第一章:Rings of the World

(1)

「例えば、男と女の区別は自明のモノだと思われていた。前世紀までは」

 教官は、そう言っていた。

 でも……。

 僕達は「女」と呼ばれる人間達の事は良く知らない。

 僕達が生まれ育った通称「レーベンスボルン」には僕達と同世代の「女」は居ないし、研究員や教官達も圧倒的に男が多かった。

「では、稀な例だが、染色体を見ればXXでも先天的に男性ホルモンが多い者は『女』なのか? 更に稀な例だが、同じく染色体を見ればXXでも、X染色体上に、Y染色体上の有る筈の遺伝子が転写されている者は『女』なのか?」

 僕達も、いつかは外の世界に出て行く筈だ。

 その時の為の常識は教えられていた。

 同じ座学でも、他の授業で教えられた「男」と「女」の違いは判り易いものだった。

 でも、この授業は「女」にも色々と有るような事を言っている。「男」に近い「女」も、「男」とは違う「女」も居ると。

 どっちが本当なのだろう……?

 外の世界に出たなら……一見矛盾に思えた事は、こう見れば矛盾でも何でも無くなるのか……そんな風に思える日が来るんだろうか?

 それとも、僕達が作られた目的を果たした後も続く長い長い、気が遠くなるほどに長い人生が終る時まで、僕達は「女」を理解出来ないままなんだろうか?

。『自然』は余りにも膨大で多種多様で意味不明な『例外』を生み出す」

 それが、僕達を作った人々の考えだった。

 普通に自然に生まれた人間からは……どんなが出るか判らない。

 普通に自然に生まれた人間に、

 昔の人達は「もし、人間そのものを『改良』する方法が発達したならば、それを使って驚くべき超人を生み出せるだろう」……そう考えたようだ。

 だが、僕達は昔の人達の夢想とは、ある意味で正反対だ。

 スポーツ競技の「レギュレーション」の範囲内に収まるように調整された人間だ。

 異能力者と呼ばれる者達に代表される自然が生み出す「有り得ない」超人達とは正反対の、人の手により生み出された「厳格なルールが決ったスポーツにおける公平性を担保出来る範囲内」を超えないように調整された「人造の英雄」の候補……それが僕達だった。

 教室にずらっと並んだ……髪や目や肌の色や体格がほぼ同じ大量生産品の男達。

 それが、世界各国にされ、オリンピックや世界的スポーツ大会、そして、プロ・スポーツの次の時代の選手になる筈だった。

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