者の数が、
わかっているだけで五十人に達する。
アシベルの知り合いの冒険者も二人、
意味深なメッセージを残して姿を消してしまった。
それをアメリ―家は「間違えちゃったテヘペロ」
で済ませようというのか。
アシベルは人知れずこぶしを握りしめた。
薄い財布から勘定を支払い、店を出る。
国を相手に個人の冒険者ができることなど一つもないが、
必ずこの荒波を乗り越えてみせる。
アシベルはそう、胸に誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます