第1話

私には悩みがあった。


バイト終わり、いつもの様に家に帰っている途中、誰かにつけられている気がした。


いつもならすぐに気配は無くなるのに。


「陽菜ちゃん」

「だ、れですか、」


どうして私の名前を


「へへへ、すごく会いたかった」

「っ、ストーカー...」


この人がいつも私をつけていたストーカー?どうして今日は話しかけてくるんだろう、


「ストーカーだなんて酷いな。俺あの店の常連客だよ?俺の事知ってるでしょ?」

だから私の名前を知ってるのか。


だけど、私はこんな人知らない


「あなたの事なんて知らないしです...それに、常連客だからと言って、後をつけていい理由にもなりません。こんな事されても困ります」


「俺はただ陽菜ちゃんの事が好きで...!」


この人、自分のことしか考えてない。


「私は好きじゃない...」


しまった、こういう人に刺激を与えたらだめなのに。


なんて、後悔しても手遅れで


「どうしてだよ!」

彼の手が私の腕をしっかりと掴み、逃げられないようにした。


「痛っ..離してっ、」

「お前が俺の事を好きだって言うまで、離さない!」


好きって言ったら離してくれるかもしれないけど…


やっぱりそうだよね!だと思った!なんて言って家に連れ込まれるかもしれない。


今の私に分かる事は、どっち道、私が助かる術はないって事。


「…好き、じゃない。あなたの事なんて別に好きじゃない!」


「お前…!」


どうせ助からないのなら、好きじゃない人に好きなんて言いたくない。


「その手を離してもらえるかな?」


この声は、


「白川さん…」


「大丈夫?」

「大丈夫です、」


「間に合って良かったよ」


「な、なんだよお前」

「俺?俺は陽菜ちゃんの彼氏だよ」


彼氏…?


「はっ、なんの嘘だよ。陽菜ちゃんに彼氏がいるなんて聞いたことないぞ!」


「それは陽菜ちゃんが照れ屋さんだから、バレるまで話さないでおこうって事にしてるだけ。ね?」


そう言って腰に手を回してきた。


「は、はい」


こんな時に考える事じゃないのは分かってる。

だけど、かっこよくてドキドキして、それどころじゃない。


「俺は信じない!信じない信じない!」

そう言って暴れだした。


白川さんはそっと私を背中に隠してくれた。その仕草だけで簡単にキュンとしてしまう自分がいる


「信じたくないだけだろ」


「じ、自分の彼女が連れ去られそうな状態でそんなに冷静でいられるわけが無いだろ!」


あぁ、自分が悪いことしてるって自覚はあったんだ。


「冷静...?そう見えてるだけで、怒りで自我を忘れそうだよ」

こんな怖い顔する白川さん初めて見た


ただならぬ雰囲気に怖気づいたのか、急に大人しくなった。

「まだ何か言いたいことでも?」


「…ここでキスしたら、お前達が付き合ってる

って信じてやる」


「は、」

はい!?あなたのためにどうしてそこまでしないといけないの!?


「陽菜ちゃん...」


し、白川さん、もしかしてやる気ですか?申し訳ないのもあるし..いや、申し訳ないのが99%だけど、ファーストキスだから...


その、するならもっとロマンチックな所で..とか、言ってる場合じゃないんだけど、


「ごめんなさい...」


こんな事に巻き込んでしまって、ほんとにごめんなさい


「俺とキスするの嫌?」


「いや、むしろ私なんかが白川さんとキスなんて...私なんて大して可愛くもないし、まだまだ子供だし、どこにでもいるような普通の...んんっ、」


なんでっ、どうして今キスを…!


「黙って」


「白川さっ..」




彼の唇が触れた瞬間、時間が止まったかのように感じた。

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