第2章:計画

 玲奈は、薫子の言葉に対してそれを初めて聞くかのような感覚を覚えた。美容外科医として、彼女は常に新しい技術に挑戦してきたが、薫子の提案は彼女にとっても未知の領域だった。二人は夜な夜な計画を練り、必要な技術や手順を検討していった。


 薫子のアトリエの中、古い木製のテーブルに広げたスケッチブックには、無数の線と色が描かれていた。柔らかな光が窓から差し込み、薫子の髪を金色に照らしていた。彼女の瞳は、夢見るように遠くを見据えていた。


「じゃあ、まずは皮膚からいきましょうか。そして徐々に体の形状も……」


 玲奈が専門的な見地から話す度に、薫子の目は輝きを増した。


「最後は背中に羽を……本物の蝶のように」


 薫子の言葉に、玲奈は不安と期待が入り混じった複雑な表情を浮かべた。


 二人の計画は、ただの医療行為とは異なる、アートプロジェクトとしての側面もあった。薫子の体そのものをキャンバスとし、玲奈の技術を用いて一つの芸術作品に仕上げる。それは、彼女たちの愛の結晶とも言えるものであった。


 計画が具体化するにつれ、二人の絆はより深まっていった。それは単なる医師と患者の関係ではなく、アーティストとミューズ、そして何より深い愛で結ばれたパートナーとしての絆だった。薫子の体を変えることは、玲奈にとっても自分自身を試す試練であり、同時に薫子への愛の証明でもあった。


「では皮膚の質感を変える手術から始めるのがいいでしょう。ナノマシンを導入して光の反射率を調整することで、肌を虹色に輝かせる」


 玲奈の説明に、薫子は頷いた。


「それから、筋肉や骨の形状を少しずつ調整していく。最終的には、背中に羽を移植するのよ」


 薫子は、玲奈の言葉を聞きながら、自分の体がどのように変わっていくのかを想像していた。それは、恐怖と興奮が入り混じった感情だった。しかし、彼女の中には確固たる信念があった。


「私は、自分の体を芸術に変えるんだ」


 果たして薫子の求める「芸術」とは一体なんだったのだろうか。彼女の中にそれは確固たる姿を持っていたのだろうか。


 玲奈は手術の準備を進める中で、次第に薫子への愛情が強くなっていくのを感じていた。彼女の体を変えることで、二人の関係もまた新たな段階へと進んでいくのだろう。玲奈は、自分の手で薫子を美しい蝶に変えることができるという自信とともに、不安も抱えていた。



 夜の闇が深まる中、玲奈と薫子はベッドの上で向かい合っていた。窓から差し込む月光が、薫子の虹色に輝く肌を幻想的に照らし出していた。その光はまるで二人の愛の証のように、部屋の中に優雅な雰囲気を醸し出していた。


 玲奈の瞳は、薫子の変わりゆく姿に釘付けになっていた。彼女の体は夢幻的な美しさを帯び、虹色の輝きが玲奈の心を捕えて離さなかった。その肌に触れるたびに、玲奈は柔らかな温もりとともに、まるで絹のような滑らかさを感じた。指先が薫子の肌に触れると、その感触は玲奈の全身に甘美な快感をもたらした。


 薫子もまた、玲奈の体に触れるたびに心が震えた。玲奈の肌は薫子にとって、安心感とともに強烈な誘惑を感じさせるものであった。薫子は玲奈の首筋に唇を押し当て、彼女の香りを深く吸い込んだ。玲奈の香りは、薫子にとって甘く、そしてどこかスパイシーな魅力を感じさせるものだった。


「玲奈、あなたの香りが私を狂わせるの」と薫子が囁いた。

 その声は低く、ほとんど囁き声で、玲奈の耳に心地よく響いた。


「薫子の肌、まるで夢のよう……」と玲奈は応じた。

 その言葉には、薫子への愛と欲望が込められていた。


 玲奈の手が薫子の腰に滑り込み、その曲線をなぞるように動いた。薫子の体は玲奈の触れ方に反応し、微かに震えた。玲奈はその震えを感じると、さらに強く薫子を引き寄せ、二人の体を密着させた。


 薫子の呼吸が早まり、その胸が玲奈の胸に触れたとき、二人の間に一瞬の静寂が訪れた。その静寂の中で、玲奈は薫子の心臓の鼓動を感じた。それは二人の愛のリズムであり、そのリズムに合わせて二人の体は動き始めた。


 薫子の指が玲奈の髪を優しく撫で、首筋から肩、そして背中へと滑り降りた。その触れ方は柔らかく、しかし確かな意図を持っていた。玲奈はその感触に身を委ね、薫子の体の温もりを感じながら、唇を薫子の唇に重ねた。


 その瞬間、二人の体は一つになった。唇が触れ合うたびに、甘くて熱い感覚が二人を包み込んだ。玲奈の舌が薫子の口内を探索し、薫子もまた玲奈の舌に応じた。その感触は、二人の愛と欲望をさらに深めるものであった。


「玲奈、もっと……」


 薫子の声は熱っぽく、切ない響きを含んでいた。


 玲奈は薫子の声に応じ、その体をさらに強く抱きしめた。薫子の肌の虹色の輝きは、二人の愛情の証として、夜の闇の中で一層鮮やかに浮かび上がった。その輝きは、二人が求め合うたびに強まり、部屋の中を幻想的な光で満たしていった。


 玲奈の手が薫子の背中を撫で、その指先が羽のように軽やかに動いた。その感触に、薫子は体を震わせ、玲奈の名を何度も呼んだ。その声は、玲奈の心に深く響き、彼女の欲望をさらに掻き立てた。


 二人は互いの体を求め合い、夜が更けるまで愛し合った。薫子の肌の輝きは、二人の愛の証として、夜の闇の中で一層鮮やかに浮かび上がり続けた。その輝きは、二人が一つになった瞬間を鮮明に照らし出し、彼女たちの愛を永遠に刻み込んでいった。


 そして、夜が明けるとき、薫子と玲奈はお互いの体を抱きしめ合いながら、静かな満足感に包まれて眠りに落ちた。その姿は、まるで一枚の美しい絵画のようであった。薫子の虹色の肌は、朝日の光を浴びて柔らかに輝き、玲奈の腕の中で安らかに眠る彼女の姿は、玲奈にとって何よりも愛おしいものであった。

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